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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
一章 薬師の少女と飛来する厄災
15/83

1-12 怒涛の発覚はいつも唐突で、覚悟を決めるには十分である

 目を覚ますと視界に飛び込んできたのは逆さまの顔だった。それが、頭の上から覗き込まれていると分かった時、僕は膝枕されていることに改めて気づいた。

 フレアは僕が起きたのに気づくと、嬉しそうに声を上げる。


「月兎さん、目が覚めたんですね」

「うん。ryuはどうなった?」

「今私たちが乗っているこれがryuですよ」


 そう言われ、確かに背中に伝わる感触が土よりも冷たく硬いと気づいた。後頭部に当たる感触だけが柔らかい。

 体を起こそうとすると、フレアに止められてしまった。


「もう少しこのままで。気絶したということは、頭を打っている可能性もありますから」

「けどちょっと恥ずかしいんだけど」


 柔らかい感触と、僅かに感じる温かさに頬が熱くなるのを感じる。

 けど、フレアが逃してくれそうもないし、今のうちに現状確認かなぁ。と言うことで――


(レイギス、説明お願い)

(任せろ! グロリダリアの天才科学者! レイギス様の良く分かる現状把握講座だ!)

(テンション高いね……)


 戦いの後で興奮してるのかな?


(まあ色々あったからな! とりあえず状況説明だ。お前がベッドにしてるryuだが、内臓ぶっこ抜いて完璧に破壊した。キューブも物理的に破壊したから、もう再起動することも修理することもできないはずだ)

(そっか。じゃあ安心なんだね)

(コイツに関してはな)


 なんだか影のある言い方だ。


(お前の体も魔法である程度治してある。体力は戻ってねぇから、しばらくはフレアの膝枕を堪能しとけ。どうせだし、しっかり匂いも嗅いどけよ。貴重な女の子の太ももだぞ)

(う、うるさいな! そんなことするわけないでしょ!)

(チッ、月兎がやれば俺も匂いを感じられるんだが――まあいいや。んで、ryuの暴走原因だが、やっぱ人為的な工作だ。誰かしらがコイツに人を襲うようにプログラムをいじってやがった)

(……グロリダリアの人も一枚岩じゃなかったてこと?)

(それはもともと分かっていたが、子孫を苦しめようなんて奴はいなかったと思ってたんだけどな。正直ショックだよ。まあ、白の厄災の情報から言ってかなり昔の話みたいだし、そいつ自身はもう生きてねぇはずだ。だが、コイツと同じようにいじられた魔導具がある可能性は高い)

(危険だよね)


 リリム時代の人たちでは、ryuに太刀打ちできなかった。他の魔導具もryuと同じぐらいに危険であれば、今の人たちはそんな歪められた魔導具に今も怯えているかもしれない。


(月兎)


 先ほどまでとは変わって、落ち着いた真面目な声が響く。


(これはグロリダリア時代の――俺たちの問題だ。正直月兎を巻き込むのは悪いと思うが、俺のわがまま聞いてもらってもいいか?)

(歪められた魔導具の破壊もしくは修復かな?)

(ああ)


 確かにそれは、当初の僕が地球に戻るための遺跡を探すのとは目的が違ってくるし、危険性も跳ね上がることになる。

 だけど、僕のやりたいことが何なのかを考えれば、答えは自ずと出てくるはずだ。


(僕は人助けをしたい。もし、魔導具で困っている人がいるのだとすれば、僕はその人たちを助けたい。だって今この世界で、歪められた魔導具に対抗できるだけの力を持っているのはレイギスだけなんでしょ? なら当然、僕はそんな魔道具を解決する助けになりたい)

(悪いな)

(いいってことよ)


 旅は少しだけ遠回りになるかもしれないけど、それもいいんじゃないかな。せっかく異世界なんてところに来て冒険しているわけだし、この貴重な経験、少しでも多く自分の糧にしたい。

 と、そんなことを思っていると、遠くから声が聞こえてきた。

 体を起こしてそちらを見れば、アルメイダさんたちが駆けてくるのが見える。


(お迎えが来たみたいだな。膝枕はここまでだ)

(別に残念でもないからね)


 ちょっと気持ちをごまかしつつ、フレアと共にryuの上から降りる。


「お前たち、大丈夫か」

「はい。ryuもこの通り完全に破壊しました」

「どうやって……いや、まあいい。お前たちが無事ならそれが一番だ。動けるのなら村に戻ろう。他の連中も心配してるぞ」

「「はい」」


 アルメイダさんを先頭に、村へと戻るため歩き始める。その途中でふと僕は後ろを振り返った。

 そこに倒れているのは、残骸となった白の厄災。本来ならば、ryuとして畑を守り、人から感謝されるはずの存在だった魔道具。

 それをここまで歪めてしまうなんて。


「月兎、行くぞ」

「あ、はい」


 なぜこんなことをしたのかは、僕には想像できないだろう。けど、人を苦しめるためにこんなことをしてしまう人はきっと何かに苦しんでいたんじゃないかと、そんな風に思うのだった。



