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転生した勇者は、どこまでも営業マンだった  作者: 鶴嶌大晩
第1章 魔王様の夫婦問題
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第2話 転生しても営業マンの性根は変わらない

「あら。レザちゃんじゃない。今日もお使い?いつもお手伝いしてえらいわねえ」


「いえいえ。これぐらいはしないと。全部家族に頼り切りはダメですので」


 17歳の青年であるレザは大人びた口調でこう述べた後、話しかけてきた婦人に向かってペコリとお辞儀をする。


 日本のある不動産会社に勤めていた真留村富士夫は死に、そしてどこか西洋の雰囲気が漂う不思議な世界においてレザという人間として転生した。


 新たにその命を手にしたレザだが、生まれた当初から前世の記憶・知識・価値観などを引き継げられていることに気づいた彼は、十数年生きていていく中でこの世界についての知見を深めていった。


 この世界には『いくつかの王国』があり、自分が転生した場所はその中でもまさに真ん中の位置に値する中堅国家だと言える。


 さらに百科辞典のような書物や大人達の話を総合すれば、国々の間に文化的な差異はほとんどなく、どこも見た目は数多あるファンタジー作品にあるような西洋風だと予測することができた。


 しかし冷静なレザをも驚かせた例もある。


 それは全ての国で使われている言語・文字が統一されていることと、想像以上に衛生面や医療・科学技術が発達していること。


 前者に関しては転生後の幼い頃に「他の国で書かれた本だ。勉強になるよ」と両親からプレゼントされた書生をすらすらと読めることができたし、周りに他国出身者が溢れているものの問題なくコミュニケーションが取れる。


 後者に関しても上下水道はしっかり整備されているし、電気も通っている。これまでレザは何度か体調を崩したがすぐに病院にアクセスはできるし有効な薬をもらうことができている。


 それに人間同士の争いも少ないがために思わずレザも「理想の世界に近いですね」と口走ってしまうほどだが、それでも脅威は存在していた。


 人間とは異なる生命体である、魔族。


 先ほども述べた『いくつかの王国』というのは、魔族の長である魔王を筆頭とした魔族軍という部隊と戦闘に明け暮れているのだ。


 裏を返せば魔族との戦いがあるために人間同士で争いをしている暇などなく、一見平和に見えてもその内部では言いようのない血生臭さというのが漂っていた。


 事実、学校教育でも魔族との戦いの歴史について学んだ。ただレザは興味津々だったのだがどうも同世代の他の子供にとっては怖い話だそうで、耳を塞いでいる子もかなりいたほどだ。


 そしてこのレザこそが争いを止めるために選ばれた勇者。


 彼は転生したその直後から生まれた国の国王との謁見を許された。そこで直々に「この世界の救世主」だと認定されたのだ。


 レザは齢としてまだ一桁の頃からその持ち前の勤勉さを発揮して鍛錬と勉強を積んでいき、さらに生前営業マンとして15年以上働いていた経験も活かし、周囲の大人達と友好な関係を築いていた。


 しかしここで予期せぬ事態が起きてしまう。


「おじ様。おはようございます。あ、それはもしかして奥様に隠れて買ったお酒ですか?バレたらいけませんよ、ほどほどにしてくださいね」


「はっはっは、よく分かったな。ああそうだな、レザにはかなわねえよ。健康にはきちんと気をつけるよ」


 あまりにも大人びて周囲と円滑なコミュニケーションが取れているレザ。


「おば様。あちらの商店にある野菜類の方が安いのですが。こちらもう少しお願いできませんか?」


「むむむ。負けたわ、レザちゃんにはかなわないわね。いいわ!それは値引きしてあげる!」


 前世時代の影響からか金銭の計算や交渉事にシビアなレザ。彼のそんな姿を見たこちらの世界の両親は。


「レザ、話がある。お前の将来だが……きっと勇者よりも商いの方が才能があると思うんだ」


「実はわたしもそう思っていて……。今から商売の勉強をしたらどうかしら?」


 レザのことを優秀な商人として育てようとした。


「父さん、母さん。それは名案だと思います」


 おまけにレザ自身もそれに乗ってしまった。彼は自身の適正を理解していたのだ。


◇◇◇


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!!余が勇者にするために転生したあのオッサン、どうして商人になろうとしてるんですか!!??バカなんですか!!!???」


 するとこれに焦ったのは彼の転生を担当した件の女神。


 そう、本当はイケメンをハーレム世界へと転生させる担当だったにも関わらず、同僚が急に退職したので仕方なく真留村富士夫をレザとして転生させたあの女神。


 レザの様子を念のためにとチェックしていた彼女だが、天界中に響き渡るほど大きな声を上げていた。


「このままレザが勇者にならなかったら最高神様から怒られるのは余です!仕方ない……こうなったら!」


◇◇◇


「これこれ。レザとその両親。余……いや儂は占術を生業としてる者じゃ。ちと話を聞いてくれんかのう?」


 危機感を抱いた女神はその姿を老婆に変え、レザとその両親の前に現れた。その目的は彼がいかに素晴らしい能力を持った勇者であるか説明することだ。


「レザは特別な青年じゃ。彼はいつか人間と魔族との争いを止めるに違いない。しかしそれは勇者という身分でしか果たすことができぬ。彼は商人になるべきではない。やはり勇者になるべきなのじゃ」


 女神はじっと話を聞くレザ達を見ながら心の内でふんぞり返る。


「(どうですか!こういう風に言えば人間なんてころんと言うこと聞くでしょう!女神は人間の生態なんてお見通しってわけですよ!)」


 しかしシビアな価値観を抱いていた両親は怯まなかった。


「お待ちくださいお婆様。これからの時代は魔族相手に上手く商売した者が天下とるのだと我が家では考えております。魔族の中には人間に友好的な個体がいるという噂も耳に届いており、まさに新たな時代にレザは生きるべきなのです」


「……は?」


「夫の言う通りです、お婆様。魔族との商売で利益を出せば、それはまさに偉業。レザをきっかけに武力から経済の戦いになれば……。そこに生まれるのは、健全なる資本による競争だと我が家では考えているのです!」


「……え?」


 逆に両親はこれから先、いかに魔族相手に商売をして利益を出すかが重要になるのか三日三晩、不眠不休で女神に説明をした。


 もう一度言おう。三日三晩、不眠不休である。


 レザの両親は決して老婆のことを寝かさず、自分達の論を語り続けた。すると老婆に扮した女神がレザの家に入って3日目の昼頃。


「た、確かにそっちの言ってることも一理あるかも……」


 虚ろな目をしながら、とうとう女神は折れてしまった。

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