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ミレニアム1001  作者: みづきゆう
第一章、魂なき少女
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四、国王の崩御(2)

 ニュートは、静かに眠っている国王のほおに、そっとキスをした。


「あなたに愛されて、私は幸せでした。父を知らない私に、父の愛を教えてくれたのは、あなたでしたから。リーナの親でいられるのは、すべて、あなたがいてくれたからです。ありがとう、父さん。」


 イゾリーナはカッとして、何かを言おうとしたが、フェルドに強く制止(せいし)させられ、寝室から出て行った。イゾリーナがいなくなったあと、ニュートは遺髪(いはつ)をとりだし、国王の指にまいた。そして、フェルドにむかい、ありがとう、と言い寝室の(とびら)に手をかけようとする。


 フェルドは、


「おれが、今度からお前を守ってやる。おじい様のようにはいかなくても、かならず守ってやる。だから、無茶(むちゃ)だけはするな。お前に何かあったら、おじい様に顔向けできない。」


「フェルド。前々からきこうと思ってたが、どうして、オヤジとお前は、私に対して、いつもそうなんだ? アンジェリーナの養子になっているとはいえ、血縁も何も無い私に、王族であるお前達が、そこまでする理由はないだろう?」


「それは・・・。」


 フェルドは、ニュートから顔をそらした。ニュートは、フェルドに背を向けたまま、


「ありえない話だと思うが、私の疑問にこたえてくれないか? ノーだけでいい。だが、可能性があるのなら何も答えなくていい。」


「お前の疑問は、ノーだ。おじい様は、おばあ様よりも、おさななじみのアンジェリーナを愛していたが、実質上のつきあいは友人関係だけだった。おばあ様が亡くなられてからも、アンジェリーナとは友人関係だけでいた。それに、おじい様は誠実な男だ。女性関係などいっさい無かった。」


「・・・そうだよな。私は、ただの孤児(こじ)だ。たった三歳で親に捨てられた。三歳の子供を捨てるくらいだから、私の産みの親は、まともに私を育てられない環境にあったのは事実だろう。すくなくとも貴族ではない。平民の中で、最下層にいた者だった可能性もある。


 だから、オヤジとお前が、なぜこうまで私につくしてくれるのか、理由がわからなくなる。つい、ありもしない理由など考えてしまう。すまない、わすれてくれ。」


「お前がどうして、施設にあずけられたのか知らないのか? 本当に?」


「知る勇気がなかった。だから、ずっと考えないことにしていた。リーナがきてから、なおさらそれが・・・。」


 ニュートは、扉をあけた。帰りは、送ってくれなくてもよいという。だが、フェルドは、強引にニュートの手を引っ張り単車(たんしゃ)に乗せ、ニュートがいた施設へと向かい、そのまま置き去りにした。


 よけいな事をと思いつつ、ニュートが施設内部へと入りかねていると、外に出てきた子供に見つかり、むりやり中へと連れ込まれてしまう。ニュートは、出てきた施設長の笑顔にとまどいながらも、きくのは今しかない、と覚悟を決めた。


「あなたが、ここへきた理由ねぇ。そういえば、話してなかったよね。あなたが、ここへ預けられた理由は、正直に言って、私もわからないの。ただ、雪の降る寒い夜だったことだけはおぼえている。


 もう寝ようとした時、呼び鈴がなって何事(なにごと)かと思い玄関に出たら、ひどい熱におかされたあなたが薄着(うすぎ)のまま置かれていたの。病気の子をこんな寒い夜に置き去りにするなんて、ずいぶんひどい親もいたものだわと、とても腹がたったわ。」


 やはり、きかないほうが良かったかもしれない。


「何か、他にわかることは無いのですか。そうだ、雪が降ってたと言いましたよね。足跡(あしあと)か何か残ってませんでしたか。」


「古い話だからね。でも、あったはずよね。ともかく、あの時のあなたは、ひどくやせ(おとろ)えていたうえに、肺炎も併発(へいはつ)していて、とても危険な状態だったのよ。ごめんなさい。それ以外のことは、どうしても思い出せない。」


「当時の私は、何か話してましたか。ここに、引き取られた私は三歳でしたよね。三歳なら、何かしら話したはずです。なんでもいいんです。」


 施設長は、


「あなた、ご両親をさがすつもりでいるの?」 


「ただ、知りたいだけです。さがす気なんてありません。私の親は、アンジェリーナだけでいいんです。彼女以外、必要ありません。」


「ただ、知りたいだけね。まあ、あなたも人の親になったんですものね。気になったとしても当然でしょう。あなたは、意識不明の重体で、すぐさま入院させ、しばらく病院で生死のさかいをさまよっていたのよ。


 やっと命を取りとめて、目をさましたあなたは、ニューティスという名前以外の記憶がなかった。言葉も話せず、こちらが話しかける内容も理解してないようだった。


 医者は、高熱で記憶喪失(きおくそうしつ)になった可能性があると言ってたわ。名前だけでも、おぼえていたのは奇跡(きせき)だともね。とうぜん、歳なんてわからない。名前しかおぼえてなかったものね。


