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希望と絶望の狭間で


分かたれている。

城壁の内には、希望を抱く人々たちの世界が。

外には、絶望で埋め尽くそうとする怪物たちの闇が。

アリアはその狭間に、降り立った。



「グオオオオオオオオオ!!!!」



結界に巨躯をぶつけながら進み、咆える、山のようなヴェムネル。

その姿は、神話で知られる邪悪の一角、キルベルウスそのものだった。

キルベルウスの、地と天を引き裂くような咆哮だけは、さすがに結界では防げない。

城壁内にいる王都の人々も、その時ばかりは希望の色を失い、全身を震わせていた。



(……早く、なんとかしないと!)



アリアも咆哮に気圧されていたが、奥歯を噛み締め、踏みとどまる。

ユーリから力を授けられ、ここまで来たのだ。

逃げることはもちろん、負けることも許されない。

キルベルウスを見据え、アリアは剣を構えた。


光が剣に宿っていく。

ハイアランゼの時とは桁違いの輝きが、剣身から迸った。

その光を全身にも宿し、城壁の端に足をかける。

向く先は、キルベルウスの頭部だ。



「はあああああ!!!!」



アリアは吠え、飛び上がった。

その勢いは凄まじく、空気の爆ぜる音がひびきわたる。

同時に、アリアの纏う光が花のように咲きほこり、キルベルウスの頭上に舞った。

神々しい光は城壁の内外に広く伝播し、ヴェムネルへの反撃を高らかに宣言する。


三つあるキルベルウスの頭。

真ん中の頭に狙いを定めて、剣を突き立てた。

瞬間、キルベルウスの頭部に剣の光が注ぎこまれ、内側から爆散した。

その衝撃で、キルベルウスの巨躯が地に伏す。



「アリア!!」



突如、どこかからエリーの声が届いた。

見回すと、キルベルウスの横を駆けるエリーとジーンの姿があった。

彼女たちと共に行った聖護騎士たちの馬に乗り合わせている。

皆無事だったのだと、アリアは安堵した。



「アリア! ごめん! 抑えきれなくて!!」


「そんなことないです! とにかくこのヴェムネルを倒します!」


「……わかった! 他のヴェムネルたちは任せて!」


「お願いします!」



アリアは剣を構え直して頷く。

エリーとジーンが手を掲げ、ヴェムネルの群れに向けて転進した。

未だに数の多いヴェムネルの群れ。

いやむしろ、増えているのではないか。

アリアは背筋に冷たいものを感じ、身を震わせる。


とはいえ、エリーを案じる余裕などなかった。

ユーリから力を授かったとはいえ、万能になったわけではない。

今の自分に、ヴェムネルの群れまで相手にできる力などないとわかっている。

できることがあるとすれば、一刻も早くこの怪物を屠ることだ。



「もう一度!!」



アリアが奮うと、キルベルウスがぐらりと揺れ動いた。

残るふたつの頭を持ち上げ、アリアを見下ろす。

その赤い瞳に、漫然はない。

アリアを敵として認め、強烈な殺気を放っていた。


気圧されてはならないと、アリアは剣を振る。

迫るキルベルウスの巨大な足に、剣先を向けた。



(……信じてるから)



ユーリから授けられた力の中に、意志を感じる。

脳裏に、これまで犠牲になった人々の姿がよぎった。

彼らは責め立てることなく、今はただユーリの力に寄り添っている。

アリアがどうするかを見るために。


その目を受け、アリアの腕に闘志が漲る。

「聖なる指の加護」だけではない力が、ヴェムネルへの恐れを掻き消していく。



「はあああああ!!!!」



光の剣は、キルベルウスの足を受け止めた。

城の塔ほどはある巨大な足が、光に押され、はじかれる。

しかしキルベルウスが負けじと足を踏みだした。

絶対にアリアを踏みつぶすという気迫が、大地を揺るがせる。



「グガゴオオオオオオオオオオ!!!!」



咆哮がとどろいた。

周りにいたヴェムネルの群れが、突如動きを止める。

相対していたエリーたちが、突然の異変に対応できず硬直した。

ジーンの雷の矢雨も数瞬途切れる。


生じた隙を、ヴェムネルの群れは見逃さなかった。

エリーたちの魔法を掻い潜り、アリアへ殺到する。

キルベルウスの足と、ヴェムネルの群れの狂気に囲まれ、アリアはかすかに剣を迷わせた。

なんとかキルベルウスの足だけははじいたものの、群れへの対処が間に合わない。



「く、う、ううっ!」



アリアは後手に回り、剣を振り回した。

無数の殺意を寸で掻い潜りながら、五体のヴェムネルを斬り飛ばす。

一息も吐く暇はない。

再びキルベルウスの巨大な足、その先にある長大な漆黒の爪が、アリアの左側面へ襲いかかってきた。



(……ま、間に合わ、ない……!)



漆黒の爪がアリアの左腕にかかった、瞬間。

ジーンの雷の矢が、アリアの周囲に降りそそいだ。

同時に、エリーの岩塊が幾つも放たれ、アリアに迫っていた爪を砕く。


救いの手は、それだけではなかった。

どこからともなく飛んでくる、水の槍。

ひとつだけではなく、何十本も飛来して、キルベルウスに突き立っていく。



「ま、待たせましたわね!」



ネフェリの声。

同時に、水の槍がはじけた。

水の力が、キルベルウスの強固な皮を溶解していく。

示し合わせたように、ジーンの雷の矢が再び放たれた。

雷の力を宿した水撃が、キルベルウスの足をひとつ、完全に消し飛ばす。



「あ、危ないところでしたわね……アリアさん」



グランとともに馬で駆けてきたネフェリが、片眉を上げた。

しかし彼女の顔面は蒼白だった。

グランが駆る全速力の馬に、必死にしがみついてきたのだろう。

アリアは感謝を込めて、彼女へ駆け寄る。



「ネフェリ! ヴァントールの避難は無事に終わったのですね!」


「……え、ええ、なんとか。王国軍の、援軍が来てくれたのですわ。皆、無事です」



息を整えつつネフェリが言う。

彼女の言葉を補うように、グランも頷いた。

となれば、残る問題はこの場のヴェムネルだけだ。

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