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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
最終章 魔女達の想い切り裂く魔剣

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最終話 今度こそ自分で決めた生き方を

 あの襲撃未遂事件から季節を跨ぎ、最初の冬がやってきた。

 王国内では最北端にあるラーグラントは国内では最も早く冬の来る地域だから、そろそろ雪でも降り始めるかもしれない。


 そろそろ年末。

 多くの領民達が越冬の準備の為に奔走し、その後家族で年を越して新たな年を迎えるだろう。

 

「だあぁぁぁぁぁぁぁっ!! くっそぉ!!」


 鼠色の空に向かって白い息を吐き出してそんな事を考えていた俺の耳に、若い男の絶叫が聞こえてきた。

 視線を落とすと、訓練場の地面に四つん這いになって吠えている魔術師が一人。


「……上手くいかないからって発狂するな。子供でもあるまいし」

「出来が悪い弟子で悪かったな! それよりも本当にこれで純粋詠唱魔術が出来るんだろうな!?」


 自称出来の悪い弟子、レイズの疑問に頷いてやる。


「出来るか出来ないかで言えば出来る可能性は高い。そいつに関しては人によって適性があるから断言はできないから、俺が成功したやり方を教える位しか出来ないからな」

「あんたはこれで出来るようになったのか?」

「ああ。馬鹿みたいにそれだけやれって師匠から言われたからな」


 今思えばどんな指導方法なんだよって思うが、俺にとってはそれが近道だったのは確かだ。


「聞けば聞くほど無茶苦茶だな。あんたの師匠は」

「お前の大師匠でもあるがな」

「わかってらぁ」


 不満げな表情から見るに納得はしていないのだろう。

 それでも、立ち上がって再挑戦しようとしていたレイズに声を掛ける。


「レイズ。お前の理想はなんだ?」

「理想?」


 振り返ったレイズに頷く。


「俺が初めて成功した純粋詠唱魔術は、師匠の得意としていた魔術の劣化版だった。恐らく、俺にとって理想の魔術が師匠の扱うそれだったからだ」


 どんな魔獣も一撃で沈めた黒い雷。俺にとってあの術はある意味魔術の到達点だった。


「次に成功した純粋詠唱魔術は敵意を持った複数の“敵”を確実に殺す事の出来る術だった。最も有名な奴だな。お前も知ってるやつだ」

「【白い惨劇】か?」

「それだ。あの頃の俺は周りの人間の敵意に晒されて荒んでいたな」


 故郷にいた頃と違い、ミレーヌさんの弟子として魔術の学校に通うと言うのはそういう事だ。


「最後だ。これは知っている奴の少ない俺の切り札。確実に魔術師を殺す事を目的とした“剣術に模した魔術”だ。対魔術師に特化している」

「……何で魔術師のあんたがそんなもん覚えてんだよ……」

「魔術師だからこそ……だ。自分の本当の才能を否定された魔術師が覚えたのは必然だったな」


 俺の自嘲気味な言葉に、レイズは眉を顰めて腰に手を当てた。


「で? それがさっきのあんたの質問と関係あんのか?」

「あくまで俺の見解だがな。恐らく純粋詠唱魔術というのは“術者の理想を具現化している”」


 全てを破壊する術を得意とするミレーヌさん然り、死者を救済する術を求めたサリィ然り。


「は? そんなの聞いた事ねぇぞ。あれは発音によって違うって話じゃなかったか? どんな効果が出るかわからないって……」

「そう言われている。実際、同じ詠唱で効果が違うとなったらそう感じてしまうのも当然だと思う。しかし、これは俺の師匠も言っていた事だ。『世間では発音で効果が変わると言われているが信じていない。絶対にそれ以外の発動条件がある』とな」

「あんたの師匠……あの、ミレーヌ・ラインクラフトが……」


 顎に手を当てて考え込むレイズ。


「少しは信じる気になったか?」

「まあ、伝説の魔術師が言うんなら、少しは信じてもいいかもな」


 俺の言葉よりも伝説の魔術師か。まあ、やってくれるならそれでいい。


「まあ、頑張れ。最初はとにかく夢に出る位ひたすらそいつを唱え続けろ。仕事中も鼻歌代わりに口にしていてもいい。とにかく、会話する時以外はそれだけを口にする事」

「……気が狂うわ」

「狂え。狂った先に頭に()が聞こえる筈だ。そいつを寸分たがわず口に出せ。それが──お前の、お前だけの魔法になる」

「……本当かよ」


 俺の言葉は半信半疑ね。

 それでも訓練場に戻っていったレイズの背を見送り、その場に腰を下ろすと、すぐ隣に同じように腰を下ろす人物がいた。

 この部隊で最年少の魔術師であるイリスだ。

 最も、近づいてくる魔力でいる事自体は知っていたから驚きはなかった。


「レイズさんは大丈夫ですか?」

「さあな。後数ヶ月は……下手したら数年は発狂してるかもな」


 習得できない人間は一生かかっても習得できないのが純粋詠唱魔術だ。


「数年……ゴールが見えないのは辛いですね」

「そういうもんだ。誰よりも秀でた力を得るって言うのは」


 努力したらした分だけリターンがある保証はない。それが理不尽だと言うならそうだろう。

 

