第20話 この話には続きがあって、水音がする
その音は、雨粒というより、誰かが古い硝子を爪でそっと弾いたようだった。
レトリスは足を止めた。
商店街の夜は、閉じたシャッターの内側で店ごとの匂いを眠らせている。魚屋の氷の匂い、花屋の湿った土の匂い、喫茶ペアカップから漏れるコーヒーの最後の匂い。アーケードの灯りは半分だけ落とされ、床の石畳には昼の足音がもう残っていなかった。
雨は降っていない。
それなのに、蒼い鞄の奥から、水が跳ねた。
レトリスは鞄を胸の前に抱えた。
「今、鳴りました」
背後で、青鞄電子堂の戸に鍵をかけていたガニーロが振り向いた。彼の手には、さっき渡しそびれた青い縁の傘がまだある。閉店した店の前で傘を二本持つ姿は、どう見ても晴れた夜には不自然だった。
「電子音ですか」
「違います」
「留め具がこすれた音では」
「違います」
「では、サポナーラさんが置き忘れた雨合羽が自分の存在を主張した音かもしれません」
「雨合羽にそんな権利を与えないでください」
レトリスが言い返すと、ガニーロは少しだけ肩の力を抜いた。けれど視線は、彼女の鞄から離れない。
また、音がした。
今度は、はっきり雨だった。
ざあ、と言うには遠い。ぽつ、ぽつ、と数えるには多い。布の中に閉じ込められた雨が、十年ぶりに出口を探しているような音だった。
レトリスの指が、留め具を外した。
「ここで開けます」
「店の中の方が」
「あなたの店は配線が危険です」
「直しました」
「昨日、棚の下から延長コードが三本出ていました」
「あれは、直す前の記念です」
「危険を記念にしないでください」
言い合いながらも、二人は同じ方向へ歩き出した。
青鞄電子堂の鍵がもう一度開く。戸を引くと、古い鈴が夜の店内で小さく鳴った。昼間は修理待ちのラジオや手回しライトが客の声と一緒に並んでいる場所が、夜になると別の顔を見せる。壁の時計は二つともずれていて、一つは五分遅れ、もう一つはなぜか一時間半だけ早い。
レトリスはその時計を見上げた。
「正しい時間を示すものはないんですか」
「僕がいます」
「あなたは十年遅れています」
ガニーロは反論しなかった。
その沈黙が、レトリスの胸の内側を少しだけ冷やした。
言いすぎた。そう思っても、言葉はもう店の床に落ちている。拾っても元の形には戻らない。
ガニーロは作業台の上を手早く片づけた。ねじを小皿に寄せ、はんだごての電源を確かめ、エメットが昨日失敗して焦がした紙片をそっと箱へしまう。その動きはいつも通り細かい。手元だけ見ていれば、傷ついた様子はない。
けれど、彼は傘を傘立てに戻さなかった。
作業台の横に、青い縁の傘を立てかけたままにした。
レトリスは蒼い鞄を台に置いた。金具を外すと、紙に包まれたペアカップの片割れが、鞄の底でかすかに揺れた。その隣に、布で巻いた未完成の基板がある。角の一部に水染みが残り、古い銅線が細い蔦のように絡んでいる。
ガニーロが手を伸ばしかけて、止めた。
「触ってもいいですか」
「勝手に触ったら、店の看板を『危険配線電子堂』に変えます」
「許可を得たら」
「青鞄電子堂のままです」
「では、触ります」
彼は手袋をはめ、基板を布ごと持ち上げた。
その瞬間、店の奥で、どこかのラジオが勝手に雑音を吐いた。
ざ、ざざ。
レトリスは肩を跳ねさせた。
ガニーロはすばやく振り返り、棚の上の古いラジオを押さえた。電源は入っていない。けれど、スピーカーの奥が微かに震えている。
「電源を切っているのに鳴るんですか」
「古い機械は、時々こちらの都合を聞きません」
「それは機械の問題ではなく、持ち主の教育方針の問題です」
「厳しく育てたつもりです」
「育っていません」
