33 暗躍する少女
「え、えっと......私に用ってなんですか?“金太郎”さん」
『寄る辺の灯火』本拠点から少し離れた、草原の一角。
影が一帯を覆うほどの大岩の裏で、二人の男女が会話を始めた。
「クルミさん。俺が君と一対一で話したいって言ったのは、率直に言うなら──────俺が君を......疑ってるからだ」
リーダーの金太郎が、最初に加入したメンバーの一人であるクルミ、小柄な少女へ話す。
「疑ってるって....!わわ、私何か悪いことでもっ」
クルミの怯えるような視線に、一瞬だけ怯みかけた金太郎は、呼吸を一つ。
覚悟を決めたように面持ちを取り戻す。
「さっき起こった騒動。『パンクパンク』の話によれば、向こうは『寄る辺の灯火』と名乗る人物から先に襲撃を受けたと言ってる。“野太い声”といったから、やはり『ローブの男』だろう.....君ではない可能性は高いよ。ただ.....疑いを晴らすというのは君の為でもあるから....俺の質問に正直に答えてほしい」
金太郎の言葉に、クルミはゆっくりと頷いた。
核心を突くように、金太郎が質問を口にする。
「君の─────『職業』と『スキル』を教えてほしい。ここで...実際に使ってくれないか?」
『蛮族オンライン』では、チームメンバーになっても情報は共有されない。唯一表示されるのがHPやMPなどの簡易的なステータスのみで、位置情報はおろか、『職業』や、『スキル』さえも開示されない。
金太郎は、とある可能性について考えていた。
──────クルミが『ローブの男』かもしれない、という可能性を。
ありえない話じゃない。もし彼女なのだとしたら、野太い声というのも逆に分かり易いミスリードだ。
その上声に似合わぬ小柄という報告も怪しい。
これは金太郎の予想に過ぎないが──────『詐欺師』という職業。
このゲームは職業を選択する段階でどのような能力があるか把握することは出来ず、そういう名前の職業があるということしか分からないが、『詐欺師』という名前からして“声を変える”などの能力は容易に連想できる。
ずっと一人で行動をしているクルミだけが、全てのことに当てはまる。
そこまで考察していた金太郎に、しかし、クルミはあっさりと答えた。
「わかりました.....今ここで、お見せします」
クルミはインベントリから一本の剣を取り出した。
「私の職業は『剣士』......です」
「剣士....それなら、スキルは『踏み込み斬り』だね」
最も有名な職業の一つ、金太郎も最初のスキルは把握していた。
「じゃあ....やってみて」
「はい.....!」
すると、瞬く間に。
クルミは大きな踏み込みから、美しい切り下ろしを放って見せた。
「!」
────それは、金太郎の知っている『踏み込み斬り』だった。
金太郎は驚きつつも、一応、メンバーリストから最低限の情報を確認する。
プレイヤーネーム、現在のログイン情報、簡易的なステータスの中から、『MP』──────マナを確認する。スキルを使用したのなら勿論、マナは消費されるからだ。
そして金太郎は、確実にクルミのマナが消費されていることを確認した。
「確かに......『踏み込み斬り』を使ったみたいだね」
「これで....疑いは晴れましたか....?」
金太郎は一瞬の沈黙の後、表情を切り替える。
「うん。悪いね......疑ってさ。協力してくれてありがとう」
「よ....よかったです......しょうがないですよね。リーダーとして」
「そうだね」
質問は終わった。
直ぐに背中を見せ、それではと何処かへ去っていくクルミを見つめながら、金太郎は小さくため息をついた。
「これ以上は.....いや、俺が諦めるわけにはいかない、か」
限りなく薄い可能性────。
金太郎ですら見紛う精度で『踏み込み斬り』を再現し、気づかないうちに別のスキルで『MP』を消費したという可能性。
大人しい、悪く言えば今まで大した活躍を見せていないクルミが、そのような芸当をやってのけるだろうか。それとも、今までの行動から、あの“おどおどとした”雰囲気すらも、全て演技だったとしたら。
冷静に考えればバカバカしいと思いつつも、金太郎はクルミが去った方向から目が離せなかった。
────────その影で、大手筆頭の蛮族団である『寄る辺の灯火』を妨害し、一方の『パンクパンク』を懐柔する根幹を担い、騎士団の戦力も動かし。
小一時間で大きくこの世界を揺るがした女は一人、満足そうに笑っていた。




