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#1 動物園へ行こう!

「さて、どうするか?」


 オレは朝食を食べ終わり、自分のベッドで考える。最近、フレイは元気がない。

 やっぱり、別の世界での生活とかきついのかなぁ。


「なんかいい気分転換でもあればいいんだけど……」


 オレはそう思いながらテレビをつける。


『はい! みなさん! 今日は動物園にやってきました! こちらの動物園は……』


 レポーターが動物園を紹介している。

 動物園……動物園か……うん、いいかもしれない。

 むこうと違って、この辺だと動物に触れあうとかできないし、外に出るだけでも、いい気分転換になるかもしれない。

 外はいい天気だ。少し暑すぎるかもしれないけど、雨じゃなければどうにでもなる。


「よし! こうなったら善は急げだ!」


 オレは部屋から出るとフレイの部屋へと向かう。


「フレイ? いるか?」


 オレはドアの外から声をかける。


「ああ、ちょっと待ってくれ……どうした?」


 フレイがドアを開けて顔を出す。

 やっぱりどことなく元気が無いように見える。


「いや、天気もいいし、どっかに出かけないか?」

「出かける?」

「ああ、動物園って言ってな。生き物がたくさんいるところがあるんだよ」


 こっちに帰って来てからは犬か猫、後はカラスとか雀とか、そう言うものくらいしか出会う機会もないからな。

 いろんな動物を見に行くのは、いい気分転換になるはずだ。


「へぇ……そうだな……せっかくのてめぇのお誘いだ。断るのも悪いよな」


 フレイは小さく笑う。

 よかった。同意してくれた。いや、まあ、断るようなやつじゃないのはわかってたけどな。


「じゃあ、着替えるからちょっと待ってくれ」

「ああ、了解。オレも着替えたら下で待ってるから」

「わかった」



 フレイはそう言いながらドアを閉める。

 うん、ちょっとは元気が出たみたいだ。さて、待たせないように俺もすぐに着替えるか。

 オレは自分の部屋で急いで着替えると、一階へと向かう。


「よ、遅かったな」

「おいおい。早すぎるだろ」


 フレイがすでに玄関で靴を履いて待っていた。


「ああ、早着替えとかは軍人の必須スキルだろ? 戦闘に参加するのにのんびりと着替えなんかしてる暇はないからな」


 フレイは誇らしそうに胸を張りながら言う。

 まあ、着替えで待たされないのはありがたい。


「うっし、じゃあ、行くか」

「ああ、行こうぜ」


 オレとフレイは外に出る。

 雲一つない青空だけど、暑さはまだそれほどでもないのはありがたい。

 風も吹いてて出かけるには悪くないと思う。


 オレたちは、たわいもない雑談をしながら歩く。

 内容は主にむこうの世界でのできごとだ。

 食べ物の事や貴族連中の悪口、フレイの武勇伝……いくら話してても飽きることはない。


「っと、到着か」


 そんな事をしながら一時間くらい歩くと動物園に到着する。

 オレは二人分の金を金を払って中に入る。


「へぇ、なるほどねぇ」


 フレイは興味深そうにきょろきょろとあちこちを見る。

 動物園独特の獣臭さは多少感じるけど、なんとなくむこうの世界を思い出す。これはこれで悪くはないと思う。


「じゃあ、フレイ。行こうぜ」

「おう、わかった」


 オレとフレイはセミの鳴き声が響き渡る中を歩き出す。

 シカ、サル、キリン……むこうの世界にもいた動物、いない動物……色々な動物を二人でああでもない、こうでもない、などと言いながら見て回る。

 こうやって、誰かとのんびりと出かけるってのもいいもんだ。今度はマコ姉ときてもいいかもしれない。


「どうした? カズマ?」

「いやな。次はマコ姉も含めて三人で遊びに来てもいいかもしれないと思ってな」

「え? あ、ああ、そうだな。みんなで来たらもっと楽しいかもな……」


 フレイの顔が一瞬だけ曇る。

 だけど、すぐに笑顔に戻った。



「ところで、カズマ。一ついいか?」

「なんだ?」

「こいつらとどこで戦えるんだ?」

「はぁ?」


 オレは思わず変な声を出してしまう。

 なに言ってんだこいつ。


「いや、猛獣がいるんだから戦えるんだろ……って、違うのか!?」


 フレイが驚いたような顔をする。


「あー……そうか、むこうだと魔物と訓練で戦えるとか、そう言う見世物小屋とかもあったっけ?」

「ああ、てっきりそう言うとこだと思ってたんだけど……そうか……違ったのか……」


 明らかにフレイは落ち込んでいる。

 まいったな。そう言う目的だったとは思わなかった。

 そうなると……そうだ!


