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#5 彼女の帰還

「ソフィア……」


 嫌な予感がする。なんで今、現れたんだ?


「えーと……その……」


 ソフィアは気まずそうな顔で俺たちを見ている。

 オレはソフィアに近づきながら声をかける。


「もしかして、フレイが帰れなくなったのか?」


 多分、これは間違いだ。わかっているけど、そう聞かずにはいられない。


「カズマ……わかってんだろ?」


 フレイがオレの肩に手をかける。

 ああ、わかってる。本当はわかってるんだ。ソフィアが来たのはそう言う事だって言うのはそういうことだよな。


「フレイ……オレは……」

「別れには笑顔じゃないと不吉だろ?」


 むこうの世界の言い伝え。

 だけど、突然すぎる。まだ……まだ時間があるって思ってたのに……。


「なあ、これ、見てくれるか?」


 オレはポケットからペンダントを二つ取り出す。


「えっと、これは?」

「おまえにやろうと思ってたんだけどな。組み合わせることができるんだよ。マコ姉のと合わせると三つで一つの形になるんだけどな」


 オレは自分のとフレイにあげようと思っていたペンダントをを組み合わせて、また外して見せる。


「へぇ、面白いな。ありがとよ」


 フレイはオレの手からペンダントを受け取ると、それを身に着ける。


「どうだ? 似合うか?」

「ああ、ぴったりだ」

「そうか……ありがとうよ。でも、むこうに持っていけないよな」

「ああ、でも、少しでも身に着けててくれた方がオレがうれしいからさ」


 わかってた。わかってはいたけど、苦しい。

 せっかく自分の気持ちに気付いて、少しでも一緒に、少しでも楽しくいられると思っていたのに……。


「えーと……ごめんなさい。もう時間がないけど、いい?」


 ソフィアの声。

 どうする? 


「フレイ……」


 言えばいい。行くなって言えば……。


「フレイ……元気でな……」


 言えるわけがない。フレイにはフレイの生活がある。

 別の世界で生きることのつらさはオレ自身がわかってる。


「ばっか、泣くんじゃねぇよ」


 視界が歪む。オレは必死に抑え込もうとするが、無理だ。

 感情と思考が一致しない。


「……ソフィア、頼んだぜ」

「もういいの?」

「ああ、これ以上いたら俺も泣いちまうかもしれねぇからな」

「わかったわ」


 ソフィアの姿が空気に溶けるように消える。すると、フレイの体が光りはじめた。

 これで永遠にお別れだ。二度と会うことはできない。

 心臓が握りつぶされるような感覚……苦しい。


「フレイ……元気、でな……」

「ったく、仕方ねぇな」


 フレイが側まで来た気配がした。

 オレはフレイを抱きしめようとする。

 そうすれば。一緒にいけるかもしれない。

 マコ姉もいる、自分の家もある。オレはこの世界が、この街が大好きだ。

 だけど、フレイもオレにとっては……。


「カズマ。やめてくれ」


 フレイの目に涙が見える。


「俺はな。てめぇに苦しんでほしいわけじゃねぇんだよ。てめぇは十分にむこうの世界のために戦ったんだ。もう、ゆっくりと休んでもいいんだぜ?」

「でも……だけど……!」

「ったく、仕方ねぇな」


 次の瞬間、突然の唇へのキス。そして、オレは突き飛ばされる。

 尻もちをつきながらオレはフレイを見つめる。

 満月を背にその姿がどんどんと光の粒になり消えていく。


「俺の初めてをくれてやったんだ。いい置き土産になっただろ!」

「フレイ!」

「じゃあな! 元気でな!」


 フレイの姿が完全に消え去る。

 静寂のみが後には残った。


「うう……くっ……」


 心に大きな穴が開いたような気分になる。

 喪失感……もう二度と会えないという現実。

 涙が止まらない。


「カズくん?」


 聞きなれた優しい声。

 オレは座ったままその声の方、石段の方を見る。


「マコ……姉……」

「どうしたんですか? フレイさんは?」


 マコ姉がゆっくりと近づいてくる。


「フレイは……むこうの、世界に……」


 なんとか言葉を出す。

 涙が止まらない。


「そう……でうすか……」


 マコ姉が優しき抱きしめてくれる。


「カズくん。悲しいときは思いっきり泣いてください。全部吐き出して、前に進めばいいんですよ」

「マコ……姉……マコ姉!」


 オレは涙が枯れるまで、ひたすら泣き続けた。


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