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エピローグ いつか


この島唯一の絶景スポットの高台にて ガーデンテーブルに頬を据えて転た寝している一人の女性

彼女の耳に届く微かに賑わう声は 見下ろした先に構える神社の手前の目抜き通りにて始まっていた


客が集まるお祭り騒ぎより遙か遠くにいる彼女は 背後より近付く一人の男性からの声掛けで

その重い頭を上げ 男性に赤く腫れた頬に残る跡を見せながら 瞼を弱々しく手で擦っている


「打ち上げる準備は整っているよ 谷下さん」


「ありがとうございます榊葉町長…… いつの間にか寝落ちてましたね」


気兼ねなく欠伸をしている谷下に榊葉は微笑みながらも 今日だけの特別な街並みを一望した


「俺が生きて来てあっという間の千年 君が生まれて早十数年の月日が流れた」


「仕事中ですよ〝お父さん〟

それにクローンとロボットの話は他言無用と家族ルールで決めたんじゃなかったっけ?」


「俺は…… 君を殺そうとしたんだ 肌に染みる悪夢の中でね」


「違う世界線ででしょ? えりちゃんがちゃんと子供っぽく説明していたじゃない」


「……でもまさか 五日目を拝めるとは思っていなかった

〝島の守り神達〟があなたの一声で一致団結するなんて夢にも思うまい」


「……そろそろ私達も行きましょうか 舞台上で町長の一言を待っている住民方もいるんでしょ?」


「そうだな……」


席を立つ谷下は腕をイッパイに上に伸ばし 乱れたスーツを軽く直していると


「榊葉直哉に意味を付けるとしたら…… 何が良いと思う?」


「それ…… もう何回言ってるんですか? あなたを造った谷下博士の妹さんが言ってたんですよね?

名前に意味は無い 名付けた人がそう呼びたかったら名付けたまでだと……」


「まぁそうなんだけどね~~」


「榊葉直哉と名付けたのは物心が育つ前の私ですが

同じ意味では 私を谷下希と命名したのもお父さんなんですよ??