 村に戻りみんなから心配と感謝の言葉を貰った後は、盛大な宴会が開かれることとなった。

 いつもの食堂からテーブルを引っ張り出し、広場にたき火を汲んで酒に料理にと盛り上がる。

 女性陣達が驚りだし、男たちが歌う。楽器なんて無い小さな村だが、そこには音楽と陽気な笑い声が溢れていた。

 そんな光景を、僕は少し離れたテーブルに座ってのんびりと眺めていた。


「月兎さん」

「フレア。どうしたの?」


 声を掛けてきたのは、カップを手に持ったフレアだ。少しだけ顔が赤くなっているところを見ると、飲んでいるのだろう。いつもは飲まないけど、今日の雰囲気に流されたのかな?

 ちなみに僕は禁酒だ。少しでも飲むとレイギスと入れ替わっちゃうからね。


「月兎さんこそ、今日の主役がこんなすみっこでどうしたんですか?」

「流石に疲れたからね。あのノリにはついていけないよ。お酒も飲まされそうだし。フレアも飲んでるみたいだけど、大丈夫?」

「はい、セーブはしていますので。それに料理もちゃんと食べてますから」


 どのテーブルにも、これでもかというほど大量の料理が並んでいる。

 それは、村の備蓄ほぼ全部と言ってもいいぐらいだ。

 それが意味するところとは――


「この村もこれで終わりなんだね」

「白の厄災は倒せましたけど、家の被害や怪我人もそれなりにいますからね。領主様に応援を頼むと行商の人は言っていましたし、その人たちが来たら私たちも村を離れると思います」

「そっか」

「月兎さんは怪我は大丈夫ですか?」

「うん。上手く受け身がとれたみたいで、軽く痣ができるぐらいだから」


 流石に怪しいかもしれないけど、実際に僕の体には痣程度の怪我しか残っていない。

 レイギス曰く、肋骨は折れていたらしいけど回復魔法で治してもらえたし。


「……それならよかったです。けど怪我がないからって油断はダメですよ。疲れは残っているみたいですし」

「そうなんだよね。おかげでご飯は美味しいけど」

「凄い戦いでしたからね。レイギスも疲れているかもしれませんし、いっぱい食べてくださいね」

「ははは、あいつはその程度じゃつかれ(おい月兎!)あ……」


 会話の流れで不意にフレアが紡いだレイギスの名。僕はそれに気づかず、うっかりそのまま返してしまった。

 それはつまり、僕がレイギスの存在を知っていることをフレアに教えてしまったのと同義だ。


「…………やっぱり知ってたんですね」


 僕の横に座り、じっと僕の顔を見つめてくるフレア。きっとフレアには、今僕が凄い動揺しているのが手に取る様に分かるのだろう。自分でも驚くほど背中や額から冷や汗が噴き出しているし。

 正直ryuと対面した時より焦ってる――


(やっちまったな)

(ど、どうしよう)

(どうしようもねぇよ。あんなカマの掛けられ方、フレアは明らかに気づいてる。ただ確認しただけだろ)

(確認って……どこでバレたんだろう)

(直接聞けばいいんじゃね?)

「月兎さん、レイギスと相談はできましたか?」

(会話できることまで気づかれてるんですけど!?)


 と、とにかく会話を……穏便に、穏便に。


「えっと、いつから?」

「気づいたのはついさっきです。無意識だったのかもしれないですけど、月兎さん気絶する直前にレイギスにお願いって言ってました」

(あー、あれ聞かれてたのか)


 そんなこと言ってたの!? 確かにそう思ったけど、口に出してたなんて。

 これはどんな言い訳も意味がない。レイギスの言う通り、完全に分かっていて確認で聞いただけだ。なら僕にできることは一つだけだろう。


「嘘ついててごめん」

「いえ、なんとなく事情も分かるので、月兎さんを責めるつもりはありません。ただ教えて欲しいんです。どこまでが月兎さんでどこからがレイギスだったのかって」


 僕とレイギスの性格ってかなり違うし、基本的にレイギスが表に出ている間にどんな行動をしているのか僕は知らないけど、話を聞く限り分かりやすいと思うんだけど。


「ほぼ想像通りだと思うけどいい?」

「はい、お願いします」

「えっと、じゃあまず出会ったときだね――」


 僕はフレアと偶然出会ったときから、僕とレイギスがどんな行動をしてきたのかを順を追って話していった。

 フレアはそれを真剣に聞きながら、時折頷いたり自分の頬を触ったりしていた。

 そして最後まで話し終えたところで、フレアが大きく一つ頷く。


「なるほど、だいたい分かりました」

「えっと……なにが?」


 恐る恐る尋ねてみるが、フレアは柔らかな笑みを浮かべるだけ。


「フレアさん?」

「大丈夫です。自分の気持ちに色々と整理が付いただけなので」

「よく分からないけど、ほんとごめん」


 幻滅させちゃったかな? やっぱりもう二つの人格が交互に出ってきているとか気持ち悪いとか思われたかもしれない。

 こんな人間と一緒に暮らすのも嫌だろうし僕も早めに村を出よう。


(レイギス、明日には村を出ようか)

