#3 帰るべき世界
「おーい! そろそろ休憩しようぜー!」
「まだ、だいじょーぶ!」
子どもたちは遊ぶのをやめようとしない。
「おいおい、ぶっ倒れちまうぞ。ちょっと休もうぜ?」
「えー!」
「オレも疲れちまったからさ。いいだろ?」
「しょうがないなぁ」
「おう、ありがとな」
フレイに説得された子供たちがやってくる。
「ほらよ。これやるよ」
フレイと子供たちにペットボトルを手渡す。ちょっとぬるいけど、まあ、しかたない。水分補給は大切だからな。
「兄ちゃん。ありがとな」
男の子はペットボトルを受け取ると木陰に座り飲み始める。
フレイもオレの横に座るとペットボトルを飲み始めた。
「ふぅ、うめぇな」
「子どもの扱いに慣れてんだな」
「ああ、孤児院じぁ、年上が年下の面倒を見るのが決まりだったし、これでもいいお姉さんだったんだぜ?」
「確かに、それは見てるとよくわかるな」
「だろ?」
フレイが楽しそうに笑う。
「いい母親になりそうだな」
オレは思わず口にする。
「母親……か。そうだな、院長先生みたいな母親になれれば最高だけどな。旦那もお役所勤めなんだけど、すげぇ優しくていい人だったしな」
フレイは立ち上がると大きく伸びをした。
「え? 院長先生って、結婚してる女の人だったのか!?」
「ああ、そうだけど? あれ、言わなかったか?」
「だって、お嫁さんになるとかなんとかって……」
俺の戸惑った様子にフレイは大声で笑う。
「そりゃ、ガキだったからな……なんだよ。嫉妬でもしたのか?」
フレイはにやにやとした顔で聞いてくる。
「べ、別にそんなんじゃねぇよ」
オレは顔を背ける。ヤバい、かなり恥ずかしい。
「なんだよ。照れるなって」
「照れてなんかないだろ」
そんな事を言い合っていると、子どもたちの視線に気づく。
「どうした? 飲み終わったらゴミはゴミ箱に捨てて来いよ」
子どもたちはオレが言ってもゴミを捨てに行こうとはしない。
「なんだろ?」
「ねえ、お兄さんとお姉さんは恋人なの?」
「はぁ? なに言ってんだよ」
突然の言葉に思わず聞き返す。
オレとフレイが恋人? あるわけないだろ。そんなこと。
「だって、二人とも仲良しでしょ?」
「いやいや、大人なら男と女で仲良しとか普通だから。なあ、フレイ」
「え? あ、その、なんだ……」
ん? 戸惑ってる? まあ、そんなことをいきなり言われたら、そりゃ戸惑うよな。
「ほら、行った行った。大人を困らせるなよ」
「はーい……じゃあ、みんな行こう!」
子どもたちはゴミ箱の方へ走っていく。
まったく、最近の子供は……って、さすがにこれは年寄りみたいだからやめとこう。
「フレイ、大丈夫か?」
「え? あ、ああ、ちょっとびっくりしちまってな」
フレイは恥ずかしそうに頭をかく。
「まったく、オレとお前が恋人とかありえないのにな」
「え? そう……か?」
「だって、おまえはあっちの世界に帰るんだから、恋人なんかになれるわけがないだろ」
ああ、こいつはあっちの世界に帰るんだ。間違ってもそんなことにはなるわけがない。
「ああ、そうか、そうだったな……」
フレイは暗い顔でうつ向く。そして、オレに背を向けた。
しばしの沈黙。
オレが声を出そうとした瞬間、フレイが聞いてくる。
「なあ、カズマ。オレが帰らないって言ったらどうする?」
うるさいくらいのセミの声の中、フレイが真剣な声で聞いてくる。
「なんでだ?」
「なんつーか、カズマにもマコトにもよくしてもらってるし。心残りってやつもあるからな」
フレイがこの世界で暮らす……そりゃ、ずっと一緒にいられたら楽しいし、うれしいさ。
なんたって、こっちの世界もむこうの世界も知ってる唯一の友達だからな。
でも……な。
「そうだな……いや、やめといた方がいい」
もう二度と会えなくなるのはさみしい。
だけど、だからってフレイを引き止めるわけにはいかない。
「経験者だから言うけど、帰れないって言うのはきついぞ? オレも何度も心が折れかけたからな」
半分は本当で半分は嘘だ。
誰もオレをしらない、本当の孤独……それはかなりつらかった。
でも、仲間ができてからはその孤独にも耐えられた。
実際、帰れないなら、そのままむこうの世界で静かに暮らせてたとは思う。
「なあ、カズマ。おまえはあっちの世界に心残りとかなねぇのか?」
フレイは振り向かずにそのまま聞いてくる。
空を見上げる。遠くに大きな入道雲が見える。
「心残り……か。そうだな、まあ、帰ってこれたのに比べたら……って感じだな」
これは嘘だ。
本当は心残りはいくらでもある。
仲間に別れの挨拶ができなかった。あいつらはどうなったか気になる。
世界が平和になったのかもわからない。
そして、何よりもオレによくしてくれた人たちに、平和になったらきちんと礼を言いに行こうと思っていた。
だけど、にそれすらできなかった。
「まあ、なんだ。あんまり悩まなくても大丈夫だ。なるようになるだろうからさ」
でも、元の世界に帰る方が絶対にフレイのためになる。
それは間違いないはずだ。
オレはフレイを見る。フレイは相変わらずこちらを向かない。
「ったく、なんだよ。残ってくれた方が嬉しいとか言ってくれてもいいだろ?」
「いやいや、オレは嘘をつかない男だからな」
精一杯の作り笑顔をする。
嘘ばっかりついてるが、これもフレイのためだ。
「おーい! 姉ちゃん、遊ぼう!」
少年がフレイに声をかける。
「ああ! いま行くぜ! カズマはどうする?
「荷物を片付けないとならないから先に帰るから」
「わかった、まあ、仕方ねぇ。オレはもう少し遊んでから帰るかよ」
フレイが振り向きまるで太陽のような笑顔でオレを見る。
「迷子になるなよ」
「ばーか、誰がなるかよ」
フレイは子供たちの方へ走っていく。
まったく元気なやつだ。
オレは立ち上がると家へと帰るために歩き始めた。




