その30
のんびり不定期連載です。
翌朝、迷宮内なので朝日を見ることは出来ませんが、時計を見ると6時になった頃合でした。
「さて、これから50階層を覗いてみて、金色がいるのであれば狩りましょう。ラスボスという事で一度きりの出現だというなら諦めて47階層まで降りて狩りますか」
今日の方針を決め、身支度をして朝食を取る。準備を万端に整えてから50階層に向かった…
「ふぅ、いませんか。なんというかがっかりですね」
50階層に着いて色々と動き回ってみたものの、一向に魔方陣が現れる気配は無く、30分ほど滞在してみたけど変化が無かったので撤収する事にした。
「1日じゃ復活しないという事なんでしょうかね、検証したい所ですが、こちらもいつお迎えが来るか分からないですからねぇ」
さすがに迷宮の理屈など知らないので、判断の付かない事は後回しにしましょう。今日は予定通りお肉を集めてから転移魔法で町に戻り、それから考えましょう。
それから夕方までみっちりと47階層で狩りをし、ブラックコカトリスの肉塊を400個程集めた所で終了させた。 戻る前にもう一度50階層を覗いたけどやはり何も起きなかった。
「うわっ、お、お疲れ様です」
「どうも、ギルドに行くので失礼しますね」
先日の職員さんがいました。いつもこの人しか見ませんが、時間帯で立つ人が決まっているんでしょうかね。まぁいいです、ギルドに行って面倒事を放り投げて来ましょう。私はこの世界では異世界人、責任ある行動なんてとれませんからね、報告だけして後は丸投げです! お肉も十分取れましたから満足です。
心残りがあるとすれば、あの金色コカトリスがどうなったかくらいですかね。
ギルドに着きました、夕方の良い時間ですので少し混んでいますね。受付に列が出来ていますが、先日お話しした受付嬢さんの所に並びましょうか。
あっ、目が合ったら顔を引きつりましたよ? 全く失礼ですね。
並んで待っていると、ギルド職員さんが私の所へやってきました。
「あの、アリシア様で間違いないでしょうか?」
「そうですが、何かありましたか?」
「ギルマスが呼んでいますので、こちらに来ていただきたいのですが」
「はぁ、まぁいいですけど」
あのまま並んでいても、後30分はかかりそうだったので、この話に乗る事にしました。魔石の買い取りはまだ出来ないらしいですから、ささっと報告して宿に戻りますかね。
案内されてギルドマスターの部屋までやってきた。相も変わらずゴチャっとした書類の山に隠れて仕事をしているようです。
「ああ、呼び出して悪かったね。先日頼むのを忘れてた事があってね、それを聞いてもらいたいんだ」
「内容によりますよ?」
「ブラックコカトリス、これはまだ仮名だが、間違いなくこの名称で決まると思う。そのブラックコカトリスの肉をだな… サンプルとして譲って欲しいんだ。これも今後値付けしなければいけないからな」
「自分で調理して食べましたが、通常のコカトリスのお肉の倍は美味しいと感じましたね。油も少なくさっぱりしていて、スープに入れて良し、焼いても良しの万能食材でした」
「ほほぅ、それで… ストックの方はあるのかい? 是非肉をここに」
「いえ、今のレビューで判断していただけませんか?価値も倍で大丈夫だと思いますよ?」
「いやいやいや、やはり我らでも食べてみて判断しないとだな」
「全く我儘ですね、40階層以降で出現する魔物のドロップを譲れとか、冒険者を馬鹿にしているんですか?」
「あ、もちろん対価は出すよ、俺のポケットからね!」
「あ、そういえば報告があるんでした」
「ぐぬ、話を逸らさないで欲しいんだが? 一応調査という名目もあるから肉塊1個で金貨2枚で何とか納得してもらえないだろうか」
ふむ、せっかく話を逸らしたのに戻されましたね、なかなかの執念です。お肉1個で金貨2枚ですか… そういえば通常のコカトリスのお肉の値段も知りませんでしたね、これは確認しておかないといけません。
「普通のコカトリスのお値段はどれくらいなのですか?」
「う… 金貨1枚と大銀貨5枚だ…」
「なるほど、倍だと言ってあるのにその程度で済まそうという事ですね?」
「だから! 値付けのためのお試しなんだ! これでなんとか納得してくれ!」
なにやら語気が荒くなってきましたね。仕方ありません、今日の所はそれで手を打ってあげましょう。
収納からブラックコカトリスのお肉を1個出します。見事な艶を見せている肉塊に、ギルドマスターの目は釘付けになっています。
もしかして、個人のお金を出すと言っていましたが、1人で食べるつもりなのでしょうか?
「調査… なんですよね?」
「もちろんだとも! これは持ち帰ってじっくりと調査しないとな! 金貨2枚だ、ありがとう!」
ははーん、これはただ単にお肉が食べたかっただけのようですね。まぁこのお肉は美味しいですから分かりますが。
「忘れる所でした、今度こそ報告を」
「ああ、何か問題でもあったのか?」
「昨日迷宮の50階層に到達しました。どうやらそこが終点のようだったので報告をと思いまして」
「え? 踏破… しちゃったって事か?」
「どうやらそのようです。金色のコカトリスを倒して奥の部屋に行ったら大きな水晶が置いてありました」
「その水晶はどうした? 何か触ったりしたのか?」
「いいえ? 特に何もしないで出てきましたけど。アレが何か知っているのですか?」
「ああ、多分その水晶はコアと呼ばれる物だろう。踏破者が触れる事によって所有権が得られると言われている」
「言われている… ですか」
「ああ、これはギルドでも機密事項なんでな、詳しく話す事が出来ないんだが、水晶に触れていないなら何も起こっていないだろう」
「所有者になるとどんな事が?」
「さっきも言ったが機密事項なんだ」
「そうですか」
ふむ、なにやら面白そうですね。所有者になればあの迷宮をいじったりできるのでしょうか、もしそうなら… 金色を乱獲できるかもしれませんね。
あのお肉を取れる可能性を見つけたからか、頬が緩んでしまっていたようです。もうニッコニコですよ!
「では、報告は以上です。私は明日も迷宮に入りますので失礼しますね」
「待て、水晶に触れたらだめだからな?」
「いえいえ、もしかしたら昨日触っていたのかもしれません。ふふっ」
変なことを言われる前に素早い動きでギルドマスターの部屋を退室します。50階層の様子はしっかりと覚えていますから転移魔法で行けますからね、なんだか楽しみですね。
まずは宿に戻ってお風呂にしましょう。