「それよりも、君はうまくいっているのか?」


 純粋詠唱魔術の訓練をしているレイズとは違い、イリスは簡易魔術の訓練をしている。

 特に力を入れているのは自身に常時発動するタイプの回復魔術で、母さんが得意としていた魔術だ。

 俺も使っているが精々止血と痛み止め程度の効果しかないが、母さんレベルになるとほぼ無敵の効果を発揮する。

 イリスも母さんの能力を引き継いで回復魔術が得意なのである程度のレベルには到達すると考えていたのだが……。


「……難しいですね。発動自体は出来るし、個人的には効果が出て来たとは思うんですけど……」


 自身の右手を見つめつつ眉尻を落としたイリスに苦笑する。

 思い出すの少し前に襲来してきた人物とのやり取りだ。


「ミレーヌさんに言われた事をまだ気にしてるのか」

「そりゃまあ。いきなり『お前才能ないなぁ』なんて言われたら気にしますよ」


 冬に差し掛かる少し前の事だ。

 黒龍隊の隊長に復帰したミレーヌさんが突然黒龍隊の隊長としてではなく、『アレクセイの母親』だとして訪問してきた。

 その際渋々施設内を案内していた時に訓練場で訓練していたイリスとばったり遭遇し、その様子を見学していたミレーヌさんの発した暴言がそれだ。


 直ぐにミレーヌさんに説教し、イリスを慰めたのだが未だに引き摺っているらしい。


「気にするな。あの人は昔からああなんだ」

「まあ、アレクセイさんのお母さんですもんね」

「それは、どういう意味だ?」


 最近では書類上でも【アレクセイ・ラインクラフト】と記載する事も増えた。

 理由は、ミレーヌさんが王都で正式に戸籍を変更してしまったからだ。

 自身の死亡申請を変更する時()()()に変更したという事だが、こっちの許可を取らずに勝手に行った事なので正式な書類以外では使用してはいないが。

 それでも、こうして俺達の関係を口にする者も出て来たし、それを否定はしなくなった。


「さあ。でも、実際にうまくいっていないのは確かなので」

「そうか。地道にやるしかないな」


 あの後、俺は請われてイリスとレイズの2人を仮の弟子として面倒見る事にした。

 仮としたのはこの先いつまでこの部隊にいる事になるかわからないからだ。

 もしも王都に帰るとなった時、2人をこの場所から連れ出すわけにもいかない。


「……いつかは王都に戻るんですか?」


 曇り空に向かって白い息を吐き出していると、ふと、隣からそんな声が聞こえてくる。

 そちらには両手を合わせて魔力を循環させているイリスしかいない。

 

「さぁな……。ただ、戻るか戻らないかで言えば戻るだろう。それがいつのことになるかがわからないだけで」


 俺の正式な所属は黒龍隊だ。ここはあくまで出向でしかない。


「黒龍隊を正式に辞めて、こっちに入隊するわけにはいかないんですか?」


 イリスのこの発言は初めての事では無い。

 だから、俺もいつもと同じ返答をするだけだった。


「こいつが無ければそれも考えたんだけどな。それに、あっちにも俺が守らなきゃならない人はいる」


 黄金の龍の紋章を指ではじいた俺の仕草を横目で見た後、イリスは再度意識を魔術の発動に戻す。


「守りたい人は……王都だけではないでしょう?」

「そうだな。だからこそ、今の俺はここに居る」


 あんな事があって時間が経っていないという事もある。

 この街の人達。

 特に、ナターシャやその家族。そして、イリスやレイズもその対象だろう。

 スキンや他の魔術師隊の面々は……まあ、自分の身は自分で守れるだろう。

 だからこそ、俺は2人の願いを聞いたのだ。

 いつか2人が自分の身を自分で守れるようになった時。

 それこそが、俺がこの街を離れる時なのかもしれない。


「……王都……かぁ……」


 イリスの呟きは、よく聞かなければ聞こえない声量で。

 それでも漏れたしまった声が何となく耳に残ってしまったから。


「今度の年末年始に王都に帰省しようと考えてるんだ」


 俺の言葉にイリスは一旦魔術の行使をやめて俺に目を向けた。


「帰省……ですか……」

「ああ。帰省だ。色々考えたが、やはり俺の故郷は家族のいる場所だと思う」


 あんな人だが親は親だ。

 あの大きな屋敷で一人で暮らしているであろうミレーヌさんを想像する。


「ま、帰省だからすぐに戻っては来るがね。そこで提案なんだが、君も一緒に来ないか?」

「え?」


 俺の提案が意外だったのか、イリスは驚いたように目を見開く。


「一度君には見てもらいたいんだ。アリスがどんな場所でどんな生活をしていたか。彼女の墓も王都にあるし……まあ、宿泊は俺の実家になるけど」


 アリスの名前が出た事でイリスの顔に喜色が浮かぶ。

 ……が、直ぐに少し唇を尖らせて視線を落とした。


「……またあの人に会うんですか……」

「まあ……うん。一応釘は差しておくから」

「…………もう少し考えさせて貰ってもいいですか?」

「いいよ。帰省まではもう少し時間があるし──」


 空を見る。

 寒いと思ったら鼠色だった空はより深く、濃い黒色に変化していた。

 今夜はきっと雪が降る。


「──少なくともあと数年はここに居ると思うから」


 直ぐに帰ってはあの人の反省を促す事は出来ないだろうし。

 俺の言葉に安心したのか、再び魔力の循環を始めたイリスの魔力を見た後、大きく息を付いて休息する。

 冷たい風に吹かれながら留まる訓練場の一角で。

 堪らず叫んだレイズの絶叫が聞こえてくる。

 その声に思わず横を見ると、此方を見ていたらしいイリスと目が合い、どちらともなく笑いあった。



(完)

今後アレクセイ視点では見えなかった部分を番外編として更新する事はあるかと思いますが、一旦この話はこのエピソードを持って筆を置かせていただきたいと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。



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