その32
のんびり不定期連載です。
「お待たせしましたか?」
「大丈夫、お願いしたのはこっちだからね」
夕食を終えて、ロビーにいたサブマスターさんに声をかけてみた。
「機密事項を多分に含むので、できれば場所を変えたいんだけどいいかな?」
「あまり遅くならないようにしてくださいね? 明日も迷宮に入る予定ですから」
「もちろんだよ、それじゃあ面倒だとは思うけど、ギルドの会議室まで良いかな? そこが一番安全だから」
結局またしてもギルドに行く事になってしまいました。まぁいいです、ここの所、随分と自由に生活してましたからね、たまには残業といきましょうか。
「それでは、まずは自己紹介を。俺は冒険者ギルドボンボン支部のギルドマスターを務めているジャック・ダニエルだ」
「私はサブマスターのテネシー・ダニエルだ」
「アリシア・フォン・フェブリーと申します。お二人は身内なんですか?」
「ああ、俺達は夫婦だ」
ドヤっているギルドマスター…この顔はイラっとしますね。
「それで、アリシアさんは召喚された使徒という事で間違いないかい?」
どうやらサブマスターのテネシーさんが仕切るようですね、確かにあのドヤった顔を見ていると帰りたくなるのでありがたいです。
「そうですよ、間違いありません」
「姓を持っているという事は貴族なのかい?」
「生まれは公爵家です、それが何か?」
「公爵家と言うと… 私の見解だと王家の血を引く一族という事となるが?」
「そうですね、曽祖父が王の弟だったと聞いています。しかし、この世界では関係ないのでは?」
「あーいや、貴族様というのは普通気にするもんだと思っていてね。こちらの対応とかを」
「私はそういった事は気にしませんよ、気にしたところで何も益は無いですからね」
「さすが現場に出ている娘は違うね、それじゃあ話を進めても?」
「お願いします」
テネシーさんの話を聞いて少し納得してしまいましたね、この世界に来て出会った貴族はあまりいませんが、それなのに随分と濃い人ばかりと会いましたからね。ロゼ王国の第1王子とかタルトなストロー様とか… だから確認して不興を買わないようにといった所でしょうか。
「ではまず、ブラックコカトリスの肉をありがとう。美味しく食べさせてもらったよ、アレは乱獲しないといけないレベルの肉だったね」
「はぁ… 新規のドロップという事で、買い取り値を決めるためにという事だったのですが… その件はどうなりました?」
「え? あ… それはもう少し検証が必要かな」
テネシーさんがぐるりとギルドマスターに顔を向ける
「すまん、言うの忘れてた」
「忘れてた? そうやって色々と隠してるんじゃないでしょうね?」
「他は大丈夫だ…………と思う」
何々?痴話喧嘩ですか? どんどんやりたまえ。
じろじろと2人の動向を凝視していると、見られているのに気づいたのか、2人はおもむろにこちらに向きを変えてきた。
「なんかごめんね? すぐに話の続きを」
「日を改めた方が良いのでは? 明日は迷宮に入るので3~4日後であればまたギルドに来ますけど」
「いや、この話だけは今日中にしなければいけないので付き合って欲しい」
そういやコアの話がまだ出ていませんね、まぁこのまま明日になれば私が触りますからね。金色の為ならそりゃあ頑張りますよ!
「まずは単刀直入に言わせてもらうわ、疑問点があればその都度聞いてほしい」
「はぁ」
「こちらの用件は、迷宮のコアを譲って欲しい… それだけよ。もちろん対価は出すわ、それでアリシアさんにどのような対価を出せばいいか思いつかないので、何か要求があれば聞きたいのよ」
「対価と言われましても、ソレにどれ程の価値があるのか分かりませんし、欲しいのであれば自力で取ればいいのではないかとも思いますし。そこら辺はどうなのですか?」
「迷宮コアの価値… それは正直に言って計り知れないのよね。過去の例を見ると、迷宮内を自由に行き来できるようになるとか、スタンピードを永久に止められるようになるとか、出現する魔物を自在に変えられるとか言われているから、簡単に言うと、1階層からブラックコカトリスを出現させる事も出来るし、最下層だけに出現させる事も出来る。 道中に強い魔物を配置して最下層に来られないように仕向けて、一般的に手に入らないようにすることもできる」
「なるほど、つまりコカトリスのお肉を独占する事が可能になる… という事ですね? コアの所有者であれば自由に行き来できるのですから、最下層の獲物であってもいつでも狩れるようになる…と」
「そうです、もちろん魔物を倒せるだけの力量は必要になりますが、コカトリスの肉の流通を完全に仕切る事が出来るようになるの。そうなれば、元々価値の高い肉の値段は高騰し、富に繋がるという訳ね」
ふむふむ、これは良い事を聞いたかもしれませんね。金色コカトリスを出現できるように設定すれば狩り放題なわけですね。
「もし本当にそうなのであれば、価値など付けようがないのではありませんか? ギルドとしてはスタンピードが起きなければ問題は無いのでしょう? それともこれを機に迷宮を利用した商売でも始めるつもりなんですか?」
「そんなつもりはないわ、こちらとしてはスタンピードを無くすというのは最優先事項。ついでに言えば、もっとコカトリスを狩りやすくして流通量を増やして、一般人にも食べられるようにしたいのよ」
「ふむ、そうでしたか。それであれば、譲るという話は断らさせてもらいましょうかね。スタンピードが起きないようにすればいいのでしょう? それはやっておきますよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。肉の流通の件はどうなる?」
黙って聞いていたギルドマスターが急に声をあげてきました、そんなにお肉が食べたいのでしょうか。気持ちは分かりますけど。
「もしもコカトリスを低階層に出るようにしたとしても、狩れるだけの力は変わりませんよね? 無駄な犠牲者が増えるだけなのでは? 現状でも30階層まで行ければ狩れるわけですし」
「それはもっともなんだが、30階層だと行き帰りに時間がかかり、肉の鮮度が落ちてしまうんだよ。そうなれば町の外に流通する事も出来なくてな… 何とかならないか?」
「そう言われましてもね… この迷宮で狩りをしている冒険者から反対が出ますよ? 20階とか25階層で狩ってる人なんかは特に」
「うーむ…」
ギルドマスターはお肉に目がくらんで、冒険者の事を考えてはいなかったようですね… 話が終わらなさそうなんですけど。




