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脱出  作者: メイズ
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本能と理性〈サイ〉

 溜まってたこの欲求は、目の前の美人に向いてしまった。

 

 いきなりミキを抱き寄せた。



「俺、ミキにキスしたい。許す?」



 これ暴挙?


 俺って、女の子にはいつもストレート過ぎるとは思うけど。



 ミキは俺の腕の中でしばし躊躇した後、小さく頷いた。



 OKくれた。なら───



 彼女の顎を上げる。



 ったく、こんな窮地の最中だってのに、俺は───


 仕方ない。これは生き物の本能なんだから。




 ミキ。俺らが掴みつつある自由を今すぐ感じてみようか?



 彼女のくちびるの間からわずかに見える白い歯。



 久々、女をこの腕にして忘れてた感覚が甦って来る。それなりに青春を楽しんでた、まだ平和を何とか保ってた頃の。



 女の子の扱い、乱暴はいけない。焦らない。無理強いしない。


 これは、俺の鉄則。



 まずはくちびるをそっと重ねて3秒キープ。指の腹を優しく滑らせ、頬を撫でながら一旦解放。


 ミキは目は瞑ってくれてる。なら続きはOK。



 軽いキスで数回軽くタッチしながら、彼女の反応を窺う。


 うん、イケる。



 くちびるでくちびるを弄んでから、開いてその奥に攻め込む。それから這うように耳と、うなじにも。


 熱い。


 スッゴくドキドキする。初めてヤった高2の時みたいに。



 ───キスだけのつもりだったのに。


 

 俺の右手は、いつの間にか彼女の素肌の柔らかみと暖かさを味わってる。



 ───カノジョテイコウシナイシ、サイゴマデイッチャッテモ?



「‥‥‥ミキ、‥‥いい?」


「‥‥‥サイ‥‥‥私が、好き?」




 あ? ───それは、なんとも言えない。もちろん嫌いなわけはないけれど。



 このまま事を進めたら、俺は女性としてのミキを好きになったって宣言するってことになるんだ?



 頭ん中で、本能と理性がせめぎ合う。


 この中途半端はもて余す。したい。



 でも、ダメだ。



 これはただの欲望だって俺はわかってる。


 彼女はそれでは許さない。



 ここで、遊びで最後までやったら、俺たちもう終わる。




 ギリ、理性で立ち止まる。彼女は俺にとって大切な仲間だから。


 欲望に任せてこんな場所でヤる相手じゃない。




「‥‥‥ごめん、ミキにこんなことして‥‥‥怒った?」



 彼女を解放して一歩下がる。


 ミキは黙って首を小さく横に振る。一瞬目が合って、その眼光は俺を非難しているのは明らかだった。



「俺、ミキにこんなマネは二度としないって誓う。許して下さい」


 深く頭を下げた。



 恐る恐る顔を上げると、今度は潤んだ瞳で俺の目をじっと見てから、俺の胸を押し返した。



 傷つけた。怒って当然だよな‥‥‥


 自己嫌悪。俺は自分のこんなこともコントロール出来ないなんて。



「‥‥ごめん、ちょっと待っててくれ」



 俺は建物の裏側の陰に回り、一人処理する。


 男ってめんどくせー生き物だよな。特にここの部分。 



 消毒用アルコールで湿らせた布で手を拭う。即席火炎ビン材料としてポッケに入れてて助かった。用途が予定外で恥ずいけど。



 臭いで気づかれる? しばらくミキから1メートルは離れていよう。



 いやいや、1メートル近づく前に───


 どんな顔してここから戻ればいい?



 どう振る舞って彼女の前に出る?


 

 ‥‥‥今まで通りに声をかけよう。俺はなるべく普通に振る舞う。先程の間違いは消し去りたい。



 俺、職員室に呼び出し食らったみたいな足取りになってる。



 チラッと陰から覗き見て、一回深呼吸してから、踏み出した。



 ミキは、懐中電灯を照してネコが出て来た穴を見てる。よほど中が気になるらしい。



「‥‥‥ネコが住んでいるんなら、ガスは大丈夫そうだけど」


 緊張感は隠して声をかけ、少しミキから離れて背後に立つ。



「さっきの子猫がここに戻って行ったのよ。行ってみたい。いい? 触ることはしないから」



 意外にも、ミキも先程の余韻は感じさせない。何事もなかったみたいな顔してる。


 ミキがめんどくさい女じゃなくて良かったー。メチャホッとする‥‥‥



 

 ───彼女への罪悪感? 


 さっきの行為のせいか、彼女に逆らうことは憚られる。それに‥‥‥


 ミキの願いなら出来るだけ聞いてあげたくなってる俺がいる。


 


「‥‥‥危険そうだったらすぐに出るからな! 油断はすんなよ。誰が潜んでるかもわかんねーし」



 チャリはスクラップに見えるように、ビルの一部が崩れて出来たガレキの隙間に突っ込んで紛れさせておいた。



 崩れたコンクリートの塊で出来た地下鉄への穴に入る直前、振り返って、瞬く星が散りばめられた夜空の向こうを見渡す。



 明るくなれば、遠目に見えるだろう。


 崩れながらもそびえ立つ、西の廃墟の高層ビル群が。



 そこのどこかに、『PURE VENOM』が、本当にいるのだろうか?




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