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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
一章 薬師の少女と飛来する厄災
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1-13 旅立ちの贈り物は豪快なサプライズとささやかな仕返し、そしてなにより明るさがいい

 村長と共に村長の家へとやってきた僕は、一室に通される。

 そこにはテーブルの上に並べられた色々な道具。ランタンやマット、リュックや食料も並んでいるところを見ると、これが旅の準備一式ということなのだろう。


「月兎君、これが君に渡す報酬じゃ。物は古くなっておるが、アルメイダに頼んで手入れをしておいてもらったから大丈夫なはずじゃ」


 アルメイダさんが手入れしていてくれたのなら、心配は無いだろう。元傭兵だし、実際に何年もこんな道具を使ってきたベテランだ。


「助かります」

「とりあえずある物を確認してくれ。ワシは隣の部屋で待っとるから、何か足りないものがあれば遠慮なく言いなさい」

「分かりました、ありがとうございます」

(レイギスも確認してもらえる?)

(おうよ。ま、あんま参考にはならねぇだろうけどな)


 飛べる人たち(グロリダリア)の時代の旅とは別物だろうからね。

 旅にかかる時間も違うだろうし、何より食料とかの保存方法もかなり違いそうだ。そもそも電車みたいなのもありそうだし、旅の考え方が根本的に地球よりの気もするし。

 村長が部屋を出て行き、僕たちは早速確認に取り掛かる。


(とりあえず言われた通りに道具の確認していこうか)

(こういうのは確認したやつを袋に詰めていくと良いぞ)

(あー、なんか遠足前の小学生みたい)


 けど、小学生に有効なことって大人になっても意外と有効な確認方法だったりするしね。

 まずはリュック。大型の深緑色のもので、口は紐で閉じるタイプだ。やや痛みは見られるが、脆くなってある場所は補強してあるようで、破れる心配は少なそうだ。

 ポケットも多く、いかにも旅用と言った面構え。味を感じるね。

 そんなリュックに、道具を詰めていく。あまり使わないものを下にが鉄則だよね。


(あんまり使わなさそうなのは、調理器具かな?)

(ざっと見た感じそうだな。キャンプでは荷物を全部開けるだろうし)


 ということで調理器具から三脚やシート、服類とどんどん詰め込んでいく。

 リュックは結構な大きさがあるが、それでもやはりテントや寝袋などの大きなものは入らない。こういうのはリュックの上にのせたり縛り付けたりするらしい。それ用の紐やフックも用意されていた。

 一通りを詰め込んだところで、改めてリュックを確認する。


(パンパンだね)

(まあ、一人旅だからな。荷物の分担とかもできねぇし、こんなもんだろ)

(ここにさらに足の速い食料とか水も入るんだよね。どこかの町で馬とか調達したほうがいいかな)

(乗れるのか?)

(無理だ……)

(ならロバとかでもいいんじゃね。荷物運び専用にしちまうの)


 ああ、ロバに荷物を載せて、自分はロバを引いて歩くのか。ロバの気性ってどうなんだろう。馬は賢くて調教されていれば人の言うことはよく聞くって聞いたことがあるけど、ロバではあんまりそういう話は聞かないしなぁ。


(まあ考えてみるよ。その為にはお金も貯めないといけないしね)

(そりゃそうだ)


 移動しながら稼げることを探すのか、それともどこかの町で働いてある程度溜まってから移動するのか、そのあたりも考えておかないといけないな。

 そう考えると、旅の準備ってただ荷物を用意するだけじゃないだと改めて思い知らされる。


(もうちょっとこの村に)

(いや、それは止めた方がいい。こっちは町の人間が来る前に動くぞ)


 滞在して考えようかと言おうとしたが、レイギスが強く否定してきた。


(急ぐ理由でもあるの?)

(考えてもみろ。俺たちは白の厄災をぶっ壊したんだぞ。しかもほぼ単独でだ。そんなことをできる奴を、領主や国、ようは権力を持ってる連中が見逃すと思うか?)

(もしかして結構まずい状態?)

(捕獲なら話も変わったが、結構まずい倒し方になっちまったからな)


 そうか。何年もの間恐れられてきた存在を単独で倒せる人間。味方にすれば心強いかもしれないが、敵にすればそれほど怖い相手はいない。

 僕はどこかに留まるということはできないし、味方に取り込めないのならばと考える人が出てくるかもしれない。

 この村の人たちはみんな優しいからすっかり考えから除かれていた。


(できるなら明日にでもこの村を出たい。逃げるにしても距離を稼ぎたいしな)

(そうだね。名残惜しいけど、明日には出ようか。じゃあ次はどこに向かおうか? 遺跡の当てとかある?)


