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アルビノ  作者: 川奈そら
3/4

村の訪問者

物想いにふけっていると、子供たちが開け放った扉から、村長が声をかけてきた。

「エレン、邪魔するよ」

そばに見知らぬ男を引き連れている。フードを被っているため顔は分かりにくいが、歩き方に躍動感があり、若い印象を持った。教会に入るのにフードを取らないあたりが若さゆえなのか

ふたりは、そのまま室内に入ると、奥にいたグラツィアーノ神父を見つけ、そのまま進んでいく。

「神父、先程は悪いことをした。」

「いえいえ、先客ならば仕方ありませんよ。」

グラツィアーノ神父は、そう言いながら村長の後ろから近づく男に視線を移す。気になって仕方ないようだ。それに気づいた村長は、男の方に手をやって、男の紹介を始めた。村長とグラツィアーノ神父との会話なので立ち聞きは失礼かとためらわれたが、興味がそれを上回ってしまい、つい聞き耳を立ててしまう。

男は、ゆっくりとフードを取り、神父の前でおじぎをした。

「こちらは、ベイクという。以前、ブランジーニの家にしばらく住んでいたのを覚えていないか?」

「ベイク、ベイク・・・・・・」

そういいながら、神父は、目線が右上を向いていた。思い出そうとしている様だ。

私も同じようなしぐさをしていたかもしれないが、しばらく頭の中で「ベイク、ベイク・・・・・・」と呪文のように繰り返し思い出そうとした。

現在から過去へと記憶を引っ張り出すうちに、震災前の記憶にその名前があった。

「あっ、変人ベイク」

思わず声に出てしまった。意表を突いた場所からの声に驚いた男は、こちらに振り返り、私に目が合うと、しばらく私を見つめて「お転婆エレン!?」と叫んだ。

私は、そんな風に呼ばれていたのかと過去の自分が恥ずかしいのと同時にそんな風に言われて腹が立ち何か言い返そうと言葉を探していると、察したグラツィアーノ神父が、咳払いをする。私はその咳払いに我に返り、「ごめんなさい。」と誰に対してでもなく頭を下げた。

