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奇妙な物語

「善綱様……嫡子に在られます……」


 女奴が強張った表情のまま、その手に乗る御衣を差し出す。

その布に包まれた子が二重に泣く。


「こっ……これは……」


 認めたく無かった、だが、それでも善綱は子をその腕に抱く。

正に珠の様な子が二人、産まれ出でた事を喜ぶ様にその声を上げる。

 しかし、産声が響く度に、周囲の雰囲気は暗く、重くなっていく。


「善綱様……やや子は……やや子は……」


 今にも、消え入る様な律の声に、善綱は我を取り戻す。

そして妻の下へと寄り添い、言う。


「ここに居るぞ!見よ!律、御前に似て凛々しい顔だ!この子等が育ち、歩く姿を見るのだろう!?」


 妻はその顔を見たいのか、その手を伸ばす。

その様子に善綱は本能的に双子を抱かせてしまった。

 二人の子の顔を見る律の顔は、慈愛に満ちる笑顔に包まれている。

その表情のまま、善綱へと双子を返し、告げた。


「…どうか……この子達を……私だと想い、分け隔て……なく、接して下さる事を、波雲の様に育つ事を願います……」


 虫が消える様な声を残し、眠りに就く様に倒れた。

産婆が首を振り、涅槃へと赴いた事を霧綱は悟る……蹲り、込み上げる悲しみを耐え、その手に残る遺児達を手に立ち上がる。


「我、妻の遺言だ……次郎君として扱え……」


 女奴にそう言い残し、善綱は部屋を後にした、妻の遺した言葉で非情になれない自分が悲しかった。


「律、もし太郎丸と次郎丸が育ち、歩く頃、君なら如何する?歳を重ねる度に、その顔立ちはどうなる事か……ただ、今はその言葉に従い、祝おう、君が望む事故に」


 善綱の苦悩は終わらない。

それから月日が経ち、双子は何事も無く育った、歳を重ねる毎に互いの顔は瓜二つとなり、見分けをつけるのは困難な物となった。

 このまま伺候させると双子の存在が世に知れ渡り、築き上げた名誉も家徳すら地に落ちてしまう。それを避けるには、忌み子を、その命を消さねばならなかった。

しかし、律の願いが凶刃を振るう事を踏み止まらせた、しかし、それ故に善綱は弟を誰も知らぬ地下牢へと繋がなくてはならない。

 生きていれば妻の言葉を守れる、そう考え、草木眠る晩に安らかな寝息を立てる我が子を連れ出した。

しかし、双子の兄、霧綱は物音に目を覚まし、弟を抱く父に気取られぬ様、父の後を追う。その先で見た事を霧綱が忘れることは無く、その後、度々弟を訪ねる事を、善綱が知るのは、この先、その命が尽きるまで訪れない。


「霧綱、己も十になる、これからは父に伺候し勤めよ」


 伺候を行う日の朝、霧綱の頭には、弟を何故連れて行ったのか、ただそれだけしか無かった。

だがそれを聞く勇気も無く、父の言われたままにするしかなかった。

 弟の居る場所は知っている、寂しくなれば……辛くなれば、訪ねれば良いと思った。

それから何かある度に、霧綱は弟の元へ赴いた、聡明で、相手の本心を見抜く事に長けた霧綱は、父の所業に、日々の伺候に鬱積が溜まり、外の事を弟に愚痴ていた。

 弟はそんな兄に対し自分の言葉を伝える。


「兄君、兄君の傍で国を動かす事、叶わず、私は無念で御座います……ただ、兄君がこの国を変える事が叶うなら、己の存在を誰も咎める事は無いでしょう。己が頼るのは兄君、御前しか居りませぬ。不出来な弟と侮蔑下さって構いませぬ」


 流暢な言葉を使い、弟は自分の思いを兄に伝える。自分が外に出れない事を悟らせるには重い言葉だった。

霧綱は愚痴た事を後悔した、弟は誰も知れぬ牢に繋がれ、日の光を見る事すら叶わぬと言うのに。

 そして、ただ産まれただけで、この様な仕打ちをする国を、父を変えようと心に誓った。


「心配する事は無いよ、僕がこの国を変えてみせる!必ずこの牢から出してあげる!そうしたら何も言われる事も無く、外を歩く事が出来るよ!」

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