最終話 帰り道が見える
試しに私が経験した夢の様な話をキャリー達にしてみた事もあった
極秘にされている筈の人工太陽の件を知っていることに驚く顔は予想通り
しかしそうそう上手く呑み込んでくれる訳もなく
クローンを造る目的で未来から過去にやってくる説を提唱していたアイリーンさんまでもが
自分の話に真実味が無いと断言していたのだから少し腹が立つ思いをした
私がこの蛹島にやって来て数十年後の2050年
未来は変わる事なく フレアが広範囲に渡り その熱風で地球を埋め尽くす
海岸に立ってその様を目に焼き付けたかったが 実害は受けずとも目視で起こりうる危険を考え
シェルター代わりとなっていた研究所内で姉達と肩を組んで難を耐え忍んでいた
その後の出来事は話に聞いてた通り神様が現れ
優秀な研究員達が先導する復興は頼もしい以外の言葉で表現できず
自分だけが知る そこに自分がいる という変化以外 正常に残された人々の暮らしは続いた
「何してるの三木ちゃん??」
「落ち着いて来たから色々と準備をしようと思って まずは自治体や自警団とか設立しようかなと
……ていうかお姉ちゃん老けたねぇ」
「それは三木ちゃんも同じ!!」
「えっ……」
鏡に映る自分の顔を確認して改めて自覚する
「本来はもうこの世に存在しない老けた顔だったんだよね~……」
「??」
頬を撫で回している自分が映る鏡には 苦笑しつつも満足気味の私がいる
「私は今ここいる…… 谷下三木は生きている」
「どうしたの三木ちゃん?」
「私が生き続ける事で何か変わったかな?」
「そりゃぁもうね!!
全体の復興に神経をすり減らしていた私達研究員からすれば
島民の為に集中して尽力してくれた三木ちゃんも
そして一緒に付いて来てくれてた同級生の千代子ちゃんとのタッグは本当に功労賞ものだよ」
「ホント?! あの人に近づけたかな~~」
「……分からないけど こんな悲惨な時代になっても家族が生きててくれている事が私は嬉しかったよ」
「両親に移住の案を持ち上げた時は猛反対されてたけどね」
「……ごめんね 誰もあなたを信じてあげられなくて」
「仕方無いよ……」
かつての面影は無いだろう日本列島のある方角を見ている自分は悲しそうな顔をしていた
「もっと我武者羅にでも 荒い手を使って宗教まがいな事をしてでも注意喚起を促していたら
もっと多くの命を救えていたのかな?」
「一億人もこの島に入る事は不可能だから仕方無いよ…… それはもう散々言い合ってきたでしょ?」
事ある毎に黙祷を捧げて合掌をする三木と谷下のもとに 二人の声が掛かった
「ママ!! お腹空いた!!」
「うん! じゃぁ晩ご飯にしよっか!! 三木ちゃんも食べに来る?」
「……うぅん明日があるし 私も家で旦那と子供が待ってるから」
「そう! じゃぁまた明日!」
「また明日!」
手を振って見送る自分を見て 谷下はえりちゃんと手を繋いで自宅の方へと向かった
ふとその後ろを歩く友達タイプに話しかける
「ねぇちょっと!」
『何でしょうか??』
「出てきてよヨグ」
〝 ………… 〟
「どうするの? また繰り返す??」
〝 お前に未来の記憶があるのと同等以上に我も覚えている 同じ過ちは繰り返さない 〟
「そっか…… 私も年取ったし 短い間だけどまたよろしくね!!」
〝 ふん…… 用が済んだなら我は寝る エリと共に回復するのをただ待つだけだ 〟
正常に意識が戻った友達タイプは頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら谷下達の後を追った
私も自分の家族のもとへ走った 今となっては変わらない新しい明日へと目指して
お姉ちゃんがいて 姪がいて えりちゃんがいて 友達タイプがいて
そして事前に知らせていた なんとキャリーもいて そして私と私の旦那さんもいる
未来で知った 自分の死に対して一番苦しんでいた姉にしてやれる事は 結局未来に私が行っても無意味なことだった
だからタイムスリップは 元の時代に戻って悔いの無い生き方を選択出来るようにと
大事な人と話し合えた事も 苦難に巻き込まれた事も 無意味かと思える夢のような出来事全部
神様が与えてくれた自分の大切な時間だったんだ
「お姉ちゃん!」
「ん? なぁに!?」
「これからはずっと一緒だから 死ぬまでそばにいるからね!」
「……うん お姉ちゃんに会いに来てくれてありがと!」
何でも無い家までの帰り道 家で待っている 出迎えてくれる人がいるからこそ
より美化される夕陽の背景は尊く儚い 心を振り替えさせる素敵な時間帯
握る手が連なって 笑い合える日がいつかは途絶えるのかと考えるのは幸せな事なんだろうな
最初からいなかったら 残像を追いかけるだけの切ない臭いしかしなさそうだから
未来には夢がある 見てきたらわかる
その礎になる私達だって 今が幸せなんだと噛み締めて生きてられる
ハッピーエンドでは絶対に有り得ない それがこの世界の結末だけど
後世に私達の子孫が残り続けるなら 今の気持ちを有りっ丈の思いに乗せて伝えたい
〝 あの時の私達だって生きてました とても幸せでした 〟 ってね