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第2章 第1話 新たなミッション

勇者レザ。


彼は日本の、ある小さな不動産会社に勤務していたしがない営業マンが転生した存在。前世の名前は真留村富士夫(まるむらふじお)


そんな富士夫は過労の末に命を落としたのだが、ある女神の力によって異世界に転生した。さらにその女神は彼に新たな命を授ける代わりに、「魔王が煽動している、人間と魔族の戦いを止めてくれ」という依頼を託す。


それから勇者レザとして生まれ変わった富士夫は、異世界にて18歳を迎えた頃には見事にその目的を果たした。


しかも彼は仇である魔族を1匹も手にかけることなく。魔王のことも倒すことなく。


勇者レザは前世の頃に培った経験や交渉術などを使いこなし、この世界における『いくつかの国』を治める王族と魔王との間で和平会議を開くことに成功した。


しかしそれを成し遂げたレザだが。


「これで転生先における自分の仕事を全うできた。ところで、これから私はどうなるのでしょうか?」


という疑問を抱えていた。





『勇者レザ。貴方はよくぞこの世界に平和をもたらしました』


すると和平会議が行われてから約1年後。こちらの世界で19歳になった勇者レザの夢の中で、転生直前の時と同じように、再び女神の声がその耳に届く。


「お久しぶりです女神様。これから私はどうなるのでしょうか?最初に頼まれていた依頼をこなした以上、もう用済みだと思うのでしょうが。死ぬのでしょうか?」


『そんなに心配することはありません。これから貴方は自由になります。・・・しかし余はレザに謝らなければいけません。当初、貴方のことを実は信用していませんでした』


「そうですよね。なんせ本来は退職した他の女神の仕事だったらしいですもんね、私の転生は。嫌々でしたもんね、私の転生は。・・・ね!?」


レザは意外と根に持つタイプだった。


『あ、あれは・・・。本当に申し訳ございません。しかし今般における貴方の活躍を見て余は魂が震えました。無駄な殺生は一切行わず、それでも世界に平和をもたらす。まさに見事の一言でした』


「お言葉は嬉しいのですが。それで私はどうなるのでしょうか?」


そしてレザが恐る恐るこう質問すると、女神は明るい声でこう答える。


「はい!ハーレムを作って前世とは異なる恋愛ライフを過ごすも良し。いわゆるスローライフをして悠々自適に過ごすも良し。こちらで前世よろしく不動産業を始めてみるも良し。選択肢はいくらでもあります」


「・・・」


『・・・』


「どうしても、ここで生きなければならないのですか?」


「はい!ここで生きていってください!」


「・・・」


『・・・』


「女神様、何か私に隠し事してますよね?」


「ちっ。どうしてバレたんだ」


レザは勘の良い男でもあった。


「そこまでして私のことをここに縛り付ける理由は何かあるのでしょうか?先ほどはあれだけ絶賛して謝罪もしてくださったのに、あまりにも不自然ではないでしょうか?また別の世界に転生することなど不可能なのでしょうか?」


夢の中でレザは女神のことを問い詰める。すると彼女はとうとう観念したかのようにため息をつきながら口を開いた。


『はあ・・・。実は言うとそちらの世界には後2名ほど、転生した人間がいるようなのです』


そして女神は続ける。


先ほど言ったように、本来は真留村富士夫を転生させる業務というのは別の女神の仕事であった。しかしその女神というのがロクに引き継ぎもせずに天界を去った際、慌てた神々が真留村富士夫以外の人間の魂も彼と同時期に転生させてしまったというのだ。


「えっと・・・。少しややこしいので整理させて欲しいのですが。要は天界のミスで、本来は転生の対象にならなかった魂までこちらの異世界に転生させてしまったと」


『左様です』


「いただけない業務上のミスですねえ。で?私に何をしろと?」


『その。言いにくいのですが、実は・・・』


富士夫以外の魂は、天界での連絡の行き違いの末、神々から何の説明も無いまま異世界へと転生してしまった。それからは消息がつかめなかったものの、富士夫をレザへと転生させたこの女神がようやくその居場所を突き詰めることができ、地上へと降り立ったのだが。


『一応コンタクトは取れたのですが、どうも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という強い固定観念に縛られているようで。レザがもたらした平和に不満を持っているようなんです』


「・・・何ですかその面倒な状況は・・・」


女神による説明をひとしきり聞いたレザは返す刀で大きなため息を漏らす。本当は女神に何とかして欲しいが、夢にまで出てくるということは地上で会った際には恐らくどうにもできなかったのだろう・・・。


「で。もしかしてそれでは私はまだこの世界に居座り、他の転生者を説得しろということですか?変な気を起こして魔王を倒さないように」


『さすがですね。レザ。その明晰な頭脳はまさに勇者に相応しい』


「こっちは天界の尻拭いをするのですよ?何ですかその言い方は。同じ社会人として恥ずかしい、さすがに怒りますよ?上席の者を出してください!」


『も、申し訳ございません!で、でもそれだけは・・・』


とは言うものの、これは確かに死活問題。ようやくこの世界に平和をもたらすことができたのに、変な考えを持った他の転生者のせいで魔王が襲われ、またも争いが起きたらたまったものではない。


「しょうがないですね。仕方がないので他の転生者も私が何とかしましょう。で、その2人の名前は?」


『1人は魔法使いのカウィズ、こちらは若く可愛らしい女性です。そしてもう1人は男性の・・・』


そして女神がこう言いかけたところで。


「・・・え?め、目が覚めってしまった・・・」


この日の午後にレザは久しぶりに魔王城へと赴く予定なのだが、そんなタイミングで面倒な仕事を女神から託されてしまう。


「まあしょうがないですね・・・。他にこれをこなせる方もいませんでしょうし・・・」


しかしどこまでも営業マンなこの勇者は、頼まれた依頼を無視することなどできなかったのである。

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