「フレイ! 行くぞ!」

「え?」


 オレはフレイを連れて走り出す。

 確か、この動物園だとあれがあったはずだ。

 せっかくの楽しい外出なんだ。やっぱり笑顔になってもらいたいよな。


「ああ、あったあった」

「カズマ、なんだこれ?」

「動物のふれあい体験ができるってやつだ。見ろ、あのウサギ。かわいいだろ?」


 オレは柵の前で立ち止まると指をさす。

 白や茶色のウサギが餌を食べたり飛び跳ねたりしている。


「むこうじゃウサギはよく飼われてたしな。こんなんでもいい気分転換になるんじゃないか?」

「へぇ、ウサギかぁ……」


 むこうの世界だとウサギを飼うのはかなり一般的だった……まあ、人によっては飼育して食べるって意味もあったりはしたんだけど。


「あ、捕まえて食べるとかはしないからな?」

「てめぇ、俺を何だと思ってやがる」

「冗談だよ。冗談」

「ったく、いい加減にしろよな」


 オレたちは笑いあう。

 うん、やっぱり楽しく過ごすのが一番だ。


「じゃあ、さっそく入ろうぜ」

「ああ」


 係員さんの注意を一通り聞いて柵の中へ入る。

 オレは寄ってきたウサギを抱きかかえながらベンチに座る。

 温かく柔らかい感触……毛をなでるとウサギもうれしそうだ。

 うん、うちでもなにか動物でも飼おうかな……でも、何かあったら大変だからそう簡単に飼うとか決められないけど。


「フレイ、そっち……って、なんだ!?」


 フレイの方を見る。立っているフレイはウサギに囲まれている。

 一匹や二匹じゃない。柵の中のすべてのウサギがフレイの周りに集まっている。

 あるウサギは耳を寝かせてリラックスし、あるウサギは鼻でフレイの足をつつき、あるウサギは顎をフレイの足にこすりつけるような行動をしている。

 うん、もの凄いなついてるな。


「おいおい、てめぇら、あんまり近寄んじゃねぇよ」


 フレイは言葉とは反対に、まんざらでもない様子だ。

 オレの手の中にいたウサギも、抜け出しフレイの元へ向かった。


「おー、すごいな。あれか? おまえには猛獣使いの才能でもあるのか?」

「どうだろな。あっちでも動物にはすげぇもてたけどな」

「へぇ、なんか飼ってたのか?」

「いいや」


 フレイはウサギを一羽だけ持ち上げると優しそうな手つきで、なでる。


「いつ死ぬかわからねぇし、家にいる事もほとんどできなかったからな。他の生き物の命を背負うとか無理な話だろ?」


 フレイの顔は少し寂しそうな、それでいてすごく優しく見える。


「フレイ――」


 オレが言いかけたところでウサギたちが飛び跳ね騒ぎ始める。

 どうやら、一匹だけ抱いてなでたのが悪かったらしい。

 動物でも嫉妬するんだな。まあ、当然か。


「おいおい、わかったわかった。順番でなでてやるからまってろよ」


 フレイは近くのベンチに座る。すると、ウサギたちもその隣や膝の上に次々と乗ってくる。


「だから、ちょっと待てって言ってるだろうが!」


 慌てるフレイの姿に思わずオレは笑ってしまう。


「なにやってんだよ」

「カズマ、この野郎、笑ってねぇで……って、こら、てめぇら、やめやがれ!」


 ウサギに囲まれてフレイは大変なことになっている。

 まあ、こればっかりはフレイ自身で解決して貰わないとダメだから仕方ない。


「フレイ! 頑張れよ!」

「この野郎! 覚えてやがれ!」

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