その35
誤字報告いつもありがとうございます。
「じゃあやっぱり話し合いをしましょう。さっきの広い部屋、あそこを金色の部屋にしましょう。そしてアリシアさんはガンガン狩って収集する、そして私が迷宮の管理者になって維持管理をする。どう?」
なかなか頑張りますけど、本当に迷宮の所有者になんかなっても大丈夫だと思ってるんですかね。
「この世界の貴族がどれほど腹黒いかは知りませんが、少なくとも私の知る悪い貴族であれば、計り知れない利益を産むという迷宮の所有権を得るためなら、所有者の近親者を拉致、誘拐して命を脅かして脅してくる… これくらいの事は何も考えずにやりますよ? さも当然のように。貴女は貴女の周囲の者がそのようになっても突っぱねられる覚悟を持っているんですか? 見せしめに旦那様であるギルドマスターの首を届けられても耐えられるのですか?」
「うぐ…」
「メリットばかりを考えすぎて、デメリットを疎かにしすぎです。貴女は貴族の悪い方向に進む力を侮りすぎなのです」
「そ、そんなにひどいの?貴族って」
「もちろん全てがそうだとは言いませんが、悪徳貴族は一定数いますよ? 私が知ってる貴族では、タルト伯爵家のストロー様なんかは悪徳貴族でしたね。女性関係の方向でしたけど」
「タルト伯爵家の嫡男ストロー、確かに悪評が多々あるわね。主に女性関係で」
「タルト家なんてそれでも可愛い方ですよ? 平民の命を虫と同等と考えているような輩までいますから。昨日もそうですが、貴方達からそういった警戒心が全く感じられないのですよ。私が断り続けている理由を理解していただけましたか? そういう事なのです」
「…」
ようやく理解してもらえましたか、貴族の俺様主義に対抗するには、ギルドマスターやサブマスターの権威では足りませんからね。
「じゃ、じゃあそれらに対抗できるような案があればいいって事かな?」
「本当に諦めが悪いですね、そのような事が可能であるのならば、譲るのは吝かではありませんが… 現状では無理だと思いますよ?」
「ちなみに、アリシアさんが私の立場であったらどう考えるの?」
「そんなの簡単です、アマンダ様に報告してしまえば済みますから」
「確かに… それは真似することは出来ないわね。じゃあアマンダ様がいないものとして考えれば?」
「先ほどから… それはずるいのではないですか? ご自身で考えなければいけない事でしょう。そのように甘い事ばかり考えていると、良案があったとしても足をすくわれますよ?」
「という事は、何か良い案があるのね?」
「まぁ無いとは言いませんが、こればかりは私が認めないと成功しない策ですからね」
「ぐぬぬ…」
『ぐぬぬ』いただきました。
確かに策はありますよ? ですが、それを有効にするには私が了承してアマンダ様にお話ししなければいけませんからね。嘘を並べてもいつかはバレるでしょうし、私の名を騙っていれば、アマンダ様からのお叱りもあり得る事でしょう。
私が考える、サブマスターを所有者にした後も安全に管理する方法は2つあると思っています。
一つはサブマスターであるテネシー様の名を伏せ、私を攻略者であり所有者だと公表してしまう方法。これをすれば、前面に名前が出るのは私の名で、いずれ元の世界に帰ってしまうので永久に譲渡が叶わないと諦めさせる方法。
もう一つは神頼みですね… 私が帰る前に神託を出していただき、強引に諦めさせる方法。
どちらも完璧とは言い難いですが、少なくとも普通に公表するよりかは安全になると思います。しかし、どちらの方法も私の名が必要になるので、サブマスターさんの独力ではどうにもなりません。
もし私に何も力が無く、今のサブマスターさんと同様の状況ならば… 普通に攻略者と所有者の名は隠しますよね。名声も大事ですが、それよりも守る者の方が大事ですから。最初から攻略されたなんて公表はしない… これでいきますね。 ただ、この方法の欠点は、他の冒険者が50階層に到達してしまったらすぐにバレる事と、迷宮内部に変化があったら即座に噂が流れてしまう事。憶測とはいえ、悪い方向に一直線な悪徳貴族ならば調査を始めるでしょうね。
正直これでは安全とは言い切れませんね、まぁ時間稼ぎは出来るので、その間に自分の関係者の保護に努める… この程度でしょうか。
「どうにか、どうにかなりませんか? 貴女は使徒なのでしょう? その力は民のためにあるのではないですか?」
テネシー様は膝をつき、土下座するように頭を下げながら言ってきますが… 何を言っているんでしょうね。
「それはお門違いのお話になりますね、私は自分がいた世界の、創造神フローラ様の直属の使徒であって、アマンダ様の使徒ではないのです。この世界の事はアマンダ様がお決めになる事で、私が独断で何かするわけにはいかないのです。 それに… この世界が崩壊したかもしれない事案を解決したという貢献では足りないと言うつもりですか?」
「それは… そんな事は無いけれど」
「あのまま私が召喚されて来なければ、異界の魔物に飲み込まれていた可能性が非常に高かったんですよ? さすがにそれを蔑ろにされるのは遺憾ですね」
「いや、そんな事を言いたいんじゃなくて、もっと楽に安全にコカトリスが狩れるようになれば、肉の単価も下がって一般人にも行き渡ると思って…」
「それについては同意しますよ、美味しい物はもっとたくさんの人に食べられるべきです」
「そ、それじゃあ!」
「それであれば、貴女が迷宮の所有者にならなくても叶いますよね?」
「うぐ…」
「ギルドという組織として、迷宮を所有するという事はとても大きな名声となるのは分かりますし、その事を理由に国や貴族に対抗するための権威に使いたいのも分かります。でも、それをやった事で失うものがどれほどあるのかをまるで考えていないと思います。もう少し深い思慮で行動するべきだと思いますよ」
すっかり黙ってしまいましたね、私のような若い者ですら考え至る事に気づかないというのは大問題です。感情的になっているようですので、少し頭を冷やしていただかないと前に進むことは出来ないでしょう。
よし、私は私で平常運転といきましょうか。 ブラックコカトリスさん出ておいで~