言い終える前に、作業台の上の小さな感熱紙プリンターが、かたりと動いた。
紙は出ない。
代わりに、音が出た。
雨音。
遠いはずなのに、すぐ足元を流れていくような水音。
レトリスの喉が、自然に動いた。
「これ……」
十年前の匂いがした。
本当は、匂いなどするはずがない。店内にあるのは油、金属、古い木箱、乾いた紙の匂いだけだ。それでも彼女の鼻の奥には、あの日の水が戻ってきた。濡れた制服。濁った川。避難所の蛍光灯。母の手が、蒼い鞄の紐を無理やり握らせた感触。
ガニーロが、基板の端を見つめた。
「録音端子が生きています」
「録音端子?」
「昔、音声メモを入れられるようにしようとしていました。避難所までの案内を、光だけじゃなくて声でも出せるように」
「迷子にならない鞄」
レトリスの口から、その名がこぼれた。
言った瞬間、胸のどこかで、小学生の自分が顔を上げた気がした。
雨の日に長靴を鳴らしながら、青い布を広げて、ガニーロが紙に回路図らしきものを描いていた。レトリスは、見た目がかわいくないと文句を言い、彼は「目立つ方が見つけやすい」と言った。二人とも、完成させる前から、誰かを助けられるつもりでいた。
ガニーロの指が、基板の小さな黒い部品に触れた。
雨音が少し大きくなった。
ざああ、と、店の床下から水が上がってくるように。
レトリスは反射的に一歩引いた。
その足が、作業台の下に置かれていた工具箱にぶつかる。
「すみません」
「大丈夫です。箱の方が慣れています」
「箱を慣れさせないでください」
言い返す声が、自分でもわかるほど細かった。
ガニーロはそれ以上、冗談を重ねなかった。作業台の下から小さな椅子を出し、レトリスの方へ押した。
「座ってください」
「必要ありません」
「足元の段差を二回見ています」
「見ているなら段差をなくしてください」
「明日、木材を買います」
「今は言い訳を買わないでください」
それでも、レトリスは座った。
膝の上で両手を重ねると、指先が冷えていた。さっき喫茶ペアカップで金継ぎの線を見た時とは違う冷たさだった。あれは過去が形を変えて残っていた証拠だった。今のこれは、過去がまだ水のまま、どこかから染み出してくる感覚だ。
ガニーロは基板を小さなクリップで固定し、コードを一本つないだ。店の電気が一度だけ弱くなった。
レトリスがすぐに言う。
「今の点滅は危険です」
「はい」
「はい、ではなく、原因を」
「古い安定化電源を使ったからです」
「なぜ古いものを」
「新しい電源は、エメット君の避難灯に使っています」
レトリスは口を開きかけて、閉じた。
怒るための言葉が、別の場所へ曲がった。エメットの作った小さな避難灯が、店の棚で乾かされている。配線はまだ不格好で、焦げ跡もある。けれど、ガニーロは新しい電源をそちらに回している。
レトリスは、少しだけ視線を落とした。
「……危険ではない方法で続けてください」
「はい」
ガニーロは、別の電源に替えた。
雨音が、再び鳴る。
今度は、雨に混じって、何かが聞こえた。
息を吸う音。
布が擦れる音。
誰かが、泥水の中で足を取られたような音。
そして、幼い声。
『先に逃げて。あとで追いつく』
店の中の時間が止まった。
壁のずれた時計まで、秒針を忘れたように見えた。
レトリスは立ち上がっていた。
椅子が床をこすり、かすれた音を出す。
「今の」
ガニーロは、基板を見たまま動かなかった。
「あなたの声です」
レトリスの声は、驚くほど静かだった。
「子どもの頃の、あなたの声です」
ガニーロはゆっくりうなずいた。
「たぶん」
「たぶん?」
「声は、そうだと思います」
「何に向かって言ったんですか」
