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君へ、お元気ですか  作者: 蛇丸


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君へ

ファンタジー悲恋が書きたいです。

書きます。

『親愛なるイリスへ


 これを読んでいると言うことは私は既に死んでいるのでしょう。どのみち君とは会うことも難しい状態かと思います。どうですか。君は元気でしょうか。病気もなく、怪我もなく、無事に過ごせているでしょうか。

 これを認めるに辺り、懐かしい日々を思い起こしています。初めて君に出会ったのは森の中でしたね。思えば私にとって君は、あの時から何にも変えがたいものとなったのでしょう。私も君も共に幼く、お互い元気とは言い難い状態でしたが、二人ともここまでこれたのはそれぞれの努力があってのものだと思います。あの家で過ごした日々は遠くなった今でも目蓋の裏に浮かぶほどに私の心に焼き付いております。父と母、私と君の四人。裕福とはいえない家庭でしたが、それでも、だからこそ多くの思い出が心に刻まれたのかもしれません。森で摘んだベリー、近くの小川の魚、木の実などもよく食べていましたね。私はいつも無愛想だったかもしれませんが、本当に楽しかったのです。君はベリーを食べ過ぎて怒られていましたね。時季になるとよく口の回りを赤くしていたの思い出します。食べ過ぎにはご注意を。

 十になる頃からには、君の病気や家庭の仕事などで少し一緒にいる時間も少なくなってしまいましたね。それでも君が元気な時や就寝前等には私が外での出来事を話しかけていたかと思います。今考えたらあれ少し鬱陶しかったかもしれません。すみません。そんな病気も今はなんとか乗り越え、君は誰よりも自由に世界へと飛び出していけるかと思います。そんな今を大切にしてください。

君の生涯にどうか幸福の多きことを願います。


追伸

 君は何も覚えていないと思います。それでも私にとって何にも代え難いものなのです。未練がましくて申し訳ありません。もしも、少しでも私のことを思い出すことができたら、どうか私たちの両親に“ありがとう”と“愛しています”、“すみませんでした”とお伝えください。もし困ったことがありましたら、私の友人、親愛なる先生ベール。彼なら全てを知っているので恙無くことを納めてくれるでしょう。この手紙以外のことでもね。


ルカスより』


 一通の手紙を受け取った。

その署名は知らない名前だった。先の敗戦の煽りを受け、私は無職となっていたこと、どうにも頭の隅をつつかれるようなモヤモヤとした感覚が離れないので追伸の通り彼のもとへと向かう。彼はあの程度では死にはしていないはずだ。きっと首を跳ねても数日後にはしらっとした顔で茶を啜っていることだろう。実際、以前間違えて跳ねた時はそうだった。いつも彼は自分のことを人だと言っていたが絶対に違う。そもそも年齢と見た目が食い違っている時点でその主張はおかしいと思う。

 あまり会いたくはない人物ではあるが、今後のこと等も考えると会うことが一番楽だろう。そう思い、腹をくくって彼が住んでいた屋敷へと足を向ける。そこは以前とは異なり庭木が荒れ、まともに手入れも出来ていないことを物語っていた。壊された門扉を潜り中へと向かうと庭先で一人、茶を啜る男がいた。

「何かね。もう金目のものはだいたい取られてしまってないよ。せいぜい私秘蔵の茶と私の大切な紙束くらいなものさ」

「手酷くやられてますね。ベール」

「仕方ないだろうさ。争いとはこう言うものさ。で本題は、別に私と世間話でもしに来た訳ではないだろう」

いつの間にか私の手元にあった手紙を彼に手渡す。

「ああ、それか。内容は知らないけれど彼のからの手紙だろう。それで、思い出せたかね」

「いや」

否定の言葉を聞き、彼は笑う。

「何とも可哀想なことだ。あれだけ頑張って当の本人に思い出して貰えなかったとは。いやいや、憐れむのはよそう。やり遂げた。やり遂げてはいたのだから、今の結果が出た時点で彼は報われていた」

「その話し方、止めてください。何時もこちらに分かるようにと言っているでしょう」

こういうところが苦手だ。

手元の茶を彼は一啜りし、遠くを眺めるようにする。

「すみませんね。いろいろお話できることはある。けれど、そうだね。ただ話すだけでは風情がない。だから、ほらこの地図を頼りにするといい」

そう言われ、渡された地図には国境沿いの山脈、その森林地帯にある村に印がつけられていた。

「ここから北方の山脈の裾野にある村だ。穏やかな開拓村でね。私は結構好きだよ。特別何がある訳ではないがあの何もなさがいい。まあ、これは外の人間視点だけどね」

「そうですか、ありがとうございます」

貰うものも貰った。さっさと去るのがよいだろう。簡単に礼をいい、踵を返す。彼は今は亡き先帝の昔からずっと共にあった人物だ。凡そ聞く話によれば百年近く。少なくとも私が先帝の補佐官になって三十年、産まれてからの慣らしを終えるまでの五年を合わせると三十五年以上彼らは君臨していたことになる。それでいて二人揃い方や二十代後半、方や三十そこらといった風貌のままであった。いろいろな意味で怪しさしかない彼らだが、私にとっては悪い人物ではなかった。

