表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した勇者は、どこまでも営業マンだった  作者: 鶴嶌大晩
第1章 魔王様の夫婦問題
11/53

第11話 魔王妃・シルヴェ

 魔王妃・シルヴェは由緒正しいデーモンの家の娘であり、その父は冷徹な伝説の戦士。そして当代魔王ゴヴァの父親に当たる、先代魔王からの信頼も厚いものだった。


 だからこそ親同士の話し合いによってゴヴァとシルヴェは結婚する運びとなったのだ。


 念のために記しておくが魔王妃シルヴェは別世界からの転生者ではない。しかし彼女は長きにわたり人間と魔族との争いに心を痛めていた。


 そんなシルヴェにとって後に夫となるゴヴァとの出会いは奇跡的で運命的。そして彼女はゴヴァと共に時間を過ごすことによって僅かな希望を見出す。


「ゴヴァ……。あなたは元々人間だったのでしょう?お願いだからこの醜い争いを早く止めて……」


 魔王妃シルヴェは、夫である魔王ゴヴァが人間から転生した存在だったと悟っていたから。

 魔王妃シルヴェは、魔族達の中でもこの争いを早く止めたいという想いが高まっていることを分かっていたから。


◇◇◇


「魔王様、勇者様。ここに魔王妃のシルヴェ様がいらっしゃるかと思います。シルヴェ様特有の魔力を探知できました」


 広い草原。壮大な景色が広がっている場所ではあるが人間も魔族も暮らしていない、まさに世界の空白地帯と評せる場所。


 そして空には青空が広がっている。雲一つない、綺麗な青空だ。


 今この地に立っているのは勇者レザと魔王ゴヴァ、さらに優秀な魔力探知能力を持っておりここまで2人を導いてくれた1匹の巨大なガーゴイル。


 彼らの目の前にあるのは古めかしい小屋。このガーゴイル曰く、どうやらここに魔王妃が潜んでいるという。


「ありがとうございました、ガーゴイルのイーファ様。こちらがお礼になります」


 レザはここまで連れて来てくれた謝礼として、イーファという名前のガーゴイルに新鮮な果実を渡すと、イーファはそれを嬉しそうに食べ始めた。


 転生前は不動産会社の営業マンであった勇者はこういうところに抜かりがない。


「おまけに本来は敵である私に対しても『勇者様』と呼んでくれるだなんて。喜ばしい限りです」


 イーファに向かってこう話しかけるレザだが、口いっぱいに果物を溜めながらイーファは返す。


「いえいえ。今はもう魔王城にいる魔族は勇者様の味方です。イーファ達に内緒で城を飛び出した魔王妃様のことを見つける手助けもしてくれるし、人間との争いを止める手助けもしてくれるし、イーファも感謝感謝です」


 笑顔でこう語るイーファの頭をレザは優しく撫でる。そしてこの行動によって「そう言えば」とレザは前世の頃のある記憶を思い出した。


 チラシのポスティングをするために住宅街を歩いていた時、たまたま通りがかった大型犬に気に入られ、そのままの流れで飼い主とも仲良くなれた。


 するとその人物、実は周辺地域での有力者であり周辺での不動産関係の相談事をかなり自分に回してくれたのだ。


 レザはそれから「何事も縁があるものですね」と考えるようになった。


 こんなことを思い出してひとしきりイーファのことを撫でた後、レザは気を取り直して前方へと顔を向ける。


「それでは行きましょうか魔王様。あの中に奥様はいらっしゃるそうなので」


 こうしてレザは小屋に近づこうとするが、魔王ゴヴァの方は足がすくんでしまったのかその場から動けない。幾度となく繰り返すがゴヴァは怖がりでメンタルが弱かったのだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。わ、吾輩は」


「魔王様。私もついて行くので大丈夫ですから。一緒にしっかり話をして、場合によっては一緒に謝りましょう」


 もう一度言うが、転生前は営業マンであったレザはこういうところに抜かりがない。


 彼はこれまでミスをした後輩のために、怒り心頭の顧客の下へと共に向かうという経験は山ほどしてきた。決して口には出さないがこういうシチュエーションは実は結構慣れっこなのだ。


 怒っている顧客に出会う際、彼は顔を見たと同時に大声で謝罪の意を表し、頭を深々と下げる。こんなことを繰り返してきたレザにとってプライドなど、その辺に落ちている葉っぱよりも価値のないもの。


「心配な気持ちは分かりますが大丈夫です。むしろ早く行かないと本当に奥様から愛想をつかされてしまいますよ?」


 しびれを切らしたレザが再び歩みを進めると、ゴヴァもとうとう観念したのかその少し後ろを恐る恐るついて行く。


 ここに到着してから数十分。ようやく勇者レザは小屋の中に入ろうと扉のノブに手をかける。


 するとその瞬間。


「っ!勇者!危ない!」


 突然大きな爆音が響きボロボロの小屋が大きく崩れた。そして青々とした草原とは正反対のどす黒い土煙が舞い、その中から魔王妃が飛び出てきたのだ。


 しかしその姿は。


「シ、シルヴェ……。どうして……」


 大きな紫の翼を翻し、背中からは数えきれないほどの腕を生やし、真っ黒に染まった目からは赤い涙を流している。まさに怪物と称しても差し支えないようなもの。


 本来の美しい彼女のそれとは大きく変わってしまっていた。


「これは……デーモン族の暴走……!」


 変わり果てた妻の姿を見たゴヴァはこう呟くが、シルヴェは空を見上げてけたたましいほどの咆哮を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