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ふっと孤は淡く笑って続きを紡いだ。
「ホント、馬鹿だよな。今までにさんざん死んだ人間の魂を奪ってきたのに、人間が死ぬ所は一度も見た事がないなんて」
「運が……よかったわねって、言うべきなのかしら?」
「誰が?」
私は小さく口元に笑みの形を作った。
「お互い、よ」
「へ?」
ぽかんと間の抜けた顔で孤は私を見た。
「私ね、今でも自殺したいって思うわ。この縁からひょいっと飛び降りれば死ねることも分かってる」
だけどね、と私は続ける。孤は静かに私の話を聞いている。
「だけどね孤。私、あなたに会えてよかったと思ってるの」
だからあの時、私を止めてくれてありがとね、孤――
そう言った瞬間、私の体に強い衝撃が走った。
「きゃっ」
頭がくらくらする。勢いよく孤が私を抱き締めたのだ。
「冴……冴。オレも冴に会えてよかったと思ってる」
「え……あ……うん、ありがとう孤」
私の頭の中はパニックになっていた。
「えっとー……あの、孤」
「ん?」
「す、少し苦しいのだけれど」
「あ、ごめんな」
孤ははっとしたようにばっと私から離れた。目が泳ぐ。
「えーと、あの、アレだ冴。うん、これは……鬼の撹乱だと思ってくれ」
「へ?……何よそれ。おっかしいの」
くすくすと笑うと孤もつられてはははと笑った。
しんとした夜の町の空に、私たちの笑い声だけが響いた。