「そうだ、ついでなんだけれどね。今この辺の当地をしている総督殿を殺っといてくれないかな。何せこの荒れようだ。持っていかれるにしても忍びないだろう。頼んだよ」

気軽にこういうことを彼は言う。面倒だけれど、あの店のパンが食べられなくなったのは腹が立つ。あの広場の子供が見えなくなったのも寂しい。戦争で持っていかれのは仕方ない。しかし、使えるものも使いもせず、ただ荒らすだけの今は忍びない。

愚鈍な彼に誅殺を、無辜の民を悪戯に浪費するものに罰を、秩序なき者に無慈悲を。私の平穏(愛すべき人々)を踏みにじる者に死を。



浮かれていた。既に終わったものと思っていた。総督を任され舞い上がっていた。突然の伝令が届く。

「閣下、ご報告です」

「何事かね。下らんことは他のものに任せておけ」

伝令役の目には恐怖が浮かんでいた。

「襲撃です。総数は一名。前哨は壊滅。現在こちらの総督府に向けて進行中、途中こちらの攻撃を無視して真っ直ぐ向かっているとのことです」

一人。あり得ない。いや、あの国には皇帝含め八名の異形がいる。皇帝は既に討ち取られ。残るは一名を除き遺体も確認されてい。その一人がこちらに向かっていると。

「襲撃者の詳細は」

「性別は女性。身長は高身長であり、その手には大型の斧とおぼしきものを持っているとのことです。また、通常の兵装では傷一つつけることができていないとも」

「直ぐにでも詰めている礼装使いを出せ足止めでもよい。同時に本国へ応援呼べ」

斧を振るう女。彼女の情報は少ない。何せ長らくただの文官と思われていたからだ。ただでかい斧を振るう程度であれば魔力があれば何とでもなる。しかし、一度だけ確認された情報が彼女を普通ではないと示している。彼女は魔力の強化に頼らず下層龍の討伐を成した。他の異形と異なり純粋な暴力の恐怖。戦場に於いてあってはならない存在だ。戦争として勝つことはできよう、それでもこちらも終わる。だから彼女がいないことを確認し、攻めた。彼女が戻るまでもっと期間が空くと考えられたから、先の戦いの功労者に暇を与えた。読みが甘かった。普通に考えて、ここに戻るのに最低でも3週は掛かる計算であった。

 兵や文官にすぐさまこの拠点を放棄することを伝え、撤退の準備にかかる。しかし、私はまたも判断を謝った。準備などする余裕はなかった。

「貴殿が総督殿か」

部屋の前に女がいた。背は私より少し大きいだろうか。手には斧を、その服は鎧ですらなくかの国特有の軍服姿、白銀のごとき髪持ち帽子を目深に被っていた。

「答えよ」

「・・・違うと言ったらどうするかね」

「その首を取り、次を捜すのみだ」

「私が総督だ。何が要求かね」

「書面を認めた。確認を」

内容を確認する。その内容は、征服した土地への統治に対する抗議内容と今後の統治にあたり関連する人材運用についてと民の生活の保証についてであった。

「国を取り戻すためではないのかね。」

「いや、こちらは負けたのだ持っていかれるのも仕方ない。それはそれとして守るべきものは守らねばなるまい」

これだ。周辺諸国が恐れていた彼らの在り方。民のために全てを捨て、唯無私に働く機構が統治する。結局彼らにとって民が救われれば統治者は誰でも良いのだ。その非人間的な国に恐怖した。近いうちにこちらも取り込まれるのではないかと。自分達の間違いを浅ましさをまざまざと見せつけられるようであると。かの皇帝も死の直前にした言葉が『私の愛しい民を頼みます』だったらしい。

「・・・わかった。では―――」

「ああ、すまない。貴殿にではなかった。伝令役はどこだ。直接渡す」

「下階にて撤退の準備をしているはずだ。」

「ありがとう。では、廻る先では善き生涯を送るといい」

何お


 その日既に滅んだ国からの書面と共に派遣していた総督の死亡が確認された。一時前線に構えていた総督府を解体、撤収後、追撃の如く情報が届く。死亡したと思われていたかの国の異形六名の生存が確認された。


「さて、急いでも仕方ないですし。ゆっくりと向かいましょう」

なぜだろうか。あまり遠出と言うのは好きではなかったが、今回はどこか浮き足立つ。しかし、この旅は焦っても仕方ない。焦ってはいけないそんな気がする。私の足は戦場を駆けたときよりも重く踏みしめ、軽く前へと進み出した。

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