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百五話 自分の進路


案内されるがまま 研究所へと連れてかれ

ロビーまで國灯コクトウさんと一緒に来ると 彼はたまたま通りかかった研究員の一人にこっぴどく怒られていた


「部外者は立ち入り禁止!! 島民でも入れちゃいけないでしょ!?」


「申し訳ありません!!」


やれやれと言わんばかりの態度を見せる研究員は

私に近付くなり その鬼のような表情を柔らげて接してくれた


「初めまして 私は夜桜愛海 ここ世界分岐観測所のナンバー3です」


「初めまして…… 谷下三木です……」


「谷下??」


瞬時に理解したかのように夜桜は 私をとある場所へと 灯闇さんから交代して導いてくれている

扉の上にある【生体培養室】と書かれたプレートの中に入ると そこにはちゃんと姉がいた


「え…… 三木ちゃん……」


「ごめんねお姉ちゃん…… 来ちゃった……」


何かしらのデータを取っていたのか 持っているペンと紙を落として私に抱きついて来る

その急な行動に 戸惑う自分と周りの研究員達


「ちょっと…… お姉ちゃん??」


「ごめん…… もう会えない気がしてて……」


姉は同僚に休憩を頂いて 私と一緒に禁煙室まで嬉しそうに歩いて行く


「コーヒーにする? それともお茶にする? それとも育む??」


「育む?」


「何でもない何でもない!! ……ンハハハ!!」


ドリップコーヒーを淹れてくれて 照れながらテーブルの上に置いてくれる

今まではプライベートの時の 完全にオフ状態の姉と接していたのだから

仕事スイッチが入っている場合の家族とのコミュニケーションが取り辛くなっているのだろう


「急に来て迷惑だったよね?」


「うん~~ まぁ立場もあるからねぇ……」


体温計の音が鳴ると同時に姉に渡す

安堵の表情を見せた途端に姉は 私に擦り寄ってきた


「うわっ!! ……ちょっと そんなところ見られて大丈夫なの?」


「大丈夫大丈夫…… ここには誰も来ないから」


自分の頭を頬ずりで攻めてくる身内にどう返したらいいもんかと

しかし私は未来で何が起こるのかを知っているので ただただやられるがままだ


「今日泊まって行くんだよね??」


「うん!! さすがにここから山形まで日帰りはちょっとね……」


姉が仕事に戻り作業を再開している間 特にやることが無いお邪魔虫の私は一通り研究所内部を見学していた

体が受け付けない閲覧禁止の場所は事前に姉から聞いており

提供されている筈の五体バラバラの部位が保管している場所だけは本能的に 覗きすらも拒否していた

クローンという単語は極秘なのか誰もそれを私に口にすることは無かった


「ここにいるのも暇になってきたなぁ…… あっ!!」


突然思い出したかのように私は 姉に一声掛けて地上へ戻る

病院でうなされている時に見た夢は本当だったのかどうか

事実確認する上での材料として一番最適な人物

彼女がいればと人知れず森の中で大声で叫んでみた


「雪花神様~~!! 南野雪花神様~~!!!!」


特にする事もなく 稀少動物を探す具合に ツチノコを見つける感覚で夕暮れまで探していた


「ハァハァ…… 大学生が何やってんだろう……」


戻ってきたサイロ手前では姉が出迎えてくれており

仕事も一段落ついたとのことにより 下山して近くの蕎麦屋まで夕飯を食べに向かう

國灯とキャリーも付いて来て四人という大所帯に 思わずお店の主も嬉し泣き


「初めまして!! いずれ君のお兄さんになるギア・キャリントンだ」


「はぁ…… どうも……」


勿論知っているし 変わらない性格を見ていると

ますます未来は本当の出来事だったのだと確信に迫りつつある自分の頭の中が不思議だった


麺を追加で頼む男衆と

蕎麦湯で天ぷらやら薬味やらと栄養分が溜まっているつゆを飲んでシメに入っている私達は

夕陽が完全に沈む頃には研究所内で各自自由行動になっていた


「個室かぁ…… なんかここって近未来の一人暮らしって感じ!!」


「地下だから窓に映る景色も偽りだし 意外と忍耐が必要なのよここの暮らしは」


「あぁそういうもんなんだ…… 従業員の皆さんは割と平気そうですけどね」


「タスクフォースのメンバーなんて訓練された精鋭達だもん

キャリーや染島さんは宇宙飛行士としてそらを目指しているから体が人一倍頑丈なのよね~~」


「そんなすごいメンツの中でお姉ちゃんがリーダーなんだ……」


「アハハ…… 頼りないよねぇ私 選ばれたのもたまたまだったんだと思う

いやらしい話 日本のプライドと保身?

この国も何か前線で功績を残したい一心でクローン製造の依頼を受けたって話もあるし」


「お姉ちゃん巻き込まれたんだ~~」


「仕方ないでしょう~~ 不況だもん日本~~

コロナ禍で外資がこの国に集中するなんて願ったり叶ったりじゃん?」


明るい会話だけど おそらく表にも出さない愚痴なのだろうと察した

ベッドは一つ 小学校以来の一緒に布団に潜る中 姉は聞いてきた


「んで三木ちゃんはどうなのよ? 卒業後の進路とか決まったの?」


「……ある人に憧れてね その人と同じ事やりたいかな」


「へぇ~~ 誰々?! 歴史上の偉人とか?!!」


「うぅん まだ産まれてない人だよ これからお姉ちゃん達が造ってくれるんだもん」


「……それって」


「どんな状況に陥っても転んで立ち上がり 自分の居場所を泣きべそかきながらでも

守りたいモノの為に進み続けた〝谷下先生〟みたいな人に私はなりたい!!」


「…………」


「大学を出たらこの島に来る予定 ……未来を見据えるならここが安全って言うのも知ってるんだけど

これから待ち受けるその未来を辿る蛹島の歴史の支えになりたいの」



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