(月兎が何考えてんのかはちょっと分からんが、そこまで悲観するようなことはないと思うぞ? まあ、早めに村を出るのは賛成だけどな。なら村長から依頼の報酬を貰わねぇと)


 そうだ。フレアに異性を理解させられれば、村長から旅の道具一式を貰えることになっているんだった。けど、大丈夫かな?

 僕からはフレアが特に変わったように見えなかったし、正直心配だった。

 そんなところにちょうど村長さんが現れた。


「月兎君、こんなところにいたのか。フレアちゃんも楽しんどるかね?」

「はい、楽しませてもらってます。久しぶりのお酒ですしね」

「フレアちゃんはあんまり飲まんからのう」

「薬剤師が酔っぱらっちゃうと、いざという時動けませんから」


 そんな理由でお酒を飲まなかったのか。今日もセーブしながら飲んでいるみたいだし、何かあればすぐに調合はできるようにしているのだろう。

 薬剤師としても医者としても凄い心構えだと思う。


「村長さんは月兎さんに用事ですか? よければ外しますが」

「いや、構わんよ。月兎君や、村も近いうちに終わりを迎える。その前に月兎君に報酬を渡しておこうと思ってね」

「報酬? なんの報酬ですか?」


 フレアが首を傾げる。フレアには内緒だったから、知らないのは当然だよね。


「フレアちゃんに町に行く前に同い年の異性を理解してもらおうと色々協力してもらったんだよ。今のフレアちゃんを見れば、月兎君がしっかりと依頼を果たしてくれたのは一目瞭然だがね」

「な、ななな、なんですかそれ!? 月兎さん、聞いてませんよ!?」


 フレアはガタッと椅子を倒して立ち上がる。その顔は真っ赤に染まっていた。

 そりゃ怒るよね。同じ家で暮らしている人にそんな依頼があったなんて知ったら。


「一応秘密だったからね。けどいいんですか? 僕にはフレアの違いが良く分からないんですけど」

「ホホ、月兎君も意外と鈍感なんじゃな。まあ、そういう訳じゃ、フレアちゃんちょっと月兎君を借りていくぞ」

「むぅ……いいですよ。ごじゆうにどうぞ!」

「では行こうかのう」

「あ、はい」


 フレアに何か言い訳をとも考えたのだが、そっぽを向かれてしまった。その間にも村長はどんどんの家に向かって歩いて行ってしまったため、僕は仕方なくそれを追いかけるのだった。


   ◇


 なんですかそれ! なんですかそれ!

 私の心臓は驚くほど速く鼓動を打っていた。

 私に異性を理解させる依頼って! 確かに私は異性に対して疎いところがありましたけど、そんな依頼を普通出しますか!?

 確かに今ならば月兎さんが私の家に住むことの異常さは理解できる。

 年ごろの異性と一緒に暮らすことの意味が、今の私なら理解できるから。

 そして一緒に暮らし始めた当初の自分の行動を思い出して恥ずかしくなる。


「ズルいです。ズル過ぎますよ!」


 それにレイギスの行動も今ならばそれが凄く恥ずかしいことだと感覚で分かった。

 あの積極的で挑発的な態度は、私にレイギスや月兎さんを意識させるためのものだったんですね。月兎さんを観察すればするほど、私は男性というものを知ることになる。

 そして私が理解し始めたところで隠していた気持ちを平然と暴かれた。

 レイギスはただのお調子者かと思っていましたが、全くの別物です。あれは全部計算ずくでやっている。そう分かると、余計に悔しくなる。

 逆に月兎さんはずっと素の状態で接してくれていたんでしょう。最初から今日まで、月兎さんの視線や行動は一貫していた。

 まあ月兎さんの場合は、どうすればいいのか分かっていなかっただけの気もしますが。きっと私も同じような依頼をされてもどうすればいいか分からないだろうし、その気持ちは良く分かります。むしろレイギスが計算高すぎるんです。

 そう考えると、やっぱりレイギスは好きになれませんね。これは仕返しをしなくては。

 それに月兎さんにお礼も。

 きっと私が町に出てもちゃんとやっていけると思えるのは、月兎さんのおかげだから。


「よし、決めた」


 私は倒してしまった椅子を直し、カップに注がれていたお酒を一気にあおる。

 むっ……ちょっときつかったですか。まあ大丈夫です。


「月兎さん、覚悟しておいてくださいね」


 ちょっとした仕返しとお礼を思いついた私は、遠くのたき火に小さく照らされながら不適にほほ笑むのでした。

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