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最終章 第3話 ひとまず首謀者に会うしかない

「なるほど。これが石を投げ込まれて破損した箇所ですか。確かに結構酷いですね」


 魔王から依頼を受けた翌日。勇者レザは魔王城の現状を把握するために足を運んでいた。


 彼は魔族に先導されながら城の外壁を眺める。数日間にわたり人間の手によって大量の石を投げ込まれた結果、その一部が損壊してしまっているのだ。


「幸い怪我した者はいないから良かったけど。オイラ達は気が休まらなくて寝不足だよ」


 レザに説明をしていたゴブリンは大きなあくびを見せる。このゴブリン、実は勇者レザがまだ魔王城を目指して冒険をしていた時、魔王からの刺客として対峙したことがある個体だ。


「あなたは魔王城の整備を任されているのですね」


「そうだよ。第一志望は城の財政管理担当だったんだが、和平成立の後にこっちに回されちまった。でも戦地にいた時と比較したらこっちの方がマシ。戦うのはもうごめんだ」


 彼も他の魔族と同じように今の平和を享受している者のひとり。


 さらに魔王妃シルヴェの発案により、彼女に近しい侍従である魔法使いカウィズが講師役となって人間に関するレクチャーも行っており、これを受講している魔族もかなり多いという状況だ。


「オイラ達は人間のことについて知ろうと努力しているんだけどなあ。魔族のことが怖いのは分からなくはないけど、こういうことを繰り返されるとさすがにな」


 緑色の頭をかきながらゴブリンは寂しそうにこう語る。


 勇者レザの尽力によって和平が成し遂げられてからというもの、人間と魔族が共存出来ているのは事実。最近では人魔関わらず一緒に教育を受けているし、街では協力して商売をしている姿も見受けられる。


「私にお任せください。後で人間達を煽動している首謀者に会いに行きますので、早急に対応いたします」


 そして渋い顔をしているゴブリンを慰めるように勇者レザはこう声をかけ、被害状況のチェックを続けた。


◇◇◇


 レザは魔王城の破損を確認し終えると、城内に特別に用意してもらっている自身専用の部屋にて被害状況をまとめ、早速ワルケの下へと訪れていた。


「お世話になっております。勇者のレザです。ワルケ王太子殿下はご在宅でしょうか?」


 レフォ王国の城。


 それは漆黒の魔王城と大きく異なり、エメラルドグリーンの壁がピカピカに輝く目がちかちかするような建造物。


 レザは挨拶後に通された煌びやかな客間でしばらく待つ。するとじきに女性のメイドを引き連れた青髪で高身長の青年が現れ、レザの対面にあるえんじ色のソファーにドカっと大きな音を立てて腰を落とした。


「勇者が俺に何の用だ。わざわざここまで来やがって」


 いきなり不機嫌で喧嘩腰になっている、彼こそがレフォ王国の王太子・ワルケ。


「おい、何か言えよコラ」


 出会って早々このように詰められるレザ。しかし「はじめましてワルケ王太子殿下。私は勇者レザです」と立ち上がって挨拶する様子を見ると、不遜な対応を取られようと彼が動じていないことが分かる。


 彼は元不動産営業マン。初対面の相手から罵詈雑言を浴びせられることなど悲しいかな慣れていることなのだ。


「わざわざお手間を取らせて申し訳ございません。私は魔王ゴヴァ様の方からご相談を受けて参りました。ワルケ殿下の扇動により多くの人々が魔王城に嫌がらせをしているらしいのですが、それは本当でしょうか?」


 ここで重要なことは状況の把握。相手の言い分を聞いてから次の手を考える。


 前世時代、新入社員が泣いて社屋を飛び出すようなクレームの対応をしたことがある勇者にとってこれは当たり前の戦術だ。


 すると怪訝な顔をしていたワルケはしばしポカンとした後で「何かと思えばその件か!」と大きな笑い声を上げた。


「あー、そうだ。してるよ。俺が自国民を扇動してな。でも関係ないだろ?そもそもおめえは1匹も魔族を倒さずに『お話合い』で争いを終わらせようとした腰抜けじゃねえか。とっと帰れよゴミ勇者」


 レザはこの言葉で、彼がどのようなタイプの人物なのか瞬時に理解する。だがこれに怖気づいて易々と帰宅するわけにもいかない。


「しかし魔王城の方は迷惑しているんです。今後はお控えいただけませんでしょうか?」


 そもそもワルケ、態度が悪かろうと一国の王太子。ここは粘り強く丁寧に交渉していくしかない。


「だから変わんねえっての。魔王は人間の敵だろ?どうしておめえはそんなに魔王の味方するんだよ」


 一歩も引かない姿勢のレザを見たワルケは足を組みなおし、肩をすくめて尋ねる。


「私の目的は人間と魔王の戦争を止め、もたらされた平和を維持すること。そのためには魔王様に協力することが最適だと考えています」


 売り言葉に買い言葉は厳禁。だが、それでもこういう相手には自分の考えというのをハッキリ伝えないといけないこともレザはよく分かっている。


 しかし勇者の話を聞いてもワルケは納得する素振りなど見せず、気怠そうにソファーに寄りかかった。


「魔族ってのは人間の敵だ。そして魔王ってのはその魔族のボス。そいつを殺すことが平和のためには一番手っ取り早い。だからお前の論は間違ってんだよ」


「お言葉ですが魔王を倒したところで反人間的な思想を抱く魔族を刺激するだけかと。魔族は人間よりも腕力が勝り、魔力を使う者もいます。簡単に殲滅できる対象ではないでしょう」


「それでも和平が成立するまで戦争は膠着状態だっただろ。魔族だって結局人間を絶滅できていない。それだったら魔王の首を取りに行くのが吉なんだよ」


「争いを再開した結果としてまた多くの人間が命を落としたら本末転倒でしょう。どうして合理的なご判断ができないのですか?」


 部屋にいるメイドは徐々に激しくなるこの言い合いにオロオロしてしまっているが、それを横目にワルケは深いため息をつく。


「はあ……。おめえのことを見かねて自分のことを『真の勇者』と名乗ったがこれは正解だったみたいだな。勇者レザはここまで腰抜けだとは思わなかったぜ。さっさと帰れ」


 それから「しっしっ」と言いつつ手で払うような素振りを見せるワルケの姿を見て頭を悩ませるレザ。しかしここは一旦引いてゴヴァにこの様子を報告して次の動きを練り直した方が好ましいと瞬時に判断。


「承知しました。今日は帰りますが、またお伺いします」


 彼はこう言うと深く頭を下げて退出しようとしたのだが。


「けっ。二度と来るな。言っておくが魔王・魔族討伐はこの異世界に生きる人間の悲願。俺はレフォ王国の有能王太子、多くの国民の命を背負ってんだよ。お前とは違うんだっつーの」


 既に部屋の出口に向かっていたところで、レザはこの言葉に足を止めて振り返る。それからワルケにある質問をした。


「ワルケ殿下。質問がございます。あなたは『ヒシウミアイスケ』をご存じですか?」


「……知らねえよ。誰だその男?」


「そうですよね。申し訳ございません、お答えいただきありがとうございます」


 ワルケの答えを聞いたレザは改めて扉の方に体を向けると、静かにこう言って部屋を去った。

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