相対する者
「貴方様。許されるなら名をお呼び下さい、貴方様を見た時、以前感じられた優しさが感じられない。それが悲しく恐ろしかった。はしたないと思われても良い。どうか私から離れないで……人を守る為に貴方が消えていくのが何よりも辛いの……」
この姫君は何を考えているのだろうか、人が恐れる筈の化生を何故ここまで引き止めるのか。理解の範疇を超えていた。
「何を考えておられるのか分かりかねぬ。何故私なのです、人ならば人を抱きしめ逢瀬を重ねれば良い事でしょう。」
冷たく突き放そうとしたが、葛の葉は決して離れない。
「嫌です、貴方様はどうしてここに来て下さったのですか!?愚かな人の争いに疲れ絶望し果てているでは有りませぬか!そんな御姿を見て嘆く事はいけぬ事なのですか?」
霧綱は言葉に詰まる、化生になってから人を助けても全ての人が自分を恐れる、それが辛く悲しかった。今こうして自分を見、そして嘆き憂いてくれる。それだけで報われた気がする。つと涙が落ちる。化生にも涙が有るのかと自分自身思ってしまった。
「姫君、貴女の名は?」
「静と申します……霧綱様……」
「静、今一度問います、私は化生の身です、それでも構わないというのですか?人として化生に身を委ねても良いと、そう仰っている、それで構わぬのですね?」
「たとえそれが人の道を外れる事だとしても……貴方様の御傍に居たい。そう思ってはいけぬ事ですか?……誰も知らぬ事だから……だから傍に居たい。」
淡い、月の光が二人を包む。
人と、人ならざる者が口を交わし、愛を交える事を祝福していた。
日が昇る前に霧綱は葛の葉の元を去ろうとした、去り際に少し、その寝顔を眺め、白銀の髪を一本残し、薄明るい京を走り去った。
さて次はいよいよ弟との争いだ。ん?戦いで苦戦したのは言霊を操る鬼しか居なかったのかって?まさか!人の怨念は何よりも強い、人が対峙するならば有無を言わずに喰われるだろう。
ただそれ以上に霧綱が強かった、それだけの事だ、先に言った鬼を除けば、そうさな……三匹の鬼が強敵だった。
霧綱が化生に成って間の無い頃だった。その頃に一人の若い陰陽師に出会った。
「人の姿をした化生か……並々ならぬ力を感じる。汝がこの京に瘴気を蔓延らせる元凶か?……違うにしても我の前に現れた以上、塵へと還るのが定めだがな。」
黒い狩衣を身に付けた男の周囲の空気が変わる。
「白狼、陰陽道の術は我にも効くのか?」
「分からぬ、ただ、まともに術に捕らわれば無事ではすまい、通るか退かねば、道は無かろう。」
「我は源霧綱!今正に生まれ出ようとする鬼を打ち倒す為、ここを通りたい!願わくば、どうか理解の程を頂けたい!」




