第1話「声」
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「大丈夫!なんとでもなるよ!」
そう言って笑っていた自分が、確かにいた。
「……は」
乾いた笑いが、静かな部屋に落ちた。
「……何が“大丈夫”だよ」
カーテンは閉め切られ、部屋は薄暗い。昼か夜かも分からない。
机の上には、つけっぱなしのパソコン。飲みかけのペットボトル。散らばった生活の跡。
時間だけが、過ぎていく。
「……期待しなければ、裏切られることもない」
それが、今の自分の口癖だった。
少し前までは、違った。
「凪ー!今日さ、飲み行こうぜ!」
「いいね、行こう」
何気ない日常。笑って、話して、それだけで満たされていた。
信頼していた友人。くだらないことで盛り上がれる関係。
「将来どうする?」
「なんとかなるっしょ」
「お前らしいな」
笑い合う。
「ねぇ凪、これ似合うかな?」
「うん、めっちゃいい」
恋人の笑顔。その笑顔を守りたいと思った。
「凪ってほんと優しいよね」
「そう?」
「なんでも受け入れてくれる」
「好きな人のことは優先したいし」
「……ありがと」
それでよかった。本当に、それでよかったはずだった。
違和感は、静かに忍び寄ってきた。
「ごめん、今日ちょっと無理」
その一言が増えた。
「最近忙しくて」
「そっか、無理すんなよ」
そう言いながら、胸の奥に小さな棘が刺さる。
友人との距離も、少しずつズレていく。
「最近連絡遅くね?」
「悪い、仕事立て込んでて」
「そっか」
それ以上は聞かなかった。信じたかったからだ。
ある日、ほんの些細なことだった。
彼女のスマホが、テーブルに置かれていた。通知が光る。
“今夜楽しみだな”
送り主の名前を見た瞬間、思考が止まった。
それは、あの友人の名前だった。
「……は?」
意味が分からない。偶然だと思いたい。
でも、指は止まらなかった。
履歴を開く。
そこにあったのは、決定的な裏切りだった。
「凪には内緒な」
「バレたらめんどいし」
「まぁあいつ優しいし大丈夫でしょw」
「……」
何も感じない。いや、感じたくなかった。
呼吸が浅くなる。視界が歪む。
「……なんだよ、これ」
声が震える。
笑っていた顔。優しかった言葉。全部が嘘だったように感じた。
その日、凪の中で何かが壊れた。
人が怖くなった。
誰かと話すと、裏を考えてしまう。優しさを向けられても疑ってしまう。笑顔の奥に何かある気がしてしまう。
仕事も続かなかった。
「大丈夫?」
その一言すら重かった。
「……大丈夫です」
そう答えながら、心は削れていく。
やがて外に出ることすら怖くなった。
部屋に閉じこもる日々。スマホの通知音にすら心がざわつく。
「……めんどくさいな」
自分でも分かっていた。このままじゃダメだと。でも、どうすればいいのか分からない。
そんな時だった。
ふと流れていた配信。
『初見さんいらっしゃい!』
明るい声。楽しそうな笑い。流れるコメント。
『今日も来た!』
『この配信好き』
『元気出るわ』
「……すごいな」
知らない人同士なのに、ちゃんと繋がっている。
最初は、ただ眺めているだけだった。
でも少しずつ、惹かれていく。
「……なんか、いいな」
この距離感。この空気。
直接関わるのは怖い。でも、ここなら。
「……これなら、自分でもできるかもな」
それが、すべての始まりだった。
数日後。
凪は配信画面の前に座っていた。
手が震えている。
「……やるか」
配信開始ボタンを押す。
『初配信|ルミナフェリア・オンラインやってみる』
視聴者数:3 → 6 → 12
「……初めまして。凪です」
少しの沈黙。
しかし、やがてコメントが流れ始める。
『初見』
『がんばれー』
『声いいな』
『落ち着く』
「……ありがとう」
その一言で、少しだけ心が軽くなる。
ログインを選択する。
視界が白に染まる。音が遠ざかる。
静寂。
柔らかな光が広がる。
「ようこそ――ルミナフェリア・オンラインへ」
優しく、神秘的な声。
「光と祝福に満ちた世界へ、ようこそ」
光が弾け、世界が形を持つ。
「あなたの物語は、ここから始まります」
視界が切り替わる。
目の前に広がったのは、想像を遥かに超えた世界だった。
石畳の道が広がり、色とりどりの屋根が並ぶ。噴水の水音が心地よく響き、空には柔らかな光が差し込んでいる。
「……すご」
思わず声が漏れる。
『初期街だ』
『グラえぐいな』
『ここ好きなんだよな』
プレイヤーたちが行き交い、それぞれの装備や武器が目を引く。
大剣を背負う者、杖を持つ者、軽やかに駆ける双剣使い。
その中で、自分は弓。
『弓か』
『弱職w』
『テイマーも終わってるぞ』
「……一人でやるし」
『ソロとか縛りプレイか?』
『無理ゲーw』
「……別にいいだろ」
軽く返しながらも、視線は街へと向く。
近くの屋台から香ばしい匂いが漂ってきた。
「いらっしゃい!焼き串どうだい?」
声をかけてきたのはNPCらしき男。
「……食べれるんだ」
「もちろんさ!この街自慢の一品だ!」
『NPCと会話できるのいいよな』
『こういうの好き』
凪は少し迷いながらも、購入する。
一口かじる。
「……うま」
思わず呟く。
現実と変わらない味。いや、それ以上かもしれない。
「だろう?また来な!」
「……うん」
自然に返事が出たことに、自分でも少し驚いた。
少し歩くと、子供のNPCが駆け寄ってくる。
「ねぇねぇ!冒険者さん!」
「……ん?」
「森は危ないから気をつけてね!」
「……ありがとう」
小さく頷く。
『こういう細かい作り込みいいよな』
『世界観ガチだわ』
噴水の前で足を止める。
水面が揺れ、光が反射する。
「……綺麗だな」
気づけば、少しだけ肩の力が抜けていた。
「……行くか」
森へと足を向ける。
街の喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。
木々に囲まれ、空気が変わる。
静けさ。
「……落ち着くな」
その瞬間だった。
ガサッ
「……っ」
視線を向ける。
そこにいたのは、傷ついた狼。
「……怪我してる」
ゆっくりと近づく。
その瞬間――
「触れるな、人間」
「……え?」
『え???』
『今の何!?』
『しゃべった!?』
「……今、喋った?」
「……何故、我の言葉が理解できる」
「……普通に聞こえてるけど」
『バグ?』
『イベントか?』
「近づくな。我は人間を信用せん」
「……」
凪は立ち止まる。
「……触らないよ」
静かに言う。
「でも、そのままだと死ぬよね」
沈黙。
風が木々を揺らす。
「……放っておけない」
その言葉に、わずかに空気が変わる。
「……変な人間だな」
「よく言われる」
小さく笑う。
その瞬間――
――ピコン
『今の何!?』
『やばいって!』
『絶対普通じゃない』
凪はまだ知らない。
この出会いが、すべてを変えることを。
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