#4 お寿司屋さん
「いらっしゃいませ! 3名様でよろしいでしょうか?」
「はい」
「カウンターとテーブル席がありますがどちらがよろしいでしょうか?」
「えーと……テーブル席は空いてます?」
カウンターにいる店員の元気な声にオレは答える。
できればテーブル席の方が落ち着いて食べられそうだけど。
「少々お待ちください……」
店員は手元の端末を操作する。
フレイは興味深そうに、あちこちをきょろきょろとみている。
「すいません。テーブル席は満席です。カウンターならすぐに用意ができますが、いかがいたしましょう?」
「えーと……じゃあ、カウンター席で」
「かしこまりました。では、8番のお席へどうぞ!」
「どうも」
軽くお辞儀すると、指定されたカウンターの場所へ行く。
マコ姉はオレの左とフレイはオレの右側に、オレを挟むように両隣に座った。
「へぇ、食いもんが流れてくるのか……面白い仕掛けだな」
「だろ? そっからとってもいいし、店員に声をかけて好きなのを選んでもいいからな」
言いながらお茶と醤油を用意する。
その間、フレイがオレの手元を見ているのを感じる。
まあ、珍しいのはわかる。オレだって、むこうの世界の奇妙な店には興味津々だったしな。
「ほれ、お茶。熱いから気を付けろよ。で、こっちは醤油。寿司はこっちの醤油につけて食べ見てくれ」
「ショウユ? どれどれ」
フレイは指先に付けてペロッと醤油をなめる。
「へぇ、面白い味だな……あ、フォークとナイフはないのか?」
「ああ、言えば持ってきてもらえるけど……まあ、こういう場所じゃ気取らないで手で食べればいいさ。こうやってな」
とりあえず一皿……オレの大好物のエビだ。
「いただきます」
両手を合わせながら言う。うまそうなエビ……手でつかみネタに醤油をちょっとつける。
「回転ずしはこういうのが行儀が悪いわけでもないしな」
「へぇ、そう言うルールなのか、じゃあ、俺も手でいかせてもらうぜ」
フレイも流れてきた皿をとる。
オレも手にしたエビを、口に放り込んだ。
「うまい……」
口の中にエビのうま味が広がって、シャリのかたさも……って、グルメレポしてる場合じゃない!
今までの食べられなかった分を取り戻すために、次々と皿をとって食べていく。
「ああ、幸せだなぁ……」
マグロを口に放り込む。
うん、生きててよかった。いや、マジでよかった。
「もう、カズくんは大げさですねぇ」
マコ姉が楽しそうに言う。あまり食べてなさそうだけど、マコ姉は少食だからなぁ。まあ、こんなもんだろ。
「だって、仕方ないだろ? 向こうの世界だと生もんとか危なくて食えなかったんだから」
「そうなんですか? そう言えば、あちらの世界ってこっちと全然違うんですか?」
「そうだな……なんていうか、昔のヨーロッパって言うか、ゲームとか漫画の世界みたいな感じだったけど」
「じゃあ、魔法とかもあったんですか?」
「魔法? ああ、普通にあったな。オレとかフレイは使えなかったけど」
「いや、オレは使えるぞ?」
フレイは言いながらタマゴを口に頬り込むのが見える。
「おお、この甘い玉子焼き……醤油のしょっぱさとよく合うな」
そして、お茶をすする。
うん、気に入ってくれたようならなにより……じゃなくって!
「え? おまえ魔法なんか使えたのか?」
「当たり前だろ? 野宿する時に火くらいは起こせないとやってられないからな……っと、お次はこいつだ」
フレイはカッパ巻きをとって、口に放り込む。
「でも、戦ってるときには使わなかっただろ?」
「そりゃ、その火をつけられるやつ以外は覚えてないからな。それに、魔法があるって意識すると、どうも動きが悪くなっちまうって言うのもあるだろ?」
フレイはニヤッと笑う。
なるほど……確かに、切り札とか奥の手を用意するのは必要だ。だけど、それに頼った戦い方をして、本来の戦い方を崩したら意味がない。
この辺はやっぱり、帝国の将軍になるだけはある。
「なんだこりゃ、うめぇじゃねぇか」
「なに気に入ったネタでもあったのか?」
「ああ、この白いやつなんだけど、甘みがあって、歯ごたえがあって……ところでこれ、どんな魚なんだ? 今まで食べたことないだが」
「ん? これだけど」
カウンターにあったイカの絵をさす。
するとフレイは目を見開く。
「おま、これクラーケンじゃねぇか!」
「いやいやいや、あんな巨大で凶暴じゃないから」
「いや、だけどな!」
「でも美味かったんだろ?」
「まあ……確かに、そりゃ、そうだけどよぉ」
フレイは困ったような顔でイカの寿司をもう一貫食べる。
「うーん……まあ、うまいもんに罪はないよな」
なにか一人で納得している。
まったく面白いやつだ。
「さてと、じゃあ、俺も食べるか」
レーンを流れてくる皿を次々に取る。
マグロ、イカ、エビ、イカ、マグロ、マグロ、エビ、玉子……。
うまい! 手が止まらない!
「うぐっ!」
やばっ! の、のどに詰まった!
く、くるし……!!
「カズくん! はい、お水です!」
マコ姉の差し出してくれた水を一気に飲み干す。
「ふぅ……死ぬかと思った」
「もう、カズくんはおっちょこちょいなんですから……あ、ちょっと動かいないでください」
「ん?」
マコ姉の手がオレの口に伸びてくる。
「ほら、ごはんが付いてますよ?」
「え、ああ、ありがとう」
マコ姉は、オレの口元からとった米粒を口に入れる。
「ちょっと、マコ姉。それは恥ずかしって」
「そう思うならきれいに食べてください」
マコ姉は小さく笑うと、前を向きお茶を飲み始める。
まったく。マコ姉にはかなわないよなぁ。
「仲がいいんだな……っと、ごちそうさんでした」
フレイの方を見る。
ひぃ、ふぅ、みぃ……十五皿か。普通の女だと九皿くらいで腹もいっぱいになるっていうけど、まあ、こいつは普通じゃないからなぁ。
「よく食うな」
「あー……わりぃ。おごって貰うのにさすがに食い過ぎたか?」
フレイが頭をかきながら。気まずそうに言う。
「いや、食事なんて余計な心配しながら食べても面白くもなんともないからな。それによく食べるやつは好きだからな」
「へ? 好き?」
フレイは、きょとんとした顔をしている。
なんか変のことでも言ったか?
「いや、だって男でも女でもよく食べるやつは、見てて気持ちがいいだろ? おまえだったら、同意してくれると思ったんだけど……」
「え? あ、ああ、そうだよな。いや、オレも好きだぜ? やっぱ、メシをもりもりと、うまそうに食うのは見てても気持ちがいいからな」
「だろ?」
フレイは腕を組んで目を閉じうなずく。
変なやつだ。
オレは思わず小さく笑う。
「さて、もう少し食べるか」
オレたちはその後の楽しくスシを食べ続け、店から出た。
フレイも遠慮せずにかなり食べてたのでかなり財布も軽くなったが、まあ、たまにはいいよな。
せっかくの外出なんだからさ。