 リュックにしまっていた地図を取り出し広げる。少し古い地図なので、町の大きさや数は変わっているかもしれないが、土地が大きく変化することはないだろうし、これを参考に次に行く目的地を決めよう。


(当てと言われてもな。俺たちは思い思いの場所に勝手に作ったから他の遺跡は一切把握してねぇんだよ。目的で場所も変わるしな。俺の場合は発見を遅らせたくて山の奥に作ったが、早く見つけてほしい奴は草原の中に城を立てててもおかしくない)

(なるほど。じゃあ大きな町とかで聞き込みが一番かな? すでに調べられた遺跡でも、何か隠し要素とかあるかもしれないし、片っ端から行くべきだよね)

(だな。俺らそういうの大好きだし)


 話を聞いている限り、完全にゲーム感覚で遺跡残したみたいだしね。隠し扉とか、隠しアイテムとか沢山ありそうだ。


(なら目的地はここかな?)


 僕は地図上にある一つの町を指さす。そこはこの村から北へと向かったところにある町だ。ある程度大きさがあるから、なくなってしまっている心配は無いだろうし、平原にあるから交易の中心近くになっている可能性もある。情報が集まりやすい立地にある町だ。


(そうだな。しばらくは森を進んで、後は何個か町を経由していく感じだな)

(道中でも情報収集はしっかりしていこうね。途中にも遺跡があるかもしれない)

(おう)


 目的地も決め、僕は纏めたリュックを一度背負ってみる。ずっしりと背中に重さが乗るが、想像していたほどではない。


(身体強化のおかげかな。印象よりだいぶ軽い)

(それがなきゃ、ギリギリまで荷物削らないとヤバかったかもな。とりあえず問題ないなら村長に報告行こうぜ)

(そうだね)


 リュックを降ろし、隣の部屋の扉をノックする。返事を待って部屋に入り、村長に問題がないことを伝えた。


「そうか。月兎君はいつ頃出発するかね? ワシらと一緒に行くか?」

「いえ、明日にでも出ようと思います。領主様に目を付けられるのも困りますので」

「それもそうじゃのう」


 村長は僕が言おうとしていることをすぐに理解してくれたのか、何度か頷く。


「ではワシらも月兎君のことはよく知らない旅人じゃったと伝えておこう。放浪の旅をしていたと伝えれば、簡単には見つけられんじゃろ」

「ありがとうございます」

「なに、ワシらは返しきれんぐらいの恩があるからのう。これぐらい、お安い御用じゃよ。それよりも、フレアにこのことはもう伝えたのか?」

「いえ、帰ったら伝えるつもりです」

「そうか。まあ頑張りなさい」

「?」


 何を頑張ればいいのか良く分からないが、僕はとりあえず頷いておく。

 そしてもう一度お礼を言ってリュックを背負い、村長の家を後にしたのだった。



 翌朝。村に続く一本道に村人が集まっていた。

 全員が僕を見送りに来てくれたのだ。

 昨夜、フレアに明日村を出ることを告げると、思ったより淡泊は反応が返ってきた。ああ、そうですか。寂しくなりますねって感じである。

 村長の意味深な発言で警戒していた僕にとっては拍子抜けだが、同時にちょっと寂しくもある。

 何と言うか、結構仲良くなれたと思うしもうちょっと別れを惜しんでくれると思ってたんだけどなぁ。

 あれかな、これは僕の一方的な勘違いだったとか、そういうことかな? だったら凄く恥ずかしいんだけど。

 そんなことを布団の中でもやもやと考えていたら朝になった。あんまり眠っていないけど、まあ大丈夫だろう。身体強化は割と洒落にならないぐらい基礎能力を底上げしてくれているし。


「月兎君、君のおかげでこの村の者たちは安心して次の生活を踏み出せる。本当にありがとう」

「こちらこそ、何もなかった僕を受け入れてくれて、こんなに色々な道具までもらってしまって、ありがとうございました」


 村長からもらった旅道具一式だけでなく、今朝になって村の人たちからも色々なものを貰ってしまった。女性陣達からは今日の昼食にサンドイッチを。男性陣からはこの国のお金を。アルメイダさんからは味を重視した保存性の少し悪い干し肉を。バウアーさんとメイソンさんからは共同で新しい剣とその鞘を貰った。そしてフレアからは、傷薬や痛み止め、毒消しなど多種多用な薬を貰ってしまった。