……なんで私の名前を〝谷下希〟にしたんですか?」


「それはだな……」


「はい! この話は終わりってことで 牡丹卍に行きましょう」


腕を引っ張る谷下にしぶしぶ足を動かされる榊葉と一緒に

今まさに盛り上がりを見せる夕涼みの時間帯にて 既に気軽に訪れるお客達で場は温められていた


階段下の目抜き通り 一番目立つ鳥居の近くで客の目を引いていたのは染島だった


「おっ谷下先生!! 予定時間まで暇だったら見ていって下さい!!」


「……トルコアイスですか染さん」


アイスを餅の様に伸ばしてはねるように そして資料通りの芸当を客に見せていた

だが練習量も足りておらず 奪ってはコーンに付けてを繰り返し

なかなか客にアイスを提供しない一連の流れも上手く行かず

その場にアイスを落としてしまう彼に 見物客は大笑いしていた

これも一種の成功だろうと谷下達は目を瞑っていると


人目に付く町長の挨拶の前座として造られた舞台上にて 上がって歌っているアイリーンに注目した

二代目の彼女は谷下と共にカイコ真理教を一日で解散させ

各々が自由に表で趣味を楽しめるようにした彼女は歌い手を始めたのだ

ずっとやってみたかったらしい


「いよっ!! ワールズエンドの歌姫!!」


拍手する染島に合わせるように周りが手を叩き始めてからは

腹から透き通る歌声を披露するアイリーンは絶好調だ


そんな中 場の空気に馴染めていない隅っこにて グータラしている者達が



「せっかくの祭なのに楽しまないんですか? 神さん方?」



寿老人ティキシ「俺らは昨日 人工太陽を消滅してきたばかりっすよ?」


福禄寿ミカン「ご主人様の命令に背くのはメイドの恥ですが…… 今回ばかりは力の使い過ぎですね」


南野雪花神「肉じゃぁ!! もっと肉を持って来い!!」


白井伊詩「なんでこうなっちゃったんですかねぇ~~……」


神様達が愚痴っているが 何故かご一緒している死神の白井が不思議そうに祭を眺めている


「島民全員が死ぬ予定でしたのに…… 私達の仕事が空振りで終わっちゃいましたよ~~」


「ごめんなさいね死神さん」


「ま…… 死神一同転職を考えなくて済む未来になって良かったんですけどね!!」


まるで宴会前から泥酔しているおっちゃんの如く 神様達は愚痴を言いながらベロンベロンになっていた

放って置くに限ると判断したその時 谷下の腕を優しく両腕で包む少女が別方向よりやって来る


「露店を見て回ろうよママ!!」


「えりちゃんは元気だね!」


「ママのご飯が美味しいんだもん!!」


「……ゴメンね 私にはまだやる事があるから大家さんやアカリヤミさんと回って頂戴ね!!」


「……うん わかった」


一時の合流から中々解放されない大家の長話を 無理にでもアカリヤミにリンゴ飴を奢る形で別れる



「そろそろ夜になる 行こう」



榊葉の掛け声で谷下はえりちゃんの手をそっと離して大家達に預けると

再び二人はサイロへと戻る


「大丈夫か?」


「平気!! 不思議と苦しくならないのは人間と違うところなのかもね」


「短命の稀少心臓か…… てっきり俺の感覚だと人一人の寿命を表現していたのかと思っていたが」


「知れただけ覚悟は出来ていたよ それでも私達の親に感謝だよね」


導火線に火を付けて 筒から打ち上げられる花火は頭上で綺麗な花を咲かせていた


「我武者羅に四日間を精一杯生きていた私は幸せだったのかもしれない それを知れた私も……」


「ソトースがいなければ 何も知らずに恐怖を抱いてたかもしれないな」


壁に凭れる谷下は人形の様に地ベタに尻を着けた


「もうリミットが来てるのか……」


「うん…… まさかループしなかったら次の日に死ぬなんて考えもしなかっただろうね

この街に来て これから活き活きと働こうとしている私にとっては」


「ループする事が幸せだったなんて 随分と皮肉だな…… また悪役になろうか?」


「冗談でもやめて ……私達は最初から必要なかった 残された人類は真実を乗り越えて未来に進める」


「俺達だって生まれてくる意味はあった筈だ 現に俺は間違っていたけど探し求めていた」


「……じゃぁねお父さん 育ててくれてありがとう」


静かに目が閉じられていく娘を ただ表情を変える事も出来ない榊葉から本音が漏れていた


「看取る役目は俺じゃないだろ……

間違っても造られ 今日この日まで世の為人の為に尽力を果たしたんだ

ちゃんとした人間一人からでも感謝されろよ……」


「家族に看取られて死ねるって…… 幸せな事なんだよ……?」


「……そうかよ お休みなさい 希」


「良かったぁ…… 島の皆がまた明日って言える世界に戻れて……」


支える力を失った谷下はそのまま地面に倒れる

それを何もせずにただじっと見ている榊葉は 懐から拳銃を一丁取り出す


「俺達はしっかりとした理由で 生まれてこれなかった子供だった

……なのにいざとなれば 自分の居場所を探して立派にお役に立てていた

とても人間味溢れる生き方をしていましたよ

そう思いませんか? 谷下博士?」


心臓に向けて引き金を弾く榊葉は 発砲音と共にそのままゆっくりと後ろに倒れた


『俺も…… 人の親にまで成り上がれました…… 希を一人にして行かせることは出来ません

命を粗末にすることを お許し下さい 谷下博士ママ


人々はただ頭上を見上げていた これからも自分達の小さな国の発展を祈りながら

その眩い光景の足下には ただ自分達の未来を案じて旅立つ 人ならざる物の亡骸が転がっているなど

また新たな平和を願う第一夜が明けるまで 知る者はいなかっただろう



ーー今までもこれからも この世界はあなた達の物

立ち直れなくなる危機に直面したとしても 私達が手助け出来るのは些細な事でしかない人生でした

子守程度で語る若輩者の言葉ですが 人と人との繋がりを傍観していてとても気持ちの良い世界なんだと思います


私の魂は解放され 存在しない人格なので 最期に言葉を残してみるのも虚しいですが……


また明日にでも産声上げて地に足を着ける日を 生まれ変わりに縋って心待ちにしています


なのでいつかまた 今度は産まれた瞬間から

生まれて来てくれてありがとうと言ってくれる人の

腕の中で眠れることを希みながら



今はさようなら




 完

ご愛読ありがとうございました

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます。 長い間楽しませて頂いたことに深くお礼申し上げます。 みんなのキャラクターを、個性を生かしつつオリジナリティあふれる造形で表現する、すごいなあとずっと思っていま…
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