ガニーロの手が、作業台の端を握った。
白くなるほど強くはない。けれど、彼の指先は、ねじを落としそうな時と同じ緊張を帯びていた。
「わかりません」
「わからない?」
「その日のことは、ところどころ抜けています」
レトリスは一歩近づいた。
「私は、あなたを待っていました」
「はい」
「喫茶ペアカップの前で、雨が強くなるまで待っていました」
「はい」
「あなたは来なかった」
「はい」
「でも今、あなたは『先に逃げて』と言っていました」
ガニーロのまぶたが一度だけ下りた。
「言っていました」
「誰に?」
雨音だけが答えた。
ざ、ざざ。
古い録音は、肝心なところで濁る。水に浸かった紙の文字が、読めそうで読めない時のように。
ガニーロは、小さく首を横に振った。
「誰かが、泣いていた気がします」
レトリスの胸が、強く鳴った。
「誰か?」
「路地の方から声がしたような気がします。水が、膝より上まで来ていて。僕は、鞄を濡らさないように抱えていて」
彼は蒼い鞄を見た。
レトリスも、見た。
十年前、二人で作りかけた迷子にならない鞄。今は彼女のものになっている蒼い鞄。その中に、未完成の基板と、欠けたカップと、まだ使われていない鍵が眠っている。
「覚えているのは、そこまでです」
「都合よく忘れたんですか」
言った直後、レトリスは自分の声に嫌気がさした。
ガニーロは責め返さなかった。
「忘れたくて忘れたなら、もう少し楽だったと思います」
その言葉は、静かに落ちた。
床に落ちても割れなかった。金継ぎも必要ないほど、最初からどこかひびの入った言葉だった。
レトリスは目を伏せた。
黙っていると、蒼い鞄の基板が、またかすかに震えた。
感熱紙プリンターが、今度は本当に紙を吐き出した。
じじ、と短く。
紙は五センチほど出て止まった。
ガニーロが切り取る前に、レトリスが手を伸ばした。
そこには、かすれた文字が並んでいた。
『この話には続きがあって』
その下に、もう一行。
『水音が、先に覚えている』
レトリスは紙を握りつぶさなかった。
破ることも、笑うこともできなかった。
店の奥から、突然、別の声がした。
「ぎゃあああああ! やっぱり出た!」
サポナーラだった。
レトリスとガニーロが同時に振り向く。
棚の陰から、サポナーラが雨合羽を頭からかぶって転がり出てきた。その後ろから、オリーンが紙袋を抱え、エメットが懐中電灯を持っている。
レトリスは目を細めた。
「なぜ、そこにいるんですか」
サポナーラは雨合羽のフードを両手で押さえたまま、床に座り込んだ。
「忘れ物を取りに来たら、店の中から雨音がして、これはもう古い水害の無念かと思いまして」
「無念という言葉を、軽率にかぶらないでください」
「かぶっているのは雨合羽です」
「その雨合羽も軽率です」
オリーンが紙袋を持ち上げた。
「私は夜食を持ってきました。閉店後に難しい顔をしている人には、甘いものが必要なので」
「盗み聞きする理由にはなりません」
「盗み聞きではなく、心配聞きです」
「新しい言葉を作らないでください」
エメットは懐中電灯を胸の前で握り、気まずそうに足元を見た。
「すみません。僕、ガニーロさんが店の電気をつけたのを見て、また何か直してるのかと思って……」
ガニーロが、ようやく少し笑った。
「直している途中です」
「何をですか」
エメットの問いに、誰もすぐには答えなかった。
基板なのか。
録音なのか。
十年前の約束なのか。
それとも、雨音の奥に残った、誰かの背中なのか。
サポナーラだけが、小さく手を挙げた。
「ちなみに、俺の雨合羽は直りますか」
レトリスは振り返った。
「破れているんですか」
「いいえ。心が」
「帰ってください」
