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百話 谷下希の寝落ち


町長として順調に軌道に乗り始め 講演会や街の会議に積極的に取り組む

未来を背負って立つ若者には決まって〝君は獅子の系譜かい?〟という台詞が好感を集めていた

カイコ真理教に関しては 教祖アイリーンと密に会っては活動報告を聞くが

いずれ消える組織の話なんかされても将来性を感じないので興味ありません


「もう十年か……」


〝 早いもんだな 〟


ソトースとは喧嘩していた時期と比べて随分と会話する量が増えていた

互いに信頼し合える仲というのは 青空を思い出させるくらいに清々しく

心なんて無いけど 心に余裕を持てる様な 晴れ晴れとした気分だった


実行まであと僅か 未来は明るく輝いている 町長の仕事なんて今にでも投げ出してやりたいくらいに


そんな折 アイリーンが自殺したという話が信者によって持ち込まれた

倦怠感を感じつつ死に様を一目見ようと葬儀場まで重い足を運ばせる

信者の一人が遺書を読み上げ 文面の最後の一行には名前を伏せられているが自分宛であろう言葉が


『私に世界を見せてくれて、ありがとう。』


葬式は何事も無く終わりに近づき 俺はとある人物が気になっていた

すると その人物は複数の幹部を引き連れて 俺に小声で挨拶をする


「初めまして 二代目尊師を務めますアイリーンと言います」


「……よろしく」


自殺したアイリーン・沙羅の娘だとその少女は名乗った

養女か俺の知らない男との間に出来た子供か

どっちにしろ提供できる物は完遂しているから 特に交流も最小限でいいだろうと判断した


そして運命の時が迫っているのを教えるかのように あいつは現れた


「アァ~~~~~~ だりぃマジでだりぃ!! お祭りをやるかやらないかとか 勝手にやってろっての」


「お水飲んでしっかりして下せぇ榊葉町長 他の人に見られちゃぁ面目立たないでしょう?」


「染島に合わせる顔がねぇよ……

段ボールで署名した住民達の意見が束になって送られてきた時は笑うしかなかったね」


大将は泥酔している俺がネガティブ発言しているのだろうと 気持ちを勝手に汲んでくれていたその時

店の引き戸を開けて暖簾を潜ってきたのは 谷下希だった


「ハハ…… …… 君は…… 獅子の系譜かい?」


「え?!!!!」


この様子だと俺の事は丸っきり忘れたみたいだな

十数年も引き離したんだ これくらいさっぱり記憶から無くして貰えると助かる


解散した後に彼女をアパートまで送っていく羽目になった

もしもの事があってはならないので なんとか島の歴史のウンチクで気を逸らしていたが

鳥肌が立ったのは その時の彼女の意外な発言だった


「ハナビ…… ハナビって何ですか?!」


「…………やっぱり」


こいつは危険だった

生まれて間もなく字が書けた時から危惧していたが

このクローンは何から何まで知っているのか 非常に恐ろしい存在だ

デロリアン・カーディオの性能を見誤っていた しっかり調べて置くべきだった


だが研究所に人工心臓の資料は確認されていない 焼却されたか盗難防止の為に口伝えだったのか

確認の為に夜桜家の子孫がいる牡丹卍に忍び込んで見たが 答えに結びつける様な物は置かれていなかった


空振りで終わったが興味深い本を見つける

とある研究者の谷下希に対する悪口が書かれていたのだ

世間的評価などと偽って よくもこんなに出て来るもんだと感心した反面

谷下博士は人道的で周りからは大体慕われていたから こういう接点の無い研究者がいたのは笑えた


そんな道草を食ってれば 例のイカれた神主に目を付けられ 追いかけ回される


「なんとか撒けた…… 顔も見られてない」


夜桜は染島と仲が良かったから 顔バレは何としても避けたかった

この細心の注意もあと少しで無意味になるが


そして二日後 太平洋の中心にて太陽面爆発したフレアは海を蒸発させて この街にやって来る

自分で手を下すのは嫌だった故に このトラウマさえも感じる災害が起こるまで待った甲斐があった

町長の職務など真っ先に放棄し

かつて研究員の隠居生活として使われていたチューダー洋式のハウスでのんびり過ごしていた俺は

どうせなら終わりを伝える花火でも打ち上げようと 谷下希や染島達を呼んだ


会話を合わせ 自分達がこれから死ぬとも知らずに酒盛りでドンチャン騒ぎ

酔った谷下希を高台の方へ行かせると 俺も後ろから跡を追う


思い出深いガーデンテーブルで酔いを覚ましている彼女に近付こうとした その時

近くにはもう一人 少女がいたのだ 見覚えのある同じ姿形をしたその存在に俺の顔が真っ青になる


「ねぇママ…… ママったら!!」


意識が朦朧としていた谷下は気付いていない

今のうち谷下希よりも危険度が増したあの少女を殺さなければならない

と 思った次の瞬間


「変な冗談やめてよ…… これは夢だよね? もう私寝ちゃってるんだ… 外で寝るから風邪でも引いたんだ」


谷下希の眼には 俺の眼にも映る世界を埋め尽くす土煙が目前に迫っていた


「クソッ……!! 支障は出ないよなソトース?!!」


〝 いや殺せ!! あの子供を今すぐ殺せ!! 〟


途端に身体の自由が効かなくなり 穴という穴から垂れ流れる黒い液体で強制的に意識が無くなる


〝 どこまで邪魔をすれば気が済むんだ!! エリ!! 〟


「ママはさぁ…… 終わりコレを見るの 何回目?」


〝 死ねぇぇぇぇ!!!! 〟


榊葉を完全に乗っ取ったソトースの殺意に満ちた魔の手が えりちゃんに掴みかかろうとした瞬間

逆に少女はその手を握り返した


「……ふーん まだ一回目なんだ」


神らしからぬ恐怖の表情を見せるソトースを前に

えりちゃんは不敵な笑みでご機嫌に言う



「ンフフフ♪ つっかまえ~た~♪」



時空が圧縮される感覚を覚え ソトースは別の場所へと弾き出された

そこは真っ白に統一された 何者も立ち入れぬ空間 



「もう逃げられないんだよ♪ 〝ヨグ〟♪」



そこにいたのはクローンの谷下希とえりちゃんだった



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[良い点] 100話おめ!( ´ ▽ ` )
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