「来なさい。」

グラツィアーノ神父が手招きをする。私は、しぶしぶといった態でグラツィアーノ神父の元に向かった。

後ろから、ミーナも付いてくる。

ベイクは私より年下だったはずだ。

ナーの美味しさに魅了され、「世界一美味しいナーをつくってやる」と息巻いて、村中の家をまわってナーの作り方を聞いて

男なのに実際にナーを作って振舞ってもいて「変人ベイク」と揶揄されていた。

グラツィアーノ神父の所に行くと、村長との話はあらかたついていたようで、神父は私に向かって言った。

「アメリアさんの隣に空き家があるだろう。旧ブランジーニ家だ。あそこの掃除を頼む」

「えっ」

グラツィアーノ神父がまた咳払いをする。

私はおしとやかと対極にいるようだ。

私自身が、「私はおしとやかです」と公明正大に言えないのだから、この評価はつつましく受け止めようと思う。

ただ、掃除をしなければならない理由がわからないので、私は、なぜ、掃除しなければならないのか聞くと、この質問に村長が答えてくれた。

「ああ、ベイクがあの家を相続することが決まってな。臨時政府発行の証文もあるし、心配ない。」

ベイクが遠慮がちに続けて答える。

「叔父が、王都で他界して、俺にはここの家を残してくれたんだ」

「そういうことだから、頼んだよ」

すると、私の後ろで大人の会話を聞いていたミーナが元気よく言った。

「ミーナも行く!」

その声に、ベイクは驚いた様子で、辺りをきょろきょろと見まわして、私の隣にいたミーナに目を止めた。

ミーナを最初に見た人の行動は、二通りに別れる。

嫌悪感から彼女の目も見ず離れるか、美しさから彼女の目にくぎ付けになるかのどちらかだ。

ベイクは、ミーナの瞳を見つめて「よろしくお願いします。」と頭を下げた。

ベイクは後者のようだった。

困惑気味な村長をよそに、神父は、腰を落としてミーナに目線を合わせて

「ミーナ、ありがとう。無理しないでお手伝いするのですよ。」

と、頭を撫でた。立ち上がって私と目を合わせる。

「頼んだぞ」と言われている気がした。

村の厄介事は、大体グラツィアーノ神父を経て私の所にやってくる。それは、村で一番余暇を持て余しているのは多分私だからだろう。

平日の教会はがらんとしていてやってくる人はほとんどいない。

来てもグラツィアーノ神父への相談や解熱薬の調合などだ。私でも修道院での修行で薬草の知識は神父に負けない自信があるが、村の人に言わせると「まだまだ」だそうだ。

結局、やることと言えば教会内を清潔に保つ事ぐらいだ。それも一番小さなロウソクがなくなる前には終わってしまう。

暇を持て余している私を見て村の人は、あれやこれや頼みごとをするようになった。

赤ちゃんの世話から、隣村へのお遣い、薪の採取に、やぎの世話、更には神父から薬草の採取のお願い。村のシスターは、要するに何でも屋なのだ。

「ファビオにも声をかけといた。後で来てくれるそうだ。じゃあ頼んだぞ。」

「あの、神父様はどちらへ?」

「私は、これから村長と今朝話せかかった今後の村の事について話してくる」

グラツィアーノ神父は村長と共に村長宅に出かけて行った。

村長は小声で何か神父に対して文句を言っている。

ミーナに手伝わせる事を抗議しているのだろう。

容姿による偏見は年齢を重ねるほどに残るようだ。

入れ違いにファビオがやってきた。村長たちとの会話が聞こえる。

ファビオは村で唯一の公衆浴場の管理者でファビオの妻のアンナと切り盛りしている。

薪の手配から、浴槽の清掃、客の垢すりまで何でもこなす。

公衆浴場は、前王の祖父に当たるグリエルモ・ラクシュが、流行り病の抑止のため全国に広めたのが始まりだ。娯楽のない村では数少ない社交場の一つで大変な人気ぶりだ。

そして、ミーナの唯一の肉親で叔父に当たる。妻の反対でミーナを引き取る事ができなかった事が引け目に感じているのかよく顔を出すようになった。

公衆浴場が混み合うのは、日が沈んでからだ。

ファビオも昼の時間は暇を持て余しているため、男手が必要な時は彼が呼ばれていた。

「ミーナ」

「ファビオおじちゃん」

ミーナは満面の笑みでファビオに駆け寄っていき抱きつく。ファビオはミーナの父に雰囲気が似ているのかミーナはファビオになついていた。

ファビオは持っていた脚立を置いて、ミーナを抱きかかえる。

ミーナを抱きかかえるファビオに挨拶をする。

続けて、横にいるベイクを紹介し、これまでの経緯を説明する。

「よろしくお願いします。」

ベイクは、そう言ってファビオに会釈した。

「申し訳ない。覚えていない。」

ファビオは、すまなそうにしている。

「こちらの叔父の家に厄介になったのは、半年ほどと短かったので覚えていなくて当然です。」

「そうだったけ?」と私はいった。

「親が急死して、一時的に預かってもらったんだ。ただその頃の叔父の家は、あまり裕福とは言えなくて、

 しばらくして、王都に嫁に行った叔母に引き取られたんだ。

 叔母の家は、旦那さんがパン屋でな。俺には渡りに船だった。」

「そうだったんだ。ところで、エルは元気?」

「エル?」

「エルアナよ。ブランジーニさんの、いとこじゃないの?」

「ああ、エルアナね。ああ、ここに来る前に葬儀に参列して、少しばかり、話したよ。」

「そう。元気にしてるんだ。」

「それじゃ、挨拶も済んだ事だし仕事を片付けに行くか」

そう言いながら、ファビオは、ミーナを降ろした。

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