最終章 第12話 嘘ついたら痛い目を見る
「……っ! ん? お、おい! ここはどこだ! 何をしたカウィズ!」
「ここはワタシの思い出の場所。こっちの人生の最期の場所はここだって決めたの」
そこは青々とした草木が輝く広い草原。
雲一つない、澄んだ青空。遠目には真っ赤に塗られた魔王の別荘である城も見える。
「まさかここは世界の空白地帯? 勝手に俺をこんなところに飛ばしやがって!」
魔王城からこの地に飛ばされたワルケは「予定と全然違うじゃねえか! 俺が魔王の首を一突きして殺した後、一旦レフォ王国へと飛ばせって説明しただろうが!」と叫び、計画とは異なる動きを見せたカウィズに迫る。
「何とか言えカウィズ! これはどういうことだ!」
彼女の胸ぐらを掴んで怒りをぶつけるワルケは、他人の気配を感じて周囲を見渡す。
「は? あ、あれだけの人間を一斉にここに飛ばした? 何を考えてんだよこいつは?」
ワルケは気づく。
この草原には、自分とカウィズ以外にも魔王城を襲撃したレフォ王国の国民達も共に飛ばされたことに。
別の場所へと急に転移されて困惑している大勢の人々を目にし、言いようのない違和感を抱き始めたワルケだが、彼の手をカウィズは振りほどく。
それから彼女は自分の両肩を抱きしめるような体勢を取り、状況を飲み込めていないワルケのことを見ながら冷たくこう言い放った。
「魔王城を壊して。魔族を攻撃して。魔王さんを困らせて。魔王妃さんを悲しませて。勇者さんを悩ませて。お前達のことを、ワタシは絶対に許さない」
そして一気に自分の体に魔力を込めると、草原に反射するほどその肉体は赤々と発光し始めた。
「ワタシがアナタ達に手を下しても、それは人間が人間を殺めただけ。ここでみんなワタシと共に死んでもらう」
「まさかおめえ……自爆するつもりか!?」
「そうよ。これはワタシが過去倒してきた魔族への贖罪でもある。自分に執行する死刑」
彼女の言葉の意味を理解したワルケは唖然とする。
だがカウィズは覚悟を決めた目で彼のことを見ながら退路を断つ。
「大規模な魔力をチャージする時間が必要だけど。もうどこへ逃げても無駄。ここに飛ばした以上は死ぬことしか選択肢は残ってないから」
◇◇◇
「魔王様! 魔王城内にいた人間達が忽然と消えましたが何があったのですか!?」
勇者レザは魔王の場所へと息を荒げながら帰ってきたが、ゴヴァは呆然とした表情で誰もいない前方を眺めているだけだった。
「ど、どうされました?」
「大変だ。カウィズがワルケと……いやこの城に攻め込んできた人間もろともどこかへ行ってしまった。まさかあいつは……」
「カウィズ様が?」
先日の一件以降、レザはカウィズの顔を見ていない。
彼が魔王城へと足を運ぼうとしなかったことも影響しているのだが、いつもレザの自宅に不法侵入まがいのことをしていた彼女はすっかり姿を見せなくなったのだ。
だがレザは覚えていた。
ワルケによる魔王城への嫌がらせがさらに悪化し、おまけに何の罪も犯していない魔族達がレフォ王国の人間から襲われて怪我を負った時。
それでもその重い腰を上げないレザのことを見かねたカウィズは、彼に向かって思いの丈を叫んだことを。
「カウィズは当初、ワルケの側についたように見せかけて吾輩のことを攻撃しようとした。しかしあいつはワルケのことを騙していたのだ。そして隙を見て、ここを襲撃した他の人間ごと道連れに……」
顔を真っ青にしながら言葉を並べるゴヴァだが、一方のレザはすぐにこの部屋を出ようとする。
「魔王様。カウィズ様がこういう行動を取った責任は私にもございます。彼女が取り返しのつかないことをする前に、私達の手で止めましょう」
さらに彼は続ける。
「シルヴェ様を見つけ出した時と同様の方法です。イーファ様の魔力探知能力を使ってカウィズ様を見つけ出しましょう。そしてその場にワルケ様もいれば、そこで決着をつけます。コワシェ様から有力な情報を手に入れましたから」
◇◇◇
世界の空白地帯でもある草原。
ここでは人間達の阿鼻叫喚を全身に浴びながら、カウィズがその肉体に魔力を込め続けていた。
「や、やめてくれ! こっちはワルケ殿下の恋人の敵討ちのために動いていたんだ! 個人的な恨みで魔王城を襲っていたわけじゃない!」
「そ、そうだ! これからは投石とかしない! だから殺さないでくれ!」
命乞いをする者もいれば、どうにか離れようと走る者もいる。それでも魔族を庇うカウィズのことを口汚く罵る者もいた。
しかし彼女の決意は揺るがない。
「この草原はかなり広大。近隣国に助けを求めることなんて不可能よ。それでも逃げるような人がいたら。全員消せるようにさらに爆発の範囲を広げるまで」
鬼気迫る表情のカウィズはどんどん体に魔力を溜める。
「ワルケ殿下! あの女のことを止めてくださいよ! 我々は殿下の言葉を聞いて立ち上がったんですよ! なのに、なのにこんなのはあんまりだ!」
ある国民の言葉が耳に届くワルケ。
だが彼としてもどうにかする術が見つからない。近づこうにも、彼女が周囲に展開している魔力によってすぐに弾かれてしまうからだ。
「(くそっ! 俺は魔法が使えない! どうする! どうすればここから逃げられる!?)」
頭を悩ませるワルケ。だが彼は自分以外の民衆の命のことなど考えてなかった。
そしてこれが彼の本性。
ワルケにとって自国民はあくまでも『駒』だ。それに犠牲者が出ようとも『最後に自分がゴヴァの首を取れればそれで済む』という思考がベースにあった計画を練っていた。
ただし彼は万策尽きた。
ワルケは何の特殊能力も持っていない。あるとすれば鍛えて身につけた腕力のみ。しかしそれさえも今はカウィズに通用しない。そうなればここで死を待つのみだ。
諦めたように膝から地面に崩れ落ち、青空の広がる空を見上げるワルケ。
ところがそんな彼の目に飛び込んできたのは……。
巨大なガーゴイルであるイーファに乗った勇者レザと魔王ゴヴァの姿だった。
「な、何!? あ、あれは魔王と勇者!?」
ワルケの声が聞こえたカウィズも、驚いたような表情を見せて同じように天に視線を送る。
「そんな……どうして!?」
それからイーファが地面に着地すると、レザとゴヴァの両者はカウィズ、ワルケ、そして逃げまどう人間達のところへと歩みを進めていく。
「残念だったなカウィズ。吾輩、意外とブラック企業の経営者タイプなんだ。魔王城を去るにはそれ相応の理由を直接述べてもらわなければ困る。退職代行は使用禁止だ」
驚くカウィズに向かってこう言いながら近づくゴヴァ。
さらにその隣にいるレザは、草原の上で座り込んでいるワルケに向かってこう明かした。
「お久しぶりですね非志海間助さん。私はあなたの同期社員、真留村富士夫です」




