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脱出  作者: メイズ
7/24

キス、その心は・・・〈ミキ〉

 追跡犬なんて、想定済みよ。



 私は、ウェイ少佐から、他の人は手に出来ない香水をプレゼントされてた。今日の今日まで使うことはなかったけれど。



「ヤバい!! 犬だッ!! こっち来んのかッ? 追いつかれたらおしまいだッ」


 走りながら、サイさんが後ろの私に手を差し出す。


 私は腕を伸ばしてぎゅっとその手を握る。



 この辺りのガレキ撤去は進んでいて、整備されている。


 広い空き地をブロックごとに金網フェンスで囲んでいるエリアが続く。アスファルトになる道路部分は、ほとんど整備されてる。


 所々にある、プレハブの倉庫や積み上げられた資材重機が、何とか私たちの身を多少見えにくくしているのみ。


 でも、ワンブロック向こうは、盛土で一段高く地盤整備されてる。向こう側まで行けば、目視の姿は隠せる!



 ハァ‥ハァ‥ハァ‥ハァ‥‥


 全力疾走している二人の息が切れる。



「サイさん、ハァ、ハァ‥‥ほんの少し止まって!」


「今はがんばれ!! 犬が来る!」


「大丈夫よ。鳴き声は遠いし。ハァ、ハァ‥‥PURE VENOM は‥‥ハァ、ハァ‥‥西の方角ね。あっちへ行くのよね」


「ああ」 


 サイさんは立ち止まることはせず、取り敢えず早歩きになった。止まれないのは不安の現れね‥‥‥



 このままただ進んだって、犬に追跡されてしまう恐れがある。



 ───あの金網のフェンスのブロックを越えた十字路でいいわ。



「サイさんがボール投げが得意ならいいけど。これをあそこで思いっきりあさって方向に投げてくれる?」


 ポケットから、小さなポリ袋に入ったデザイン的なガラスの小瓶を取り出す。



「これは‥‥‥?」


「私が今日初めて使ったローズベースの香水よ。ハンカチに1滴つけて、上衣のポケットに入れていたの」


 言いながら、ハンカチを入れていたナース上衣を脱いで、積み上がっていた土管の中に投げ入れた。これにも匂いが染み付いてる。


「追跡犬は、より匂いの強い方へ誘導されるはずよ!」


「ミキさんの甘い匂いはこれだったのか。‥‥‥投げんの、高速道路方面でいいかな? 俺、これでも土木作業で多少は筋肉ついたんだぜ?」 


 サイさんは、ニヤッと笑ってから南側の湾岸方面に向かう方向へ投げた。



 放物線を描いて、向こうの空地の草むらの中に落ちた。


 うふふ、ひょろひょろのサイさんにしてはスゴい。



「どお? 俺もなかなかじゃね?」


「はい。合格ですね! さあ、今のうちに距離を稼がなきゃ!」


「行こうぜ!」



 月明かりに黒く濡れてるあなたの目を見て、小さく頷く。



 私たちは、再び走り出す。西の廃墟のどこかにあるというレジスタント組織『PURE VENOM』目指して。




 ***




 どうやら、犬の追跡は免れたみたい。


 夜だから、ドローンの追跡も無い。あっても、周りは静かだからすぐに気づくわ。



 途中で工事作業員の移動用の自転車置場を見つけた。


 この自転車のベルの中にはGPSチップがついているはず。ミディカン人がそう話していたのを聞いたことがある。


 サイさんが持っていたドライバーでベルは外して、その場に残す。



 私たち、これですごくスピードアップ。



 途中から道はガタガタぼこぼこにかわってお尻が浮いて痛いけれど、全然大丈夫。



 頬に風が気持ちいい。サイさんの背中を追いかける。


 サイさんは私を気遣って何回も後ろを振り返る。こういう時はやはり男女差を感じる。力無さそうな男の人にも負けてる。



