二、スノウ(2)
リーナは、
「レッド、乱暴。ニュート死んだらどうする?」
「うるさいから寝かせただけ。すぐに気がつくよ。さあ、パパッと用意するよ。リーナ、袋にある男性用化粧道具出して。それと、こいつ視力いくつだっけ? 0.1の使い捨てコンタクトで間に合うかな。」
で、午後になった。ニュートはリーナといっしょに屋台に立っていた。屋台では、ホットドックを販売しており、リーナがつくる係りで、ニュートは売る係りだ。
「すごく似合うよ。だんぜん、いまのほうがいい。」
「ったく、レッドのやつ、あとでおぼえていろよ。あ、ダメダメ。写真とるな! 私達はモデルじゃない!」
ホットドックを買いにくる客より、イケメンと美女のカップルを見学にくる客が圧倒的に多かった。メガネをはずし、はやりの服を着て、今風のアイドルイケメンに変身したニュートは、国文科のオッサン学生とは、もはや別人だ。
(え? 彼って、マーシー・カーティスなの? あのダサイ男? 顔がいいのはわかってたけど、こんなにかっこよかったんだ。ねぇ、となりにいる子、あの子、カーティスの妹さんだって。きょうだいそろって、美形ね。うらやましいわ。)
(あの子、リーナちゃんて言うんだってさ。ああ、ダメダメ。ナンパは、ヤバイって話だ。ほら、レッド・ドラゴンがさ、この前あの子に手を出そうとした体育科の学生、しめあげたってウワサだ。
兄貴のカーティスも、妹にはけっこうウルサイってきいてるしな。それに、あれだけのイケメン兄貴をもつ妹だったら、おれ達じゃあ、まず相手してくれないだろう。かわいいけど高嶺の花だ。)
(ねぇねぇ、知ってる? カーティスさんて資産家みたいなのよ。社会人で仕事しながら、教養のために古典なんてやってるくらいの人だものね。
彼が運転している古いタイプのスポーツカー、この前ネットで値段調べたけど、マニアのあいだじゃ、かなりの高額で取引されてるみたいなのよ。限定販売の希少タイプみたい。
いったい、いくらぐらい、お金持っているのかしらね。あれだけかっこいいし、玉の輿ねらってみたかったりして。)
何はともあれ、屋台は例年より、はるかに売り上げが多かったのは事実だ。そして、翌日、大学の新聞部が発行した大学祭特集の記事は、一面に美形きょうだいの写真を大きくのせていた。この新聞もよく売れ、さらに新聞部に写真も売ってくれと、学生がつめかけたという。
いつもの姿にもどったニュートは、新聞を持ちながら、ひやかしにくる学生をずっと無視し続けていた。そして、帰りぎわ、新聞部の部室から、リーナが出てくるのを見つけた。手には封筒のようなものを持っている。
何を持っているのかなと思い、声をかけようとしたらレッドがきたので、思わずかくれてしまう。リーナはレッドとともに、どこかへと行ってしまった。
新聞のことで何かあったのかなと思いつつ、ニュートは帰宅した。それからまもなく、レッドとリーナは帰ってきた。リーナは、何も言わなかった。けど、ニュートは気になって仕方が無い。
リーナがキンブルといっしょに夕食の用意をしている最中、こっそりとリーナの部屋に忍び込んだ。そして、荷物をあさる。封筒があった。昨日の屋台での自分の写真だった。
(この写真をもらいに行ってたんだ。けど、どうしてこんな写真。)
・・・ニュート、いまのほうがいい。
ニュートはため息をつき、写真を封筒にもどした。
(帝国風に染まってきたんだな、リーナは。古い考えのもとで、貴族として育った私では、もはや理解不能か。けど、リーナといっしょに、売り子をしたのは楽しかったな。)
郷に入れば郷に従えか。リーナがのぞむなら、時々でいいなら、そういう姿をしてもいいだろう。そうすることにより、自分のそばにいてくれるのなら、それでいい。
(娘に捨てられまいとしている、父親の心境だ。父親か。リーナはいま、私に何をのぞんでいるのだろう。父親としての顔をすると、もうかなり、うるさがられるし。)
また、ため息が出た。リーナの部屋から出て、さらにまたため息。そして、部屋に帰ってからも、夕食までため息がとまらなかった。
