その36
のんびり不定期連載です。
「とやー!」
迫りくる黒いアレ、もちろんコカトリスの事ですよ? ビームライフルでビシバシと撃ち落としています… そしてふと階段の方を見ると…
「おや? テネシー様がいないですね、まさかとは思いますが制御室に向かったのでしょうか」
一応制御室への扉を開けるには、扉の横にあるスイッチのような物に魔力を流さないと開かないので、知らない人には無理だと思いますが、一応戻ってみましょうか。
ドロップしたお肉を回収して階段を昇っていきます。そして一本道の49階層を越えて50階層に… やはりいましたね。
「奪い取ろうとでもしましたか?」
後ろから声をかけるとビクっと肩を震わせました。
「そんな事は…」
「まぁ今更ですが、来る時は直接あの部屋に転移してきましたけど、この守護者の部屋からは所定の手続きをしなければ扉は開かないみたいですよ。もちろん私は知っていますが」
「全てが丸く収まる方法は無いのでしょうか?」
「ありますよ? 私が所有者となってギルドの要望を叶える事。そして所有者である私が元の世界に帰れば、今後誰の手出しも出来なくなってギルドの利益は変わる事は無くなるでしょう」
「そんな… 要望と言ったって、全てを書いてきたんじゃないわ」
「言っておきますが、これは妥協案ではないですからね? 私の善意による提案なんです。貴女が望む事を全て叶えたいのでしたら、貴女個人がこの迷宮を攻略していれば良かっただけの話ですから」
「そう…ですか」
「まぁ、私のような小娘に説教されるのは不愉快なんでしょうが、ギルドのサブマスターを名乗るのであれば、現状の把握くらいは満足にやってもらいたいものですね」
「…」
またしても黙り込んでしまいました、まだ何か考えているのでしょうか… しかしこれだけ言っても理解してもらえないのであれば、迷宮の外に強硬転移するしかないですね。
「さすがにこれ以上駄々をこねるというのであれば、外に放り出しますよ? そうすれば… 私が受けると言っていた要望ですら消えてなくなりますが」
「それは困るわ!」
「自分の都合の良い意見だけを押し付けようとして、碌に働きもしないのに収益だけは最大級で要求。今の貴女は悪徳貴族となんら変わりませんからね、私ももう貴女には期待できません」
「そんな…」
「自身の行動を顧みて、後悔でも何でもしてくださいな」
転移魔法を使うために魔力を高める、テネシー様1人だけを迷宮の外に転移させましょう。今の状態では話になりませんからね、少し時間をおいて、まともに思考できるようになっていれば話し合いくらいは受けますが… どうなりますかね。
「とやー!」
気合いと共に転移魔法が発動し、テネシー様は背負っていた荷物と共に光を纏って消えていきました。今頃は迷宮の入り口にいる事でしょう…
私はというと…
「サンドイッチを頂きましょうか」
守護者の部屋から制御室に入り、迷宮のコアである大きな水晶を見ながらお弁当を広げた。
「財宝であったり権力であったり、権威であったりと、大きすぎる物と言うのはどうしても人間を狂わせてしまう物なのですね。孤児院の子供達が将来そうなってしまわないようにしっかりと教育していかなければなりませんね。 あら、美味しい」
細かく刻まれたコカトリスのお肉と、一緒に挟まれている野菜。お肉に付けられていたソースが野菜やパンに付いていてとても美味しいです。 あの料理長、なかなかやりますね。
これはソースのレシピを教えてもらえないか交渉しないといけません、交渉材料としてブラックコカトリスを多めに狩って行かなければいけませんね。
食べ終わったらまた48階層に籠るとしましょう。
─SIDE:テネシー・ダニエル─
「ええ?」
急に光に包まれたと思ったら見覚えのある場所だった。ここは迷宮の入り口ね、警備をしている職員が驚いた顔をしてるわ。
「サブマスター! 急に現れましたが、どうしたんですか?」
「いえ、なんでもないわ。私は急ぎギルドへ向かうから、アリシアさんが出てきたら一報を入れてちょうだい」
「わかりました」
敬礼する職員をその場に置いて、ギルドへと向かった。 どうやら私は任務に失敗したようだ、しかし…私自身の考えが甘かったのも良くわかった。
「まさか18歳の小娘に説教されてしまうなんてね、私もどこかで慢心してたのかもしれないわ」
恐らく今頃は、迷宮のコアについて色々と調べているはず。ギルドに残っている資料を見る限り、一度所有者として登録されていても譲渡は出来たはず。
急いでギルドに戻って要望を出来る限り的確で明確にし、譲渡してくれるかもしれない可能性に賭けて、私達夫婦の近親者の保護のために動いておいた方が良いわね。
アリシアさんは話の分からない馬鹿貴族とは違った、本気でこの町の事と私達夫婦の事を心配していた。確かに馬鹿な悪徳貴族に目を付けられてしまえば、私達の近親者だけじゃなく、戦場になるかもしれないこの町の住民も危険に晒される事になるかもしれない。
「アリシアさんは本当に18歳なのかしら、もっと大人と話をしてる感じだったわ。見た目は小さくて可愛らしいのに」
まずは夫であるギルマスに話を通さないといけないわ、私達の近親者を保護し、隔離できる場所の選定もしないといけないし。 あ、もしかしたら迷宮にセーフゾーンを増設してそこで匿えば安全かもしれないわね。 これも要望書に追加ね。
ギルドに到着し、サブマスターに与えられていた小部屋に荷物を置いてからギルマスの元へと向かった。
「おっ、どうしたんだ? 今朝から迷宮入りじゃなかったのか?」
「迷宮には入ったわ、50階層のコアも確認した…けど、どうやら使徒様の逆鱗に触れてしまったようだわ」
「なんだって? どういう事だよ」
「今説明するから落ち着きなさい」
夫のジャックに朝から起きた事を説明した、目先の利益に捕らわれて、自身や身内を危険に晒していたかもしれないという事も。
「そうか… それは確かに危険度が高すぎるな」
「ええ、だからまずは、私達の身内をこの町に呼び寄せる必要があるわ。アリシアさんが降りてきた時にもう一度話をするつもりだけど、迷宮の改造プランに追加したい事もあるから今のうちに煮詰めておくわよ! 寝る暇なんかないと思いなさい!」
今度こそ… 使徒アリシアを納得させて見せるわ!