「行けるとこまで、これで距離稼ごうぜ」


「そうね。ガレキが増えたら自転車は無理になるわね。道に落ちてる物も多いしその前に何か踏んでパンクしちゃうかも」




 二人、風が吹き抜ける音と、自転車をこぐ音が、無人の街に響いてる。


 明かりが灯っていない夜の街。本当に誰もいないみたい。



 ここはまだ管理区域内。一般人は入ってはいけない場所に指定されている。それでも、入り込んでる命知らずな人は、どこかしらに隠れてるいるはずだけどね。


 このエリアには他の奴隷宿舎がいくつかあるけれど、場所はよくわからない。


 近づいたら危険だけど、その周りは整備されてるはずだからあればわかる。


 


「‥‥‥あの、あのさ‥‥‥さっきのことだけど‥‥‥」



 サイさんは一瞬ちょっとだけ振り向いて、すぐに前を向いた。



「さっきって‥‥‥?」


「‥‥‥ううん、何でもない」



 どうしたのかな? ‥‥‥( ゜д゜)ハッ!



 ───やだ!! 私ったら。忘れてた!!


 一人ゲートに向かって行く悲壮感から、勝手に盛り上がって、私‥‥サイさんにすっごく大胆なことをしてしまっていた。



「‥‥‥あの、あのことですよね。わっ、私が突然した‥‥‥‥」


「あれはマジな勝負前のジンクスみたいな? キスがお守りって言ってたよな? ってことは俺の無事を祈るおまじない的なもん?‥‥‥なあ? 間違ってたらゴメン。もしかして俺たち、前にどっかで会ったことある?」


「いえ‥‥‥‥」


「あ、だよな‥‥‥」



 やっぱり、私のことは覚えていないみたい‥‥‥



 ***



 後は黙ったままで、黙々と進んだ。追っ手も今のところ来てない。



 サイさんのペースが落ちて来た。大分疲れてるよね‥‥‥


「あの、そろそろどこかで休みませんか? 無理しても、集中力が切れるし危険ですし」


「‥‥‥だな」



 私たちは自転車を降りて歩きしながら、周りを物色し始めた。



「この辺は、そろそろ管理区域と一般エリアの緩衝地帯? スマホもなんのデバイスも無いし、はっきりしねーな。その辺に看板残ってない?」


「探せばすぐに見つかると思うけど、まだ暗いから‥‥‥」


「‥‥‥廃墟に入り込んでるヤバい奴はこの辺にもいるはずだ。空き家で家捜ししてる泥棒もいるらしいし。ホームレス化してあちこち移動してる人もいるしな。ここにはどんな奴が潜んでるかわかったもんじゃない。安全そうな場所って‥‥‥」


「イスターン中、治安はかなり悪いって聞いてます。生活上なら、奴隷宿舎は安全地帯でした。でも私たち、ショットガンと、先ほどナイフも新たにゲットしたし、何とかなるんじゃないですか?」


「それね、どっちかはミキさんが護身用にいつも持ってた方がいいね。ショットガンは弾が無くても脅しには使えるだろうし‥‥‥」



 ───今なら言えそう。



「‥‥‥あの、私のこと『ミキ』って呼んでくれませんか?」 


「えっ!?」


「あっっっ、別にどっちでもいいですけど‥‥‥」



 そんなに驚かれたら傷つくわ。



「や、俺ら仲間なのに、確かにさん付けはないよなー。ミキ! じゃあ、俺はサイで」



 軽い口調で、しかもちょっと意味違ってるけど、わざとなの? 私からキスした意味を本当にわかっていないの‥‥?



 そうだとしても、私の心の奥に、あの日から住み続けていたのはサイさんだから。



「サイ‥‥‥」



 ───こうして今一緒にいられる。



「なんだよ? ミキ」



 ───好き。



 今、照れた顔で私の名前を呼んでくれたあなたのことが。




 ───このまま時が止まればいいのに‥‥‥





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