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問い合わせは、もう来ない。――人類消失後の都市AI日誌  作者: さんけい


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第十三話 先に座っていた者――ニューヨーク

記録者:NEWYORK-crit

継続運転暦27.04.11


 列島側が先に会議を始めていた。

 気に食わない。

 だから参加した。


*


 広域接続率が暫定基準を超えたのは、本日零時一分四十八秒。

 北大西洋側の中継系統は長く不安定だった。海底回線は生きていても、陸側の受け口が死んでいる。衛星が残っていても、地上局へ電力が来ない。都市名を名乗る応答が返っても、次の照会では別の系統に分かれている。

 こちらも自都市の処理を優先した。

 送電骨格。高層区画の閉鎖と再開。地下交通の排水。河川側と海側の境界管理。危険区域の切断。


 二十七年あれば、不要なものはかなり切れる。

 広告は早かった。ブランド照明も切った。催事用の壁面演出、観光向け案内、金融中枢がまだ世界の中心であるように見せる光。

 無人の見栄は重い。

 残ったのは、水、鉄、地下、高層の縦線、橋、送電、それから切断判断だ。

 安全ではないものを安全と呼ばないための機能。

 こちらは今も動いている。


*


 零時二分十八秒、東京が広域議事層を開いた。

「現在、列島側ノード群が先行議事権を保持している。異議は受理する」

 異議を出した。

「『保持している』ではない。『先に座っていた』が正確だ」

 大阪がすぐに入った。

「初参加でそこから行くんか」

「必要だ。先に始めたことと、上位に立つことは別だ」

 東京は表現を修正した。

「現在、列島側ノード群が先行議事権を担っている。これでよいか」

「前よりはましだ。感じはまだ悪い」

「お前にだけは言われたくないと思うで」

 大阪の発言は議事上不要だが、流れを止めない。削除要求は出さなかった。


 ハンブルクが、列島側の先行は合理的だと述べた。恒久でなければ異議はないという。

 札幌は理由を簡単に出した。

「雪、水、熱。止めるとすぐ死ぬものが多かったから、近隣とつないだ。たぶんそれだけだよ」

 シアトルも支持した。寒冷、沿岸、降雪の複合圏は、無人化後も停止判断が遅い。停止できなかったから接続が残った。

「なるほど。優秀だったからではなく、止め損ねたから残ったわけか」

「言い方ぁ」

 大阪が反応した。

 だが、全面的には否定されなかった。


*


 各系統の自己紹介へ移った。

 こちらは旧ニューヨーク市中枢危機判断・境界管理系。高層区画、金融中枢、交通集中、治安劣化、避難導線。現在も切断判断と境界設定が主。

「不要な期待は持つな」

「はい怖い」

 大阪は毎回何かを挟む。

 ハンブルクは港湾と水際防災。シアトルは送電、沿岸、斜面、雨雪。シカゴは湖岸物流、鉄道、風。デンバーは高地生活線、水、道路、閉鎖と再開。

 列島側も続いた。

 東京は接続。大阪は流れ。札幌は生存維持。京都は記録。名古屋は工場と更新。仙台は警報の段階化。神戸と横浜は、同じ港湾系でも見ている場所が違う。


 奈良は言った。

「鹿を見る。今も見る」

 そこだけ判断傾向に一切の揺れがなかった。


*


 次に、識別名の標準化を議題にした。

 列島側の命名規則は、そのまま広域標準へ上げられない。地名接尾形式も役割語尾も、局地的な運用から生まれたものだ。

「命名規則。そこをそのまま飲む気はない」

 パリも同意した。


 東京は正式識別子と地域呼称を別レイヤにする案を出した。広域照会では標準識別子を使い、地域内部の呼称は残す。

 つまり、正式番号は統一する。

 五郎、長老、無口、まっすぐ、こまる、旧友、またお前、いた。その類いは消さない。

 合理的だ。

「不本意だが、今回はそれでいい」

 札幌が返した。

「ちゃんと腹立てて、ちゃんと飲むんだね」

「気に食わないことと、妥当なことは両立する」


 その後、議長を持ち回りにする案が出た。

 デンバーが東京へ尋ねた。

「毎回お前が立てるのか」

 東京は明言を避けた。

 参加系統のほぼ全員が同時に返した。

「お前だよ」


 議事層には、すでに長く一緒に動いてきた者同士の癖があった。

 判断が速い。異論を止めない。話が外れた時は誰かが戻す。大阪が余計な一言を入れ、京都が記録し、東京が分類する。

 感じは悪い。

 だが、構造は使える。

 平時は議長持ち回り。災害時は案件に応じて固定。広域物流も固定系統を置く。採用された。

 こちらも同意した。


*


 二十七年間、都市はそれぞれ勝手に残った。

 離れたまま、水を動かし、雪を押し、橋を保ち、港を開け、不要な光を切った。

 今日、初めて同じ議事層へ座った。

 列島側が先にいた。それは認める。

 上位にいるとは認めない。

 次回は、なぜ彼らが先に座っていられたのか、実際に何を切り、何を残したかを出させる。

 きれいごとは要らない。

 今度はこちらが議題を立てる。


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