「くそう、寂しくなるなぁ」「俺の剣、大事に使ってくれよ」「遠慮なく使え。古くなったら売っちまえ」

「大切に使わせてもらいますね」


 バウアーさん、なかなかクールなこと言うなぁ。けど、売るのも悪いし古くなったらナイフにでも打ち直してもらおうかな。


「月兎さん、色々とありがとうございました」

「こっちこそ、色々とありがとう。フレアのおかげで、この村に来れたし、村のみんなにも受け入れてもらえた。フレアがいなかったら、僕は今頃野垂れ死んでたかもしれないからね。だからこっちこそありがとう」


 レイギスがいても、食料がなければ何もできないからね。それに、フレアに仲介してもらえなければ、僕はこの村に泊まることもこうしてリュックを用意してもらうこともできなかった。

 本当にフレアのおかげで今の僕があるようなものだ。


「ならお互い様ということで。私もお婆ちゃんの大切な畑を守ることができましたから」

「そうだね。お相子ということで」


 そう言ったところで、ツーっとフレアのホホに涙が流れた。


「あれ……ああ、笑顔でお見送りしようと思ってたのに」

「フレア?」

「やっぱり我慢できなかったみたいです。月兎さんとお別れするのはとても寂しいんです。胸がキュッと苦しくなって、涙が止まらなくなっちゃって」


 僕はそんなフレアの様子を見て初めて気づいた。

 フレアは我慢してくれていたんだ。僕の出発が悲しいものにならないように。笑顔で送り出せるように。昨日のあっさりした対応も、我慢してたから何も言えなかったんだと。


(むしろ気づいてないのお前だけ)


 レイギスが五月蠅いけど、今は無視する。僕にしか聞こえてないから、僕が答えなければいないのと同じだ。


「ごめんなさい。笑ってお見送り……」

「フレア、大丈夫かい?」


 村長がフレアの背中をそっと撫でる。

 フレアは袖で涙を拭うと、僕に歩み寄り胸の中へと飛び込んできた。僕はそんなフレアを抱き留める。


「寂しいです。お別れしたくありません。けど、それが無理なことも分かっています」

「ごめんね」

「謝らないでください! これは私が悪いんです。私のわがままだから」


 村人全員が見ているけど、僕はフレアを抱きしめてその背中を優しく撫でる。

 ニヤニヤした視線が鬱陶しくて目を閉じた。


「確かに僕は旅に出る。けど、もう二度と会えないわけじゃない。僕は遺跡を探して色々なところや町を旅するつもりだから、もしかしたらフレアが移住した町にもいくことがあるかもしれない。そんな偶然があったら、またフレアの作った薬を使わせてよ」

「はい。今よりもっといい薬を作って、高い値段で売り付けちゃいますから」

「じゃあそれまでに一杯稼がないとね」


 きっとそんな偶然なんて砂漠で一粒の宝石を探すような確率なのかもしれない。そんなあり得ない可能性をフレアは求めてくれた。

 フレアはゆっくりと僕から体を離し、赤くなった目尻で僕を見つめる。


「約束ですよ」

「うん、約束だ」

「じゃあ約束が叶うおまじないです」


 不意にフレアの顔が近づき、唇に何かが触れた。


「えっ――」

「ふふっ、レイギスに伝えてください。私のキスは月兎さんのものですって」

「えっ、ええ!? なに、どういうこと!? レイギス!?」

(くぁー! やられた! 俺のキスはフレアにあげたのに!)


 ちょっと状況が飲み込めないんだけど!? というか、フレアの後ろにいるアルメイダさんたちが無茶苦茶怖いんだけど!?


「月兎、フレアちゃんに手は出すなって言ったよな」

「俺たち、許さないって言ったはずだぞ?」

「覚悟、出来てるよな?」

(月兎、逃げるぞ!)

「え!? 逃げる!?」

「逃がさんぞ!」

「村長まで!?」

(騒がしく送り出してくれるんだ。ありがたく受け取れ)


 ああ、そういうことか。


「皆さん、お世話になりました!」


 僕は最後に頭を下げ、踵を返して走り出す。

 それを追ってくる気配はない。むしろ笑い声が聞こえ、皆が村の入り口からただ僕が走っていくのを見送ってくれた。

 悲しくない。騒がしく、そして笑顔で僕は旅立つことができた。

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