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「今年は水着を新調しようと思うんです」
ファミレスで礼御と姫菜は朝食をとり、その後特に急ぎの用事もないということで二人はその席で駄弁っていた。そんな中姫菜は自分のカバンからファッション誌を取り出して、水着のページを見つつ言う。
「礼御さんはどれが好みですか?」
姫菜は雑誌をこちらに向けるも、礼御は異性のファッションに詳しくはない。色鮮やかなビキニが様々載っている。ビキニなんて下着と同じ面積の衣装だ。なんだか下着を選ばされている気分に苛まれ、礼御は少々狼狽する。
「そんなこと俺に聞いてもどうしようもないだろ」
「異性の一意見をききたいの。どれが可愛いと思います?」
姫菜は恥じらう様子もなく、真剣に礼御に尋ねた。わからないと言っても、数ある水着を紙面で見せられている以上、ぱっと見で可愛いと思うものを挙げろなんて姫菜は言ってくる。
これは避けられないと礼御は適当に自分が可愛いと思う水着を指差した。シンプルな水色の上下に透けた花柄のパレオがついている。
すると姫菜は雑誌を自分の方に向け、礼御が指差した水着を凝視する。「こういうのが好きなのかぁ」と呟いていた。
礼御は少し落ち着き、そんな姫菜を観察する。
これを是非着てくれといえば、姫菜は嫌がらず着てくれるのだろうか。
礼御は自分が何気なく指差した水着を頭の中で姫菜に着せた。しばらくその目には見えない姿を見続ける。
姫菜は水色よりオレンジとか暖色系の色の方が似合うかもしれないな。
そんなことを思っていると、姫菜も同じことを感じているのだろうか、なんだか難しい表情である。そのままページをめくっては、また先ほどのページに戻ったりしていた。本人も幾つか候補があるに違いない。
「水着か……」
礼御は小さくそう呟いた。姫菜にも聞こえているだろうが、それを独り言としたらしい。特に反応しないまま、姫菜は雑誌を眺めている。
礼御が幼少から高校の間まで暮らした土地は海と山に挟まれた場所だった。そのため夏になるとよく泳ぎにいったものだ。そこでの異性との思い出で一番新しいものを思い返してみても、それは中学時代の話である。高校では男友達と泳ぎに行ったことはあるものの、そんなお年頃時代に異性との交流はなかった。つまりは水着で成熟した身体を持つ異性と肩を並べて過ごした記憶がないわけである。
礼御にだって男の習性とも言うべきずさんな脳内回路が備わっているわけで、どうにも姫菜の最大限の露出姿を想像せずにはいられなかった。
「……礼御さん、なんか変なこと考えているでしょ」
「そ、そんなことないな」
「へー、そうですか」
礼御は驚愕のあと取り繕ったつもりだが、姫菜には十分そんな礼御が怪しく見えていたことだろう。
「何かメナに来て欲しい水着でも見つけましたか?」
すると姫菜はニヤついた顔で礼御にそう言った。なんだかからかおうとしている表情である。
「なんだ、お願いすれば着てくれるのか?」
「条件次第ですかねー」
礼御が姫菜の言葉に便乗するように口にしたことも、姫菜は見事にスルーすると、また楽しそうに雑誌に目を落とす。
礼御はそんな姫菜を眺めつつ、コップに注いであったジュースに口をつけて思った。姫菜に着てほしい水着があるだろうか。異性の水着姿なんて、スクール水着以外ほとんど目にしたことのない。また目の当たりにした女性の露出も、その紺色一枚の姿が最大であった。女性の腹部も直接見たことがないのである。そんな自分にはやはり異性の、それも身近な女子大生の水着を自ら希望する、ということは荷が重い。
その後はごく普通の会話が続いた。その間も姫菜は雑誌をめくってはぼんやりと視線を落としていた。
時間は経ち、ドリンクバーで注いであったジュースが氷で薄くなった頃である。何気ない話で小さな盛り上がりを堪能していた礼御は、姫菜の一言で彼女の目線が雑誌から離れていることに気づく。
「なんかあの子……こっち見てないですかね」
なんのことだ、と礼御は彼女の視線の先を追った。その先にはガラス窓があり、さらにその先に一人の少女がいた。
玉藻である。
姫菜は不思議そうに玉藻を見ているが、礼御は玉藻の姿を確認した瞬間、その表情を引きつらせた。
そして玉藻は実に不機嫌そうな顔である。
これはいろんな意味でマズイ、と礼御は焦りを隠せなかった。できれば玉藻は無視したかったが、その表情を見る限りそうもいかないだろう。今にもガラスを破って向かってきそうである。
仕様がない、と礼御はガラス越しに自分を睨みつける相手に向かって手招きをした。
玉藻は喜ばしい表情に、姫菜は驚いたような怪訝な表情になった。