「はい」
サポナーラは立ち上がろうとして、雨合羽の裾を自分で踏み、もう一度転んだ。
オリーンが笑いをこらえ、エメットが慌てて手を貸す。ガニーロは雨合羽の裾を外し、破れがないか確かめた。手が自然に動いている。人が転べば、まずそこへ向かう手だった。
レトリスは、その手を見た。
十年前も、きっと同じ手だったのだろうか。
誰かの声がすれば、約束の場所へ向かう途中でも足を止めたのだろうか。
そう考えた瞬間、怒りが少しだけ形を失った。
許したわけではない。
納得したわけでもない。
ただ、あの日の空白に、水以外のものが流れ込んできた。
オリーンが紙袋から小さな包みを出した。
「青魚サンドの端っこです」
「なぜ夜に青魚サンドを出すんですか」
「考える人には塩気が必要なので」
「甘いものではなかったんですか」
「甘いものもあります」
「統一してください」
「心配に統一感はありません」
レトリスは返す言葉を失った。
エメットが、作業台の上の紙を見つめている。
「水音が、先に覚えている……」
彼がその一文を読み上げると、ガニーロの表情がわずかに変わった。
「エメット君」
「はい」
「その文、怖くないですか」
エメットはしばらく考えた。
「怖いです。でも、少し、助かる感じもします」
「助かる?」
「忘れている人がいても、何かが覚えていてくれるなら、あとから探せるから」
店の中が静かになった。
サポナーラまで、雨合羽のフードを握ったまま黙っている。
レトリスは、エメットを見た。彼はまだ小柄で、懐中電灯を持つ手に少し力が入りすぎている。けれど、その目は逃げなかった。誰かの後ろをついていくだけだった少年が、紙の上の言葉を自分の場所で受け止めている。
ガニーロは、基板の録音部にもう一度耳を近づけた。
「この音、雨だけではありません」
レトリスが顔を上げる。
「他にも何か?」
「水が流れる向きが変です。路地を下る音ではなくて、途中で渦を巻くような音が入っています」
「音でわかるんですか」
「はっきりとは。でも、同じ雨でも、側溝、川、地下の排水口で音が違います」
サポナーラが目を丸くした。
「雨音にも種類があるんですか」
レトリスが即座に言った。
「あります」
「即答ですね」
「避難情報を扱うなら、雨の強さを聞き分ける訓練は必要です」
「では、俺の雨合羽が擦れる音は」
「不要音です」
「心に刺さりました」
「刺さったまま帰ってください」
オリーンが笑い、エメットも小さく笑った。
ガニーロは笑わず、作業台の上に古い地図を広げた。第六話の時に見せた、手書きの危険箇所だらけの地図だ。赤い丸、青い線、黄色い付箋。雨の日に開きにくい扉、夜に暗くなる坂、足元の悪い通り。そこに、彼は鉛筆で細い線を引いた。
喫茶ペアカップから、川沿いの路地へ。
そこから、旧地下避難施設サブマリンの近くへ。
レトリスは身を乗り出した。
「その経路は、十年前の避難路ですか」
「当時の記憶と、父の点検メモにあった線です。ただ、このあたりで水音が変わるなら」
「地図と実際の水の流れが違っていた可能性がある」
言ったのはレトリスだった。
ガニーロがうなずく。
「明日、アリシャーさんに見てもらいます」
「今夜ではなく?」
「夜の水路は危険です」
「あなたがそれを言いますか」
「僕が言うから、説得力がある場合もあります」
「反面教師という意味ならあります」
ガニーロは少しだけ困った顔をした。
オリーンが青魚サンドの包みを開ける。夜の店に、焼いたパンと塩気の匂いが広がった。さっきまで雨音に支配されていた空気が、少しだけ人のいる場所へ戻ってくる。
レトリスは紙片を作業台に置いた。
『この話には続きがあって』