その晩、レッドのもとに、ジョナサンから電話が入った。どうやら、大学祭でのクレームのようだ。
レッドは、
「目立つ行為はさせるな、と言ったじゃないかって? そんなのきいてないわよ。新聞部のエサになったのが、そんなに気に食わないの? あら、ネットで美形きょうだいって、もう流れちゃってるの? ケータイでかなり撮影されてたしね。。
・・・・。
そんなにどならないでよ。もう、ここにいるって、世界中にバレちゃってるしさ。この前アガった、クマに襲われた身元不明の遺体だって、どっかの国のスパイだったじゃない。あんたが派遣したガードにも引っかからなかったし、スノウが見つけてくれなかったら、この城に侵入されてたかもね。
なら、いっそのこと有名にしたら、かえって安全じゃないかと思ったのよ。まだ、マーシー・カーティスだけと、ニューティス・リーガンは時間の問題でしょう。別にいいんじゃない? ダムネシアのマッドは、帝国にいるってもう常識だしね。
たぶん、カンのいい人は、すでにマーシーがだれか見抜いているはずよ。ネットで流れたのなら、以前、彼が接触した人達もさわぎたてるはずよ。ダムネシアの反応は、どうなっているのかしら。
とにかく、あれだけのイケメンさんよ。おまけに資産家だって、学生のあいだじゃ有名だしね。玉の輿ねらってる子も、けっこういるみたいよ。そんなに、どならなくてもいいんじゃない? 彼は、いつまでもかくれているタイプじゃないわ。それに、かくし続けられるタイプでもない。
なら、立場を公にし、公器としたほうが得策よ。これで、どこかの国も簡単に手出しできなくなるし、彼の安全は国民が守ってくれるわ。なにせ、巨万の富と発展する未来、強大な力を国にもたらしてくれる、貴重品だしね。
彼の値段? さあ、つけられないわね。帝国は幸運だったのよ。ダムネシアはどうして、彼を追放なんかしたのかしらね。事情とやらは、うかがっておりますけど、私には、父親の愛情を妾の子に取られた、嫉妬に狂った女の事情程度にしか考えられないわ。
たぶん、それがダムネシア女王サマの本音でしょうね。前国王サマは、とてもニュートをかわいがっていたようだし、わざわざ、お印までご用意なさい、ひそかにだけど、公的にも王子だと証明する証書類をフェルド殿下をつうじて、おわたし下さったくらいだもの。
・・・・、たしかに、彼は、王子サマよりも科学者として価値のほうが上ね。それに、彼は、自分が王子だという事実には、いっさい関心もってないわ。親が見つかって喜んでいるだけよ。そう、それだけ。
話は終わり? だったらもう切るわ。え? 今度、スパイをナントカする時は、先にちゃんと連絡入れろ?
むりむり。私はともかく、スノウの行動は、私にだってわからないもの。この前だって、血のついた服の切れ端をもってきて、私に報告したくらいだものね。もう、そろそろ、ネコの正体、教えてくれてもいいんじゃないかって? まあ、ネコにクマのマネなんかできないものね。
たぶん、話してもいまのあんたじゃ理解できないわ。そのうち、ニュートが気がついてくれるから、彼から説明を受けなさい。じゃあ、おやすみ、クライス。」
パソコンを叩いていたニュートの指がとまった。そして、あくびをする。時計を見たら、すでに夜中一時。寝たほうがよい。
(提出課題を片付けてから、仕事か。家でできる仕事とはいえ、両立はけっこうむずかしい。けど、やるってタンカ切ってしまったし、挫折してリーナにかっこわるいとこも見られたくない。あきっぽいと言われるのもいやだ。)
ガサリと窓の外から音がきこえた。ふくろうでもいるのかな、と思い、カーテンを少しつまんでみる。窓の近くの木の枝に、月明かりに照らされた白い影が見えた。なんだ、スノウか。
フーッ! とつぜん、白い毛が逆立った。そして、パッと枝から飛び、一瞬にして、スノウの姿が消えた。ニュートは目を疑う。スノウが消える直前、何かに姿が変わったように見えた。
(な、なんだったんだ、いまのは。飛んだ瞬間、翼のようなものが見えた。姿もネコではなかった気がする。見間違いでなければ、あれはたしか、色は白いけど、レッドのトレーラーの絵と似ているような・・・。)




