葬送の花
騎士団の炎魔法師は、辺境領に残り魔物の遺骸処理にあたる。
その他の騎士達は、各管轄領地へ帰還する運びとなる。
エリューシスは用意された馬車で体を休めるように、とシリウスと共にゆっくりとした帰還となった。
聖女の死をもって鎮められた、スタンピードの一報は、国中を駆け巡った。
遺体のない聖女の葬送は、国を挙げて行われた。
皆、死者を悼み純白の衣類を身に纏う。
エリューシスも純白の簡素なドレスを着て、白の花を空へ送った。
「彼女は、知らなかったのね。純白のドレスは、喪服であり、死に装束だって」
多分、ウエディングドレスみたいって、喜んでいたのね。エリューシスは唇を噛む。
この国での婚礼の衣装は、王族の色…深紅である。唯一、平民も貴族も婚礼の場合にのみ深紅の着用を許されていた。純白のドレスを喜ぶのは、異世界から来た聖女しかいない。
エリューシスはぎゅうっと目をつむった。
「悪趣味だろ?」
シリウスは面白がる様子もなく、同じように白の花を空へ放る。
空へ送る花も、いつか誰かに踏まれて汚れるのだ。
「お前にはいってなかったが。…歴代聖女は、皆純白のドレスを着ている。誰一人として例外はない。」
「え…」
「つまり、光魔法の極大魔法を習得した聖女なんて、ただの一人もいないんだよ。」
あまりの発言に、思わず口元を手で隠した。
悲鳴と嗚咽が漏れてしまいそうだった。
あの原作の裏では、こんな残酷な歴史がつくられていたのだろうか。
「異世界から来た人間が、急に国の最高権力にチヤホヤされるんだぞ。育った訳でもない世界の為に、どうして身を削るような努力をするんだよ。しかも、ここは小説の中で、みんな生きてるだなんて思ってねえ、ヤツが。」
虚構の中ならば、何をしても良いと。みな本能のままに、甘美だけを享受する。
「俺にいわせりゃ、聖女ってやつの方が、みんなクソアンチって事だろ。」
ストーリーってのをなぞる気すらねえんだよ。いつの間にやらできるようになっている、と勘違いしている。
「お前が知ってる、聖女ってのは、どんな感じなんだ?」
「聖女は、正義感が強くて、誠実で…逆ハーレムにドギマギしちゃう感じで、小動物みたいで可愛くて…」
「全部当てはまってねぇな。」
ぐぅの音も出ない。
「あの小説が、聖女にとってのハッピーエンドって事なのね。そして、これが、この世界でのトゥルーエンド。」
青空の下、たくさんの白い花が飛ぶ。
小説では、ついぞ描かれなかった景色だった。
後日、エリューシスには戦乙女の称号が正式に授与された。
本人は複雑な心境だったが、シリウスより「貰えるもんは、もらっとけ」という雑なアドバイスをされたため、受け取る事を決めた。
国王からは、氷を模したレイピアと、軍服に近いデザインのドレスを贈られた。
新聞はこぞってエリューシスを褒め称え、そしてシリウスとの愛を綴った。
シリウスが南方の国境戦線から辺境伯へ移動する際、王太子が手を貸した、という情報も相まって、シリウスとエリューシスの婚約は、各王族が後押ししているという記事も多く出ている。
「なんだか…予想に反して受け入れられているのが、腑に落ちないわ…」
戦乙女の称号など、分不相応もいいところだ、とこき下ろされると思っていたエリューシスは、久しぶりのスカルタス邸のソファになだれ込んだ。
「お行儀が悪うございます、お嬢様」
ぴしゃりと侍女に叱られ、気だるげにため息をついた。
「騎士団の皆様が、お嬢様のご雄姿を吹聴…いえ、語りつくしておられたようですから」
「わたくし、本当に足手まといなだけでしたので、本当に、マジでやめていただきたいですわ」
「お嬢様、お口が荒ぶっておられますよ」
また侍女にぴしゃりと叱られたエリューシスは、今度こそソファに身をゆだねた。
そして…
「われらが親衛隊として選ばれました、五名でございます」
どうぞお見知りおきを。と、突然シリウスに連れてこられた騎士達が、エリューシスの前に整列した。
「り、リア!?親衛隊?!な、何のことですの?!」
騎士達の中に見知った顔を見つけ、エリューシスは分かりやすく動揺した。
オロオロするエリューシスに、カナリアが一歩前に出る。
「ハッ!志願騎士およそ五百名の中より選ばれました。我ら五名は命を賭して、エリューシス様をお守りする所存です」
「リア、どうして…?」
寂しそうに肩を落とすエリューシスに、ふふ、と軽い声がする。
「エリー?ここは一つ返事で受け取るのが、淑女というものですわよ。こちらは、文字通り血反吐だけじゃなく、尻から血が出る思いをして、この座を勝ち取ったのですから。」
「リアが尻って…」
以前より精悍な顔つきになったカナリアが、悪戯が成功した子供のようにウインクした。
それを見て、エリューシスも破顔する。
「ありがとう、でも命を賭す必要はありません。必要なことは、生き延びる気概です」
その為には、逃げることも必要なんですよ。
そう言ったエリューシスに、シリウスは騎士が逃げてどうすんだ、と半眼した。
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