その文字の上に、電灯の影が落ちている。
続きを聞くのは怖い。
聞かなければ、十年前の自分がいつまでも喫茶ペアカップの前で濡れたまま立っている。
レトリスは、鞄の奥からペアカップの片割れを包んだ紙を取り出し、作業台の端に置いた。
ガニーロの視線が、それを追った。
「持って帰らないんですか」
「明日も来ます」
言ってから、レトリスは自分の言葉に気づいた。
店内の全員が、少しだけ動きを止める。
オリーンの目が光った。
「明日も来るんですね」
「調査です」
「はい、調査です」
「その顔をやめてください」
「どの顔ですか。青魚サンドを切り分ける顔です」
「それは今、必要ですか」
「必要です。半分にした方が食べやすいので」
オリーンは本当にサンドを半分にした。
片方をレトリスの前に、もう片方をガニーロの前に置く。
レトリスは眉を寄せた。
「私は頼んでいません」
「調査には燃料が必要です」
「青魚サンドを燃料扱いしないでください」
言いながら、彼女は包み紙の端を持った。
ガニーロも、何も言わずに半分を取った。
二人が同時に噛むと、サポナーラがなぜか拍手しかけた。レトリスの視線に刺され、彼は雨合羽の袖の中に両手を引っ込めた。
雨音は、もう鳴っていなかった。
けれど、消えたわけではない。
作業台の上の基板は、古い呼吸のように、時々小さく熱を持つ。紙片の文字は乾いていて、手で触れてもにじまない。それがかえって不思議だった。十年前の水に濡れたものが、今になって乾いた紙として出てくる。
レトリスはサンドを飲み込み、ガニーロに向き直った。
「明日、アリシャーさんに地形を見てもらいます。ロシルドゥアさんには、当時の避難支援記録を確認してもらいます。オバインさんには、サブマリンの映像と照合してもらいます」
「はい」
「あなたは、今日の録音を整理してください」
「はい」
「それから」
レトリスは一度だけ息を吸った。
「逃げないでください」
ガニーロは、青い縁の傘を見る。
それから、まっすぐレトリスを見た。
「逃げません」
「約束です」
「はい」
「約束を破った人の返事は、信用度が低いです」
「では、明日、信用度を少し上げます」
「少しでは足りません」
「毎日、上げます」
その返事は、派手ではなかった。
赤面ポエムのように大げさでもない。
けれど、レトリスは破らなかった紙片を、鞄の内ポケットへしまった。
帰り際、ガニーロは青い縁の傘をもう一度差し出した。
「今夜は、降りません」
レトリスは外を見た。アーケードの向こうに、雲は薄く流れている。雨の匂いはない。空気は冷えているが、傘が必要な夜ではない。
「では、なぜ渡すんですか」
ガニーロは少し考えた。
「持っていると、帰り道を気にしていることが伝わるので」
レトリスは傘を見た。
それから、彼の手を見た。
「言葉で言えばいいでしょう」
「練習します」
「今日からしてください」
ガニーロは、ほんのわずかに背筋を伸ばした。
「帰り道、気をつけてください」
レトリスは傘を受け取った。
「採点は保留です」
「はい」
「でも、傘は借ります」
「はい」
店を出ると、夜の商店街に水音はなかった。
ただ、遠くの川の方で、風が橋の下を抜けていく低い音がした。レトリスは一度だけ振り返った。青鞄電子堂の灯りの中で、ガニーロが作業台に向かい直している。オリーンが紙袋を片づけ、エメットが懐中電灯を棚に置き、サポナーラが雨合羽を脱ごうとしてまた絡まっている。
笑い声が、店の中で小さく弾けた。
レトリスは傘を開かなかった。
閉じたまま、杖のように石畳へ軽く触れさせる。
こつん。
その音は、水音ではなかった。
今この場で、自分の足で歩いている音だった。




