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最終章 第10話 前倒しの襲撃

「た、大変です勇者様!魔王城を多くの人間が取り囲み、武器を持って城内への侵入を試みようとしています!」


魔王城に宿泊していた勇者レザは、ガーゴイルのイーファからこのような声をかけられて目を覚まし、慌てて飛び起きる。


そして急いで着替えながら「襲撃は昨日から2日後、つまり明日のはず・・・」と呟き、走って魔王ゴヴァへの下へと向かう。


「魔王様!おはようございます、早速ですが今の状況について教えてください!」


そしてゴヴァの下へと到着したレザだが、魔王は険しい顔をしながら魔族達からの報告を聞いていた。


「おう勇者、起きたか。完全に隙を突かれたな。今日ワルケのところへと向かおうとしたんだが・・・油断していた。部下達の疲れも溜まっていたから警備を少し手薄にしていた吾輩のミスだ」


部屋の中に飛び込んできたレザの顔を見たゴヴァは力なくこう口にする。


「やはり侍従長であるコワシェ様は嘘の情報を私達に・・・?」


「可能性はあるがまだ分からん。見張りは付けているんだが変な動きはしていないらしい。そう考えるのは時期尚早だ」


「確かに・・・不確定の情報で咎めるのは社会人失格ですね」


レザが苦々しくもこう答えると、ゴヴァは「お前はそんな調子でやってくれないとな。勇者レザまで焦ったら事態は落ち着かんぞ」と声をかける。


「こういう状況になったら仕方あるまい。魔族達には『死にそうになったら即逃げろ。そして人間のことは絶対に殺すな』と指示を出している。それにあいつらの標的は吾輩の首だろう?仮に魔王城に侵入を許したところで結局ここに来るんだ」


こう言ったゴヴァは天井を見上げるが、その姿を見たレザは少し考え事をするような素振りを見せた後、何かを決めたような表情を魔王の方へと向けた。


「魔王様。私はコワシェ様のところに向かってもう一度お話を伺います。どうにかワルケ殿下を止めることのできる方法があるかもしてませんので」


「了解した。ワルケがお前の言う通り前世の頃の同僚であれば、必ず自身の手で直接吾輩のことを狙いに来るんだろう?」


「はい。それには絶対的な自信があります。ワルケ殿下の前世が非志海間助という人間でしたら、絶対に最後は自分の手柄にするはずですから」


そしてレザの答えを聞いたゴヴァは、満足そうな表情をしながら深くイスに座り直した。


「だとすればこれはむしろ良い機会、飛んで火にいる夏の虫だ」





「「「「「ウォォォォォ!魔王城に侵入しろォォォォ!ワルケ王太子殿下のための道を開けろォォォォ!」」」」」


魔王城の外から響く、人々の大きな声。


それは悲鳴のようで。

怒号のようで。

どこか日常を楽しむような悦びの感情が混じっているようだった。


「おめえの作戦通りだったな、カウィズ。魔王城は今日に限って警備が甘い。ナイスアドバイスだぜ」


そして遠目からこんな民衆達の暴走を眺めているワルケは、不気味なにやけ顔を浮かべながら隣に座っているカウィズのことを褒めたたえる。


「お褒めの言葉ありがとうございます。そもそも魔族達は和平後、すっかり戦闘からは離れています。すぐに魔王のところへと行けるかと」


するとピンク色の髪を耳に掛けながら、カウィズは静かに答える。


「しかし魔族を殺すのはどうしてダメなんだよ?・・・まさか情が湧いてるんじゃねえだろうな?」


「違います。ワルケ殿下がどうお考えなのかは分かりませんが、それでも魔族と人間には種としての大きな差がございます。もし一匹でも魔族を殺してしまうと彼らにスイッチが入ってしまうことは確実、そうなると反転攻勢を受けてここにいる民衆の全滅もあり得ます」


そして「それに・・・」と彼女は続ける。


「それにあの魔王のことです。恐らく人間のことは殺さないように指示を出しているはずです。時にはあちらの方針を利用することも必要でしょう」


「そういうもんか・・・。まあ良い、じきに魔王と勇者と会えると思うと武者震いするぜ」


ワルケは自身の腰から剣を抜くと、同時に手元にある紫色の液体が入った小瓶を見つめながら呟く。


「魔王を殺し・・・アクシデントと見せかけてこの毒を使って邪魔な勇者も殺す。そうすれば完璧だ」





「魔王様。どうにかここまで抑えていた人間達の波ですが、圧倒的な人海戦術の前に疲労困憊の魔族達も限界を迎えてしまい・・・。魔王城への侵入を確認しました」


「了解した。まあどうせ最後に来るのはこの部屋だ。もう慌てたところでなんにもならん。だがお前らは避難しておけ」


ゴヴァは自身に報告をしてきたワイバーンにこう答えると、彼はペコリと会釈をして部屋を出た。


「さて。ワルケと会うのは初めてだな。どんな顔をしているのだろうか?」


玉座に腰を下ろしたまま腕と足を組むゴヴァ。するとじきに彼は気配を察知する。


「魔王城の階段を、大勢の人間達が駆け上がっているな・・・。しかしあの時の勇者と比べてどちらが早いかな」


ゴヴァは勇者と出会った頃のことを思い出す。


壮絶な前世を歩み、小さな命を庇って事故死した青年。彼はこの異世界で転生し、魔王に即位後は人間を倒すため魔族軍を率いていた。


本当は嫌だった。人間を部下に殺させることを本当はやめたかった。しかし本心を出すことができず愛する妻にも愛想を尽かされたその時、彼の目の前には勇者レザが現れたのだ。


それからゴヴァは変わった。


凶悪な魔王という皮を脱ぎ捨て、平和と家族を愛する穏健な統治者となれるように。


そして何事にも動じず仕事を粛々と遂行する勇者の姿を、考えを、誰よりも近くで見ていたゴヴァはそれを見習うようになった。


「・・・来たか。レフォ王国王太子・ワルケ」


ゴヴァは気配を察知して呟くと、同時に青髪で高身長の男がその姿を現した。


「よう。おめえが魔王ゴヴァか。お袋から話は聞いてたが、想像通り『悪の化身』って感じだな」


「さっそく褒めてくれて嬉しいな。で、用事はなんだ?ここまで騒ぎを起こしておいて遊びに来たわけではないだろう?」


「そりゃそうだ。目的はお前の首。人間の悲願である魔王討伐をここで果たさせてもらうぜ?」


ニヤニヤと笑いながら近づいてくるワルケだが、彼の後ろに人影があることにゴヴァは気づく。


「お前は・・・カウィズ?」


そこにいたのは魔法使いのカウィズ。


「勇者からワルケのところに行ったと聞いていたが心配してたんだぞ。怪我は無いか?」


思わず立ち上がり彼女に声をかけるゴヴァ。しかしカウィズの方はワルケの隣にまで移動するとゴヴァに掌をかざして黙ったまま。そしてその満足そうに笑みを浮かべるワルケはこう言い放った。


「この女、やっぱり魔王を倒したいってよ。そりゃそうだよな。魔族はどこまでも人間の敵だから」

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