#2 帰るということ
オレが追いつくと、フレイは大きな木の前に立っている。そして、上の方を見上げている。
「どうした?」
「……オレが孤児院育ちって話はしただろ? その孤児院の近くにこういう大きな木が立ってるのを思い出してな」
フレイは木に手を当てながら話す。その声は少し寂しそうだ。
「ガキの頃はこうやって遊んだんだぜ」
そう言うと、フレイはするすると木を登る。
「おーい、てめぇも来いよ!」
木の上からフレイの声。仕方ない。オレも行くか。
一気に木を上る。むこうの世界でも偵察やら、冒険で木登りもよくやったっけかな?
ああ、あん時は魔物の群れに追われてて、苦労したっけ……うん、毎回思うけど、オレ、よく生きてるな?
いや、マジで向こうの世界で死んでてもおかしくなかったぞ。
そんなことを考えながら一番上まで登り切る。
「おっ、この景色も久しぶりだな」
フレイの横に立つ。街を一望できる大きな木の上、風も気持ちいい。
子どもの頃から比べると、駅のあたりに高いビルができたり、畑や田んぼが少なくなってる気はする。
だけど、やっぱり懐かしい景色だ。
「どうした? さっきっから黙ってるけど?」
フレイを見る。なんだか寂しそうな顔をしている。
「まあ……なんつーか、あっちの暮らしを思い出しちまってな……」
「そうか……」
「ああ、院長先生とか元気だといいんだがな」
「院長先生?」
なんとなく聞き返す。
「悪ガキだった俺を見捨てないで育ててくれた大恩人だ。本当にいい人で、ああいう人を神様って言うんだろうな」
フレイは楽しそうに話す。
「へぇ、いい人なんだな」
「ああ、俺の憧れだし、ガキの頃は本気で嫁さんになるとか言ってたくらいだからな」
フレイが笑顔でオレを見る。
一点の曇りもない楽しそうな笑顔。好きな人の事を自慢してるときの顔だ。
「そう……か」
胸が苦しい感じがする。
って、なに考えてんだ。オレとフレイはそう言う仲じゃないだろ。
「カズマ? どうした?」
「え?」
「なんか、暗い顔をしてるけど、なんかあったのか?」
「いいやなんでも……さて、そろそろ行くか」
オレは笑顔を作る。そして、木から飛び降りた。
この程度の高さなら、別に問題ない。
フレイも続けて飛び降りてくる。
「さて、行くか」
「ああ、了解」
オレたちは神社の敷地から出るのに石段の方へと向かう。
「あぶね!」
「うわっと!」
フレイがオレの前に出る。軽い衝撃音。フレイを見るとサッカーボールを受け止めていた。
「あ、ありがとな。助かった」
「おう、気にすんな」
オレはボールの飛んできた方を見る。
「すいませーん!」
小学生くらいの男の子がこっちに走って来た。
「あぶねぇだろ。気を付けろよな」
「ごめんなさい」
男の子は素直に謝る。
うむ、謝れるのはいいことだ。
「おお、素直に謝れるなんて、大したもんだな。偉いぜ」
フレイは笑顔だ。どうやら、同じ考えらしい。
「なあ、俺も混ぜてくれねぇか?」
ボールを返しながらフレイは言った。
「姉ちゃんを?」
「おう、いいだろ? 少し体を動かしたい気分なんだよ」
「うーん……いいよ!」
少年は少しだけ悩んだ様子だったけど、そう言うと他の子どものところへ走ってく。
「あー……わりぃ、勝手に決めちまって……でも、ちょっとむこうでガキどもと遊んでた時のことを思い出しちまってな」
頭をかきながら、フレイは気まずそうな顔をする。
まあ、そう言う事なら仕方ない。気分転換にはちょうどいいだろ。
「ああ、バツに構わないよ。じゃあ、オレはこのまま買い物に行ってくるから」
「じゃあな」
フレイはそう言うと子供たちのところに走っていく。
まあ、大丈夫だろ。
「さて、じゃあ、行くか」
オレはそのままスーパーへ行く。
一通りの買い物を済ませて再び神社へ。
「お、なかなかやるじゃねぇか!」
「姉ちゃんこそ!」
「そこだ!」
フレイが子どもたちと遊んでる。
それを見ながら木陰に座った。
「暑いのに元気だねぇ」
フレイは一見すると全力で遊んでいるように見える。しかし、ところどころでしっかりと手を抜いているのがはっきりわかった。
まあ、あいつが本気を出したら子どもがボールに触れることすらできないだろうからな。
「さて、そろそろか……」
オレは立ち上がる。そして、大声でフレイたちの声をかけた。




