第3話「広がる波紋」
【スレタイトル】
『喋る狼と会話してる配信者がいるんだが』
【1】
「昨日の配信見たやついる?」
【5】
「普通に会話してたよな」
【12】
「テイマーなのにテイムしてないの意味わからん」
【18】
「いやあれNPCじゃない」
【27】
「目が完全に“意思”あったぞ」
【34】
「てかあれフェンリルじゃね?」
【36】
「は?」
【41】
「いや名前言ってたろ。“フェンリル”って」
【48】
「それがマジならやばいぞ」
【52】
「初期森に出る存在じゃねぇだろ」
【60】
「隠し個体説あるな」
【73】
「配信者誰だよ」
【81】
「凪ってやつ。昨日初配信」
【95】
「新人でこれ引くのバグだろ」
【102】
「運じゃ説明つかん」
【118】
「これ絶対なんか条件ある」
【134】
「今日もやるんだろ?」
【140】
「通知ONにしたわ」
【156】
「見逃せん」
⸻
――配信開始。
「……始めた」
静かな声で、凪は配信を開始した。
いつもと同じ動作。
だが、ほんの僅かに視線を向けたその先で――止まる。
「……1000、超えてるな」
一瞬の間。
だが驚きは小さい。
「増えたな」
それだけ。
『来たあああああ』
『待ってたぞ』
『その反応かよw』
『もっと驚けw』
『通知見てないの?』
「……通知?」
凪はそのコメントで初めて気づいたように、スマホを手に取る。
画面を開く。
瞬間――埋め尽くされる通知。
フォロー、コメント、拡散、タグ付け。
無数。
「……ほんとだ」
小さく呟く。
「見てなかったな」
『草』
『バズってるぞ』
『お前今話題だぞ』
『新人でこれはやばい』
「そうか」
興味は薄い。
スマホを閉じる。
「まぁいい」
短く切り捨てるように言う。
「昨日の続きだな」
視線がゲームへ戻る。
「行く」
ログインを選択する。
⸻
視界が白く染まり、次の瞬間――開ける。
石畳の感触。
人のざわめき。
どこか温かい空気。
「……街か?」
凪は周囲を見渡す。
昨日とは明らかに違う場所。
「……なんでここだ」
低く呟く。
『ログアウトした場所の近くの街に戻る仕様』
『デスでも街戻り』
『知らなかったのか』
コメントが流れる。
凪はそれを一瞥する。
「……そういう仕様か」
納得したように頷く。
少しだけ周囲を見る。
露店。
武器屋。
歩くプレイヤーとNPC。
だが、足は止まらない。
「悪くないな」
それだけ言って歩き出す。
街の中央を抜け、出口へ。
⸻
門を越えた瞬間、空気が変わる。
「……静かだな」
森。
昨日と同じ場所へ向かう。
足取りに迷いはない。
配信も、視線も、すべて自然。
そして――
「来たか」
背後から声。
凪は振り返る。
そこにいるのは、白銀の狼。
フェンリル。
「……動けるな」
「貴様のポーションのおかげだ」
短いやり取り。
凪は少しだけ間を置く。
そして。
「……ひとつ聞く」
「なんだ」
「お前、テイムできるのか」
真っ直ぐに問う。
迷いも遠慮もない。
一瞬の沈黙。
森が静まる。
フェンリルはゆっくりと口を開く。
「……不可能だ」
はっきりとした拒絶。
「我のように成長した個体は、縛られることはない」
その声には誇りがあった。
『だよなw』
『成体は無理』
『テイマーは子供か卵だけ』
『チュートリアルで出るやつ』
コメントが流れる。
凪は視線を向ける。
「……そうなのか」
少しだけ間。
「知らなかったな」
『初心者でそれは草』
『よくフェンリルに話しかけたな』
『普通逃げるぞw』
「まぁいい」
凪は気にしない。
「できないなら、それでいい」
執着はない。
フェンリルはその言葉を聞き、わずかに目を細める。
「……妙なやつだ」
その瞬間。
空気が変わる。
気配。
凪の視線が動く。
「来るな」
低く、短く。
次の瞬間、茂みが揺れ――
魔物が姿を現した。
複数。
「数が多いな」
冷静な判断。
弓を構える。
フェンリルは低く唸る。
「我もまだ万全ではない」
「問題ない」
凪は短く答える。
「合わせろ」
即座に動く。
矢を放つ。
風を切る音。
一体の魔物の動きが止まる。
『うま』
『判断早い』
『落ち着きすぎだろ』
コメントが流れる中、凪の視線は一切ぶれない。
次の矢。
位置取り。
無駄がない。
フェンリルが飛び出す。
鋭い牙。
連携。
自然。
だが――
「……惜しいな」
わずかにズレる軌道。
完璧には届かない。
『今のやば』
『パーフェクトショット出かけた』
『あと少し』
凪はそれを理解している。
だが焦らない。
「次だ」
淡々と放つ。
戦闘は短く、確実に終わる。
最後の一体が倒れる。
森に静寂が戻る。
「……終わりだな」
凪は弓を下ろし、軽く息を整える。
視線を落とすと、ドロップが散らばっていた。
「……ポーション、減ってるな」
インベントリを開く。
残数を確認する。
「このまま奥に進むには少ないか」
