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百四話 三木が今しか出来ない事


私は無事に退院することが叶う

自宅からの通院生活が日常的になってから翌年

再感染する事もなく 千代子と一緒に大学生活を順風満帆に送れていた


医者からも異常は見られないと申告されたが

自分の体内にいるウイルスがカルラウイルスだというのは黙っていた


そんな名前を口にしたところで信じるのは 恐らく人工太陽に関わる科学者くらいだろう


だけど何が起こるか分からないので 私は長い休みを取って蛹島に行くことにした

電車を乗り継いで中国地方へ あまり知られていない小さな港からしか船は出ないとのこと


駅弁の数が乗り継いでいる回数を記録させ

お腹が一杯になる頃には 東京駅まで来ていた

広島までの新幹線を見逃さず 駅のホームで時刻を確認していると


「…………ん?」 


背後からフラフラと歩いてくる男性がいた


「……えっ」


その男は三木を横切って線路に落ちるではありませんか


「ちょちょ…… ちょっと!!」


私は必死に掴み掛かってその男と共に後ろに倒れる

男は酷く痩せており 何日も飲まず食わずだったのかと思わせる


「いやぁ…… 助かりました…… 学生さんに奢られるとはお恥ずかしい限りです」


「いえいえ…… こんなご時世ですから色々あるんでしょうね」


車内で弁当を食べるのに夢中な男性の顔を 私はついつい凝視していた


ーー誰かに似ている……


そんなマジマジと見ているのがバレたのか

お茶を口に含んで一息ついている男性は照れ臭そうに話し掛けてくる


「顔にご飯粒でも付いてますか?」


「あっ…… すいません」


おそらく現代では無い しかし不思議とこの人を見ていると別の世界にいるような錯覚に陥る


「…………死人さんですか?」


「アッハッハッハ!! ……まぁ顔がコケているからねぇ」


「すみません!! そういうつもりじゃなかったんですけども……」


「恩人に名乗らないのも失礼でした! 私は〝榊葉直哉〟って言います!」


「え?!!! 榊葉直哉って……」


思わず口から心臓が飛び出そうになる


「え?!!!っと驚かれましても……」


「……変なことを聞きますが ロボットになったことありますか?」


「なって見たいねぇ 小さい頃から戦隊ものが好きでしてぇ!!」


「……今の人類を滅亡させて 新しい世界を創りたいとか思ってますか?」


「君は創作に興味があるのかい?? 残念だけどそういう神話の様な話は苦手でしてねぇ」


「そう…… ですか……」


明らかに死人さんだけど 榊葉直哉と同一という点は結びつけ難い

一先ずこの件は置いておいて 死人さんと一緒に中国地方まで同行することになった

会話する中で奇妙な事を聞く


「実は私の知り合いにも貴女のお姉さんと同じ名前の谷下希という作家がおりましてね

とあるキャラが偶然にも私と名前が同じで驚いたんですよ その先生の作品の登場人物なんですけどね」


「その作品の生徒会長として出て来るのが榊葉直哉だと……?」


「とある一人の読者がそのキャラクターを過度に毛嫌いしてまして なんやかんや印象深くなって楽しいんですよ」


「ちなみにその作品のタイトルは?」


「なんでしたっけねぇ~~ 申し訳ありませんが~~ ど忘れしてしまいました!」


創作の話になれば不思議と 信じられまいが何だろうがついつい未来で体験した事を話したくなった


「……という訳でしてね 彼は自分の名前 榊葉直哉の意味を求め続けているんですよ」


「ほぉ…… ではおそらく

そのクローンの身内にいる五十万の魂の中に谷下希先生がいたんでしょうね」


「それで締めて良いんでしょうかねぇ~~」


「名前なんてものはその人の人生の後ろから付いて来るものですから

あまり気にされない方が良いんですよ」


「それはまぁ…… そうですけど」


「意味なんてありません!! ただそう呼びたくなったとハッキリ言えばいいんです

それも個性ある名付け文句だと思いますよ」


出雲市駅で降りた私は さらに向こうへ行く死人さんに別れを告げる


「ちゃんとご飯食べて水分補給して下さいよ!! あとちゃんと睡眠も取る事です!!」


「他人に過保護過ぎると寿命が縮まりますよ」


「知ってるんですよ…… あなたの事」


「それはそれは…… 君は私のお母さんかい?」


「違いますけど心配なんですよ」


「……それでは!! 良い旅をボン・ヴォヤージュ!!」


ドアが閉まり 死人さんに手を振り終えて船が並ぶ蛹島行きを目指した

目的の島まで行く人なんてそういないので 船内では一人 スマホをいじる静かな時間を過ごす


「……見えて来た あそこにお姉ちゃんが」


小島にしては大きい方

その地に足を着けても初めての上陸という感動は無く

どこか懐かしさすら込み上げてくる


「すごい…… 区画が全く変わってない」


千年後の羨門街が存在する筈は無い

だが そこがいずれ自分がタイムスリップした未来の場所になることは一目瞭然だった

初めての場所で地図も持たずに歩き出す自分は 周りの島民からすれば変に思われていたかもしれない

山を登って見えてくるサイロに嬉しさすら感じるものもあり


近くにいる研究員であろう人に話しかけた


「ちょちょちょっ!! ここは立ち入り禁止ですよ!!?」


「ここに谷下希博士がいると思うんですが……」


「……あなたは一体」


「三木と言います 谷下博士の妹です」


唐突の来訪に あとで名前を知った目の前にいる國灯コクトウさんは目をまん丸に開いていた



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