エピローグ
オレとマコ姉は家への帰り道を歩く。
時間は深夜、明かりのついている家も少ない。
握った手の温かい感触が心を落ち着かせてくれる。
あれから泣きまくった。思いっきり泣いて、なんとか気持ちを切り替えることができた。
いや、違う。まだ、完全に切り替えることはできない。忘れられるようなことじゃない。
「なあ、マコ姉」
「なんですか?」
「これ、フレイにもいったんだけど、オレにとってフレイはすごく大切な存在なんだ。なにかあったら全部投げ捨ててでも助けてあげたいと思ってた」
嘘はもうやめた。全部正直に話そう。
「でも、マコ姉にもなにかあったら、同じように助けたいと思ってるんだ」
マコ姉を見る。黙って難しそうな顔をしてる。
さすがに、いつも優しいマコ姉でも、この答えはダメだったか?
「カズくん」
マコ姉はオレの顔をしっかりと見る。眼鏡の奥の黒い瞳がオレをとらえた。
「そういう時はお姉ちゃんが一番とか言うべきだと思いますよ? でも、きちんと言えたのは偉いですね」
優しい笑顔……やっぱり、安心する。
「なんだよ。子ども扱いするなよ」
「ふふふ……そうですね。もう、男の子じゃなくて、一人の男性として扱わないとダメですよね」
「え? あの、それって……」
マコ姉は俺の手をはなす。
「さあ、はやく帰りましょう。カズくんたちを待ってたから、お腹もすきました」
「あ、マコ姉。ちょっと、待ってよ!」
「早くしないとおいて行きますよ?」
どんどんと先に進むマコ姉をオレは追う。
家が見えてきた。
マコ姉が鍵を開けて中へと入る。俺も後を追う。
「マコ姉……しっ!」
家に入った瞬間、オレはマコ姉の腕を掴んで口に指を当てて声を出さないように指示する。
誰かがいる気配……泥棒か?
うん、なら、オレがマコ姉を守らないと。
「待ってて」
マコ姉をその場に残してオレはゆっくりと二階の自分の部屋へと向かう。
部屋のドアは空き、中から物音が聞こえる。
普通の相手なら、負けないとは思うけど、油断するわけにはいかない。
オレはこぶしを握り込む。
「おとなしくしろ!」
オレは叫びながら部屋に飛び込む。
人影。とりあえず、抑え込む。
「だれだ!」
言った時に手に感じる柔らかい感触。
ん? この感触、ついさっきも……。
「馬鹿野郎! なにしてやがる!」
「え!?」
もう二度と聞くことができないと思っていた声。泥棒の顔を見る。
褐色の肌の真っ赤な髪と目の女、いるはずがない……オレの大切な人……ああ、見間違えるはずがない!
「フレイ!」
「いいから手をどけろ!」
「え? うわ!」
オレは慌てて飛びのく。
「カズくんどうし……え? フレイさん!?」
マコ姉も部屋に入ってくる。
「あー……その、ただいま」
フレイは恥ずかしそうに頭をかいている。
「ちょ、ちょっと待てよ! おまえ、どうしてこんなとこにいるんだよ!?」
ああ、そうだ。帰ったはずだ。でも、服とか、あの時と変化はないし、ペンダントも着けてる……どう言うことだ?
「フレイさん? えっと、帰ったはずですよね?」
驚いているオレの代わりにマコ姉が質問してくれる。
「え? ああ、それなんだけどな……ほら、ソフィアとは願い事を叶えるって約束だっただろ?」
「あ、ああ、確かに、あのダメ女神とはそう言う約束だったな」
「それで、俺の願いとして元の世界に帰るって約束をし直しただろ?」
「ああ、契約書までサインさせられたな」
「そうなると、なんだ。俺の願いが帰るじゃなくて……なんて、言うか……」
フレイはすごく言いにくそうにしている。
「おまえと一緒にいたい、ってことだったらしいだよな」
フレイは顔を覆う。
どうやら恥ずかしいらしい。そりゃ、そうだよな。
あんな感動的な別れ方をして、一日もしないうちに再会とか、どうすればいいんだろ?
「えーと……フレイさん」
マコ姉をみると、かなり複雑な顔をしている。
そりゃ、いなくなったのを前提で今後の事とか話し合う気でいたんだからな。
そうだよな、戸惑うよな。
「マコト……わりぃ……てめぇもカズマのことは好きだって言うのはわかってるんだ……」
一瞬、重苦しい雰囲気になる。そうだよな。オレにとって二人は大切だし、戻ってきたとなるとどっちかを……。
「だから、オレは第二夫人ってことで我慢するからさ」
はい? なに言ってんだこいつ??
「フレイ?」
「いや、俺も本当なら第一夫人になりたいところだが、てめぇとマコトは長い付き合いだ。そこはしかたねぇよな」
「いやいやいや! じゃなくて! おかしいだろ! 第二夫人てなんだよ!」
「なにがだ?」
フレイは不思議そうな顔でオレ見る。
「世界を救った男に嫁が一人とか、その方がありえないだろ?」
オレはそこで思い出す。確かにむこうの世界なら家柄や功績によって何人もの妻は持てる。
優秀な人間の血は少しでも多く残すって言うのが、あの世界の考え方だ。
「いやいや、でもそれは向こうの理屈だろ!? マコ姉がなんて思うか……」
オレはマコ姉を見る。
マコ姉はオレの側に座ると、手を握ってくる。
「カズくんは、どう思うんですか?」
「え?」
「カズくんはどっちかを選ぶつもりなんですか?」
どっちかを選ぶなんて……でも、二人ともなんて……それは……。
迷っているとフレイもオレの手を握って来る。
「カズくん」
「カズマ」
オレは考える。どっちの手をはなすことができるか?
いや、違う。そんなことは考えるまでもない。
「えーと……いいのか? マコ姉。」
オレは最後にもう一度だけ確認する。
「私も大好きなカズくんと、フレイさんと一緒ならいいですよ?」
マコ姉の言葉にオレは二人の手を握りしめる。
「ええっと、じゃあ、よろしくな!」
オレは笑う。
「はい!」
「おう!」
二人の笑顔……これから大変なことがいくつもあるとは思う。
だけど、この二人となら乗り越えられるし、絶対に守って見せる。
だって、世界で一番大切な二人なんだから。