『帰還した方がいい』
『補充しないと詰むぞ』
凪は森の奥を一度だけ見る。
そして、すぐに判断を下した。
「無理に進む理由もない、一度戻る」
振り返る。
その動きに迷いはない。
「……退くのか」
背後から声。
フェンリル。
凪は視線だけ向ける。
「消耗が中途半端だ、準備を整えてから来る」
短く、まとめて答える。
フェンリルは数秒見つめた後、静かに頷いた。
「……よかろう」
「また来る」
「……待つ」
それだけのやり取り。
凪はそのまま森を後にした。
⸻
街に戻る。
門をくぐった瞬間、空気が変わる。
人の声、足音、金属音。
賑やかな現実。
「……」
一瞬だけ周囲を見る。
だが長居はしない。
『鍛冶屋行こう』
『弓変えた方いい』
コメントが流れる。
凪は手元の弓を見る。
「確かに取り回しが悪い、動きながら撃つには向いてないな」
短く評価。
「軽くて扱いやすいものに変える」
目的が決まる。
迷わず鍛冶屋へ向かう。
⸻
鍛冶屋の前で足を止める。
中から金属音。
扉を開ける。
熱気が流れ込む。
「いらっしゃい……っと、プレイヤーか」
カウンターの向こうの男が顔を上げた。
NPCではない。
装備も、視線も、どこか“人”の感じがある。
『プレイヤーだなこれ』
『生産勢か』
凪はそのまま近づく。
「弓を見てほしい、もう少し小回りの利くものが欲しい」
まとめて伝える。
男は「ほう」と興味深そうに受け取る。
「どれ……あー、これ初期弓だな。悪くはないけど、確かに重い」
軽く構えてみせる。
「これだと足止めて撃つ前提だな。動きながらだと遅れるだろ」
「その通りだ」
凪は即座に肯定する。
男は少しだけ笑った。
「ちゃんと分かってるじゃん。いいね、初心者にしては珍しい」
『褒められてるぞ』
『これは当たり職人』
男は弓をカウンターに置く。
「軽い弓はある。ただし威力は落ちるし、精度と手数で戦うタイプになる」
一拍置いて、続ける。
「スタイル変えることになるけど、それでもいいのか?」
凪は迷わない。
「問題ない、当てられなければ意味がないし今の弓は明らかに遅れている」
一本の「」でまとめて返す。
男は一瞬だけ目を細めた。
「……いいな、その割り切り。嫌いじゃない」
奥へと歩いていく。
しばらくして戻ってきた。
「これどうだ」
差し出されたのは細身の弓。
無駄のない形。
凪は受け取る。
軽い。
弦を引く。
鋭い反発。
「……いいな、反応が早い」
「だろ? その代わり雑に撃つと当たらんぞ」
「問題ない」
短く返す。
何度か試す。
角度、感触、重心。
すぐに結論は出た。
「これにする」
「毎度あり」
男は笑う。
会計の準備をしながら、ふと聞いてくる。
「どこで使うんだ? 森か?」
「森の奥だ、少し厄介なのがいる」
凪は簡潔に答える。
男は眉を上げた。
「森の奥? あそこ今プレイヤーあんま行かねぇぞ」
「そうなのか」
「強いの出るからな。まぁ……お前ならなんとかしそうだけど」
軽く肩をすくめる。
『フラグ立ったw』
『信用されてて草』
凪は特に反応しない。
新しい弓を軽く構える。
「……悪くない」
『次ポーションな』
『商店いけ』
コメントを見て、凪は視線を動かす。
「回復も補充する」
周囲を見渡す。
露店、看板、人の流れ。
その中から一つの店に目を止める。
「……あれか」
“道具屋”と書かれた看板。
⸻
扉を開ける。
中は鍛冶屋とは違い、落ち着いた空気。
棚には瓶や布、雑貨が並んでいる。
「いらっしゃいませ」
穏やかな声。
店主はNPCだ。
柔らかい笑顔。
凪は軽く店内を見渡す。
「ポーションを見たい」
簡潔に伝える。
「こちらになります」
案内される。
棚に並ぶ赤い瓶。
大小様々。
『種類あるな』
『上級ポーションあるぞ』
凪は一つ手に取る。
「……回復量が違うのか」
説明を読む。
「値段も違うな」
少しだけ考える。
「今はこれでいいか、使い慣れている方がいい」
初級ポーションを選ぶ。
『堅実』
『いい判断』
数を確認。
「これと……あと数本追加する」
まとめて選ぶ。
無駄はない。
「ありがとうございます」
会計。
凪はポーションを受け取る。
⸻
店を出る。
装備と補充、両方が整った。
凪は軽く息を吐く。
「……準備はできたな」
『行くしかないな』
『リベンジだ』
凪は森の方向を見る。
わずかな間。
そして――
「このまま終わる理由もない、試しに行く」
決定。
歩き出す。
⸻
門を抜ける。
森へ。
途中で立ち止まる。
木を狙う。
弓を引く。
放つ。
鋭い一射。
一直線に突き刺さる。
「……いいな」
わずかに満足。
『強い』
『全然違う』
「これならいける」
そのまま奥へ。
フェンリルの待つ場所へ――
忙しくて更新できなくてすみませんでした!
現時点で色んな方に読んでいただけてとても嬉しいです!
分かりにくいとこなどあればご指摘、感想コメントもお待ちしてます!




