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十一話 初会議

 例の公園に着いた。


 視線を奥の方にやると、奥にあるベンチに誰かがいるのが見える。

 無論、それが誰であるのかは言うまでもない。


 三年生の先輩たちは、すでに公園に来ていたようだった。二人ともベンチに腰かけている。


 そのベンチは三人座ろうと思えば座れるが、いざ座ろうとすれば少し窮屈になるくらいの横幅。

 実際二人はベンチとベンチの隅っこに陣取っていて、空いた真ん中のスペースを埋めるようにバッグ等の荷物を置いていた。


 こうやって顔を合わせるのは先週ぶりだ。だというのにまるで半月くらい間が空いたみたいに感じるから、少し不思議な感覚だ。


 しかしいざ対峙するとなると、


(気まずい……)


 その一言だった。


 ハクは自分から口を開くことはせずに、誰かが話を切り出してくれるのを待っていた。


「あぁ悪い。四人で座れる場所じゃねえとな」


 ベンチに腰掛けた男の一人がそう口にした。


 名前は知らないがよくしゃべる方だということだけ覚えている。


 にしても、彼の声はやけに緊張を呼ぶ。


 考えている間に、二人は立ち上がりだす。「あっちに移動するぞ」と言って、彼は向こう側にある屋根付きの休憩所を指さした。

 

 △△

 

 この公園は、広さと設備の多さの割にあまり人が来ない。

 自分にとっては、《小さいころ随分とお世話になってきた場所》という記憶がある。


 あるときは虫取り、あるときは砂遊びと、母親と遊びに来ていたことがよくあった。


(久しぶりだな、ここ来るの)


 日陰を作っているこの木造の屋根の下で、母親とよく弁当を食べていた。


 といっても、それは小学校低学年くらいの話である。今では新しいペンキに塗り変えられていて、それなりに時の流れというものを感じる。


 人が来ないというのは、自分が勝手に思っているだけのことである。


 まぁたまに、親子で遊びに来ている人たちを見かけたことはあるが、小中学生が遊んでいるのはほとんど目にした覚えはない。


 これも時代なのだろうかと、ハクは思った。


「申請書、出したんだってな」

「へ……」いきなり話が自分に振られたせいで、思わず素っ頓狂な声を発してしまう。


 相変わらずこの男は何を考えているかわからない。

 彼が次に発する言葉に、少しこころがおどおどする。


「ねえ、その前にさ」すみれが割って入るように口を開いた。「まず自己紹介しない? ハクはまだ、あなたたちのこと知らないから」


 すみれが二人に向けてそう言うと、


「あぁ、そうだったな」

 

 かくして、演奏部の自己紹介は始まった。


「おれは戸口智也。えーっと……他に何言うんだ? 自己紹介とか久しぶり過ぎて何言ったらいいかわかんねぇ」


 智也と名乗ったその男は、すみれに助力を求めだす。


「何の楽器弾けるの?」すみれが尋ねる。

「あー、ギターやってる。……これでいいか?」


 すみれは頷き、オッケーを出した。どうやらその程度の自己紹介でいいらしい。

 皆の視線はもう一人男へと集まった。


 そう、こっちがしゃべらない方の男。自分はまったくこの人のことを知らないから、この際知れるのはいい機会かもしれない。彼は一体どんな人なのだろう。


「青見陸。弾ける楽器はドラムとギターと……あと、ベースは前に少しだけやったことあるくらいでそんなに上手くない」


(多才だ……この人)


 その陸という男は、自分の自己紹介が終わるとすぐに次の人へと顔を向けた。

 流れるように、バトンはすみれへと繋がれていく。


「菱川すみれ。ピアノを弾くんだけど、バンドだとキーボードが主流になるの?」

「まぁ、別にどっちでもいいんじゃねえか?」


 すみれの何気ない質問に智也は安易な回答を示す。


「そうなんだ」

 

 すみれは特に興味を示したりすることはないまま、淡々と返事を返した。 


 まるで他人事のように皆を眺めていた自分に、いよいよ全員の視線が集まりだした。全身に緊張が走る。


 ハクはわずかに震える唇を噛みしめ、そして再びゆっくりと口を開けた。


「籔島、拍です……。ボーカルをやります。……えっと、楽器は弾けません。よろしくお願いします」


 終わりにぺこりと、ハクは三人に向けて頭を下げる。緊張でどうにかなりそうだった。『ボーカル』という言葉を口にしただけなのに、逃れられない責任と嫌悪を背負ったような感覚になった。


とはいえ、自分が楽器が弾けないのも、ボーカルを務めることになったことも、周知の事実。別に今さら責め立てられるようなことはないと理解している。


 とにかく、自分が足を引っ張らないこと。そして、この二人に嫌われないことを固く願っていた。それは自分が考える、最悪なシナリオなのだから。


「で、話ってなんだ?」智也は言った。

「これからの活動のこと、一度みんなで話すべきって思って」

「そんな話すことあったか?」

「ある」すみれは少し間を置いた。「ハクのこと」


 智也たちの目線がハクに移る。


(なんで……?)


「あの時、あなたたちは無理やりハクに部長を押しつけたけど、本当に何もかも全部ハクにやらせる気?」

「そういう話だったんじゃねぇのかよ? 第一、おまえがそう切り出したんだろうが」

「ハクは?」すみれはハクを見る。「バンドのことどれくらい知ってる? 機材のこととか演奏のこととか」

「全然、知りません……」


 ハクは目線を横にそらした。


「だから、おれらも手伝えって話か?」再び智也がすみれに尋ねた。

「うん。そうしないとハクにばっかり負担がかかるでしょ?」


(なんで……。すみれさんの方がずっと重荷背負ってるだろうに)


 むしろ、自分はまだ何もしていない。

 そう主張したい気持ちは山々であったが、こんな重たい空気感の中で言葉を発するまでには至らなかった。


 間が際立つ。智也は顎に手を当てて何かを考えている様子だ。

この何気のない間さへも、その場はピリピリと緊張のこもった空気を感じさせる。


「わかった」智也は口を開いた。「バンド組むって決めたからな。お互い、助け合わねぇとな」


 その口調は、まるで開き直ったかのような物言いだった。


「うん、ありがとう」すみれは口調を和らげながら礼を口にした。


顔は無表情でも決して無礼などとは思わない、本当にこころの底から感謝を示しているのだと皆が理解していた。


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