百二話 全て元のままに
「さて…… これからどうなるのか?」
各々気を楽にしてその場に座る谷下達一同
到底寛げる空間でないにも関わらず まったりしている四人と一匹にえりちゃんは驚いていた
「成仏って形なのかな?」
「友達タイプが見様見真似で創った天国は信用できねぇし…… 残ってるのは地獄だけ 辛いねぇ」
オリジナルの谷下希とキャリーがおっとり夫婦の様に話し合っていると
それを微笑ましく見ていたクローンの谷下が自分の手に注目していた
「ありゃりゃ……」
それはカタも同様 一人と一匹は体の末端から徐々に灰となって消えている
三木は心配して声を荒げ それを聞きつけた夫婦二人もそれに目が行く
「カタ…… 谷下希さん……」
「まっ…… 俺は元々消える予定だったんだ 妖怪だし 理を外れまくってたんだからよ」
「私もそろそろ身内に留まってくれている皆を解放してあげないとね……」
カタはノソノソと体を這いずり 本当の飼い主のところへ
座っているオリジナルの谷下希の膝の上に乗るカタは本当に嬉しそうだ
「ゴロニャオン……♪」
「……ゴメンねカタ 千年前に会いに行ってやれなくて」
「会えたじゃねぇか 最後はこうして それだけで俺は満足だ」
余力がある限り谷下の肌を 顔で摩るカタはとても楽しそうに
首が消えるまで気持ち良さそうに 喉鳴らしを止めることはなかった
「じゃぁなご主人様…… それと三木も お陰で淋しくなかったぜ」
「うん…… 記憶に無いと思うけど カタは私を助けてくれたんだよ」
「ヘヘッ……!」
最後は飼い主の中で包まれながら 消える事に喜びを覚え カタは消えた
「ゴメンね希さん…… 家族を優先してしまって」
「……私も短い間でしたけど カタを家族だと思っていました
最後では猫ちゃんの笑顔が見れて良かったぁってなってます」
オリジナルは立ち上がってクローンを優しく抱き締める
「辛い人生を歩ませました…… 勝手と言われても仕方ありません」
「いいですよ別に! これも世の為人の為……」
「……消えるって痛い?」
「全然!! 意識が遠くなるだけ!!」
締める力が強くなるのをクローンの谷下希は肌で感じ取る
「私がこの島で育って思ったのは 先人達がちゃんと繋いで来たんだなと
歴史の資料なんか見なくても伝わってきました
生きていく上での最良最低限の暮らしが用意されている 素晴らしいと思いました
とても滅亡を迎え 当時の生活が瀕死に追い込まれてもなお 立て直した貴女方は我等島民の誇りです」
「……そう言って貰えると嬉しいけど 分身に褒められるのはちょっと不思議な気分!!」
「私はあの島が大好き……!!
大家さんがいて…… 高山課長がいて…… 染さんがいて…… まぁツムツムもいて……
アカリヤミさんや…… えりちゃんとまたご飯を食べて今日が始まるってなるんですよね」
「ママ……」
「図書館に行けば夕貴姉さんや千代子ちゃんと大した会話をせずダベって
カイコ真理教に行けばアイリーンさん そしてミカンさんやティキシという変態に付きまとわれたりね
一番困ることはやっぱり…… 夜桜さんに銃を向けられる事かな」
「フフ…… 千年経っても何してんのよキャリー!」
「自覚は無いが…… 時代によって俺みたいな奴は英雄にでも殺人鬼にでも見られるんだよな~」
「「 千年前でも千年後でも黄泉の国でも充分イカれてました!!!! 」」
声が揃った事でつい笑い合ってしまう二人に ただただ照れながら自画自賛しているキャリー
互いが同一人物なだけに 声が揃うとを不思議と笑いが絶えなかった
「未来の世界も捨てたもんじゃありませんでした…… また…… 同じ景色が見れるかな」
「見れるよ!! そうしてくれたのは…… 最後まで歩みを止めなかった貴女なんですもの」
クローンはえりちゃんをオリジナルの方へ連れてきて
「私を造ってくれてありがとう!! 谷下博士!! えりちゃん!!」
「「 ……どういたしまして こちらこそありがとう!! 」」
体は離れて最後に握手を交わす 存在しない筈の人格はとても人間らしく
「また明日…… 次の未来で!!」
「さようなら救世主…… 谷下先生!! 未来を救ってくれて本当にありがとう!!」
口元まで消えかかる彼女は その刹那まで目で笑っていた
完全に消えると その身に宿っていた複数の魂は散り散りにあの世へと向かう
ただ二つだけ寄り道しており
一つはキャリーの周りを そしてもう一つは三木の元へ
「染島さんと千代子かな?」
染島の魂から突起物が盛り上がったと思えば キャリーもとい夜桜は察して拳を押し当てた
千代子はただただ三木の顔に当て擦り そして二つの魂も皆と同じ方向へ飛んで行くのである
「これで何もかも元通りになっていくのかねぇ」
「いや…… あと一つ」
谷下は身支度をしていたえりちゃんの前に立って
「一つだけお願いがあるの」
「なぁにぃママ?」
「その…… 三木ちゃんを元の時代に返して欲しいの タイムスリップもえりちゃんの力だよね?」
「えっ? 違うよ?」
「…………え??」
「時間移動は自然に起こるものだし たまたまとしか言いようがないよね~~」
「そんな…… 千年前に帰してやることは出来ないの?」
「出来ないことはないけど…… 今のえりちゃんは猛省えりちゃんの真っ最中だし~~」
「そこをなんとか…… 全てを修正させるなら三木ちゃんがここにいることは矛盾しちゃうのよ?」
「うーん…… わかったよ」
えりちゃんもといエリ=ヨグ=ソトースは三木の前まで宙を移動してきた
「正確に戻りたい時間帯はありますか?」
「うーーん……」
三木は悩んだ どっちにしろという経緯があるので
「お姉ちゃんの話を聞く限り 私は現代に戻っても寿命が短いんですよ」
「そういえばそうですね…… 現代でのあなたには死相が出ています」
「元の時代に戻っても 結局死んじゃうんですよね コロナで」
「……現状維持なら 問題無いのかもしれません」
「と言いますと?」
「ご存じかもしれませんが
あなたの死因の元凶たるコロナはカルラウイルスという未知の菌に変異しています
もしもこのまま現代に帰ればもしかすると 死を回避することが可能だよ」
えりちゃんのその言葉に三木は希望を持ち始める