報せ
翌日。
先行していた騎士から報せが届いた。
「……四人目の聖女さまが?」
サンクトロの王都までの道中にある街に、聖女がいるという。
それは噂程度だったが、確認しないわけにはいかない。
「ハイアランゼ領ですわね」
ネフェリが目を細めて言った。
ハイアランゼ周辺は、ヴェムネルの被害を受けていると報告があったらしい。
しかし、領主のいる街には結界があるはずだとネフェリが言い加えた。
「四人目の聖女さまは、無事ということですね」
フィナスが安堵する。
頷いたネフェリが街のほうを指差した。
「とは言っても、周囲にヴェムネルがいることに違いはありません。用心して進みましょう」
「承知しました。グラン、警戒を怠るなよ」
「……承知」
寡黙なグランが、短く答えて頷く。
そこからハイアランゼの街までは、厳戒態勢で進んだ。
下手に進んでは、周囲のヴェムネルを街へ引き寄せることになる。
結界があるとはいえ、わずかでも災いの種は避けたい。
「四人目の聖女さまは、どのような方なのでしょうか」
アリアは馬車の進む先を見て、まだ見ぬ聖女の姿を夢想した。
自分と同じような、平民の娘なのか。
それとも、貴族の娘なのだろうか。
かすかな警戒心が、アリアの脳裏をよぎる。
「大丈夫よ、アリア」
エリーがにこりと笑った。
緊張するアリアの心を宥めるように。
「きっとすぐに仲良くなれるわ」
「そうだといいですが」
「私たちと同じ聖女なんだもの。それにきっとアリアの美貌に目が眩むわ」
「……はい?」
「ちなみに私は、もうすでに眩みきってるから。このトキメキのために、アリアの前髪は私が守るわ」
エリーが両手の指を忙しなく動かしながら言う。
実のところ、アリアの前髪を毎朝編み込んでいるのはエリーだった。
おかげで、アリアの端正な顔立ちは隠されずにいる。
帝都に着く前までかさついていた肌も、今では玉のよう。
もし今、この姿で父に会えば、おそらく娘と判別できないだろう。
アリアは恥ずかしくなったが、素直にエリーの言葉へ頭を下げた。
「髪のことは……感謝してます」
「アリアは自分ではできないもんね」
「……だって、慣れてないですし。この前少しやってみたけど、変になってしまって……」
「…………可愛すぎか!」
エリーが身悶え、アリアに抱きつく。
アリアは驚き身じろいだが、突き放しはしなかった。
少し前までは、エリーとの身分差を強く意識していた。
しかし今は、その意識が薄らいでいる。
エリーとのこうしたじゃれ合いを受け入れ、好きになりつつあった。
「お前らは本当に仲が良いな」
呆れ顔で見ていたユーリが、ため息とともに声を漏らす。
アリアは困り顔を見せたが、エリーがアリアから離れることはなかった。
むしろ、ユーリに向けて追い払うような仕草をする。
ヴェムネルの脅威が蔓延る道中。
和気あいあいとした馬車が、ゴトンゴトンと揺れた。
先にはすでに、ハイアランゼの街が見えはじめている。
そこで待ち受ける苦難を、アリアたちはまだ知らない。