 ごめんね、ニュート。あなたの正式な誕生年月は本当はわからないのよ。医者と相談して、三歳くらいだとして、あなたがここに来た日を誕生日にして、役所に登録したの。」


 手かがりらしい、手かがりなんてまったくなかった。でも、


「置き去りにされた時、私が身に着けていた衣類とかは、すでにありませんよね。」


「本当は取っておかなければならないのでしょうけど、とにかく(よご)れていてね。洗ってもきれいになりそうもなかったし、衛生(えいせい)を考えて捨ててしまったのよ。」


 ニュートは、もうきくことは無いと、タクシーを呼んでもらったあと、施設をあとにした。ニュートが去ったあと、施設職員が国王崩御のテレビニュースを報道していると言ったのをきき、施設長は、ニュートがなぜ今になり自分のことを知りたがったのか理解し、胸が痛くなった。



 それから数日たった日、研究室にいたニュートにフェルドから電話がかかってきた。国王の指に遺髪をまいたまま、葬儀に出すのに成功したと言っていた。いったん、遺髪を指からとり、(ひつぎ)におさめる時点でこっそりとまき直し、その上に指輪をはめたらしい。


 フェルドにしては、気がきくなと思いつつ、ニュートは電話を切った。そして、水槽(すいそう)を見つめる。中には、なんだか得体(えたい)のしれない小さなカタマリがういている。


(ただの肉のカタマリだな、これは。ダミーとはいえ、もう少し、まともなモノにすればよかった。けど、研究は失敗したと思わせなければ、あとでえらいことになる。データも書きかえておいたし、そろそろここらで潮時(しおどき)かもしれない。)


 また、フェルドから電話があった。今度は、緊急(きんきゅう)らしい。


「母上が、役人をそっちに向かわせた。とりあえず逃げろ。あと数分で到着する。」


 あと数分じゃあ、駐車場に降りたとたん、御用(ごよう)になるじゃないかと(なか)ばあきらめつつ、来る日がきたなとニュートは覚悟を決めた。逃げるよりも、ここにいて言い訳したほうがいいだろう。


 そして、十分後にやってきた役人達に、すべての資料とPCが没収され、ニュートは御用となった。水槽内の何かは、さすがに始めて見た者の目には不気味(ぶきみ)にうつったらしく、そのままにされた。たぶん、あとからやってくる研究者達へのご褒美(ほうび)となるだろう。


 きっと、自宅のほうにも役人が行ってる。だが、自宅内のPCのデータも研究室同様、書きかえられており、リーナの正式なデータと資料は、自宅の地下倉庫にキンブルによって、人からは決してわからないように保管されている。


 リーナが役人達におびえなければいいな、とニュートは思いつつ、犯罪者同様、あれこれと取調べを受けたあと、研究室のカードキーと暗証番号を没収され、とりあえず、帰ってもいいことになった。


 それから二ヵ月くらいたったある日、大学受験の願書を書いていたニュートのもとに、首都の医科大の教授から自宅へと電話がかかってきた。例の肉のカタマリを調べたという大学教授からだった。ニュートにとり、適当(てきとう)につくったダミーだが、大学教授によれば、かなり興奮する出来具合(できぐあい)だったようだ。


「すばらしいですよ、あれは。小さいですが、皮膚(ひふ)と筋肉組織の出来は見事(みごと)というしかありません。見た目は、グロテスクですが、個々のパーツはとてもよくできています。よく、あれだけのものをたった一人でおつくりになられましたね。天才とはきいていましたが、実に実にすばらしい才能です。」


 どうやら、引き抜きのようだ。似たような電話は、すでに医薬品会社とか、どこかの研究所からもきている。自分の研究成果はすべて排除(はいじょ)されるかと考えていたが、どうやらそうでもなかったらしい。


 電話は、


「でも大変でしたよ。女王陛下は、人間の模倣(もほう)など()まわしいと言って、すべての研究成果を捨てるよう命令されたのですからね。それを学者一同、医学に役にたつからと必死で押しとどめたのです。


 やはり、すぐれたものは、すぐれているのです。あなたも、そう考えたからこそ、マッド・サイエンティストと呼ばれても研究をなさっていたのでしょう?」


 どうやら、結果らしきものが表に出たとたん、世間の目は変わったようだ。リーナを守る為のスケープゴートのつもりが、思わぬ展開(てんかい)となった。


 ニュートは、


「遠まわしの話は、私は好きではありません。研究室もなくしてしまったことですし、そろそろ私も学歴くらい欲しいと考えていたところです。試験無しで、そちらの大学に学生として、特別に入学させてもらえませんか? ただの一学生でいいんです。別にどの学部でもかまいませんので。」


 大学生活も悪くは無いはずた、ニュートはそう考えつつ電話を切った。

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