その12
のんびり不定期連載です。
─城塞都市ビター─
ドラゴンを主軸とした魔物に対する掃討作戦が始まった。作戦というにはゴリ押しすぎる気がしないでもないが、ドラゴンを自在に操る事が出来るのだからゴリ押しでも十分に機能する。遠くから威圧的なドラゴンの咆哮も時々聞こえてきたりもしているので、ビターに住む住民もビクビクしながら地下壕から出てきたところだ。
「辺境伯様、王都より使者が来ております」
「王都から? 連れて来てくれ」
現れたのは、革の鎧を急所部分にのみ装着した軽装で、いかにも速度重視の様相をした男だった。
「突然の訪問で失礼いたしました。陛下からの命令書を預かっております」
「陛下からの? 承知した、こちらからも報告したい件があるのでしばし待たれよ」
使者を待たせて命令書を広げてみた。
そこに書かれていたことは、ロゼ王国からの通達と、使徒であるアリシアという女性の討伐の邪魔をしない事、もし遭遇する事が出来た場合、出来る限りの協力をして国の名を売る事などが書かれていた。
(ふむ、この命令書よりも使徒殿が早く着いてしまったという訳だったか。まぁ少女だったとはいえ、あれほどのドラゴンを従えている者に喧嘩を売れるわけがないから丁重に扱ったが、功を奏したようだな。しかし異世界の公爵令嬢であったか… 失礼をしたつもりはないが)
「使者殿、命令書の中身は存じておるのか?」
「はい、大体ですが」
「そうか、この使徒殿にはもう会っているぞ」
「なんですと?本当ですか?」
「ああ、しかし大丈夫だ、無礼な扱いはしておらん」
「そうでしたか… どのような方だったのですか?」
「見た感じは上品な少女といった風だったが、真っ白なドラゴンを従えていてな… 正直言ってアレに無礼を働ける者などいない…と思う」
「ドラゴン…ですか?」
使者の顔色が変わる、まぁ仕方あるまい。ドラゴンなど伝説の生き物だからな、聞いた事はあっても見た事は無い、そういった部類の魔物だ。
「では、急ぎ王都に戻ってもらい陛下に伝えてくれ。真っ白のドラゴンは使徒殿の従魔であると、決して怒らせることなかれと」
「承知いたしました」
「現在は森の中にいる異界の魔物達を東へ追い立てているはずだ、うっかり近づくと巻き添えを喰らいそうだからな」
「急ぎ戻ります!」
「よろしく頼む」
急を要するため、我が領から屈強な馬と水と食料を用意し、休む間もなく旅立ってもらった。
「しかし危なかったな… ドラゴンが居なかったら小娘だと思って侮っていたかもしれん」
運が良かった… 城塞都市ビターが助かった事も、使徒殿の策に協力する事が出来た事も含めて、まだまだ俺も捨てたもんじゃないかもしれんな。
辺境伯は安堵の息を吐いて、ソファーに身を沈めた。
─ショコラ王国城塞都市ビター南方の森─
「ハクは良い仕事をしているようですね、魔物はおろか小動物の類も見当たりません」
ハクが追い込みを始めてから森に侵入しましたが、本当に何も気配は感じられない状況です。鳥の囀りですら聞こえてきません、都合は良いのですがなんとも寂しい気分になります。
「それでは私も異界との接点を探しますか、早く帰りたいですからね」
全身に身体強化をかけて森の中を走ります、広範囲の魔法探知を適度に使い捜索していますが…
「しかしこの森、案外と広いですね… 異界との接点、特異点と言うべきでしょうか、あるとすれば中心部辺りなんでしょうかね。 これは空から探した方が早いかもしれませんね」
そう思い立つとすぐに飛行魔法を発動し、枝の隙間を抜けて上空へと飛び出します。
そして見た物は…
「はぁ…どこまでも森が広がっていますね。あ、火山帯とはアレの事でしょうか、これまた随分と遠そうですね…」
思ってたよりもずっと広大な森林、探すのは大変でしょうがやるしかありません。できれば今日中に発見して、これ以上魔物が出てこないように魔法障壁を張っておきたい所です。
走るよりもはるかに高速で移動できるため、一度西側の端まで行ってから、見落としの無いように調査しましょう。こまめに探知魔法を使いながら東へと移動し、日が随分と傾いてきた辺りで、魔法探知に違和感を感じました。
「なんだか嫌な感じがしますね、恐らく当たりではないでしょうか」
日が暮れる前に見つかってよかったと思う反面、なんとも不愉快な魔力をまき散らしてる場所に行くのが嫌だと思う心。
「コレを表現できる言葉が見つかりませんね… あえて言うならば『瘴気』と言った感じでしょうか、非常に不愉快であり不快感です」
だからといって放置する訳にもいかないので、現場に急行しましょう。
「これは…空間がひどく歪んでいますね」
ソコにあったソレは、直径3メートルくらいの球状で、ゆらゆらと歪んでいて先が見えなくなっていました。
「うーん、これは気持ち悪いですね。試しにレーザービームを撃ち込んでみましょうか」
ソレに向かって人差し指を突き出し、魔力を込めます。
「とやーっ!」
いつも通りの気が抜けるような気合いと共にレーザービームが放たれ、球状のアレに直撃…したはずです。
「貫通はしてないようですね、やはりこれが特異点で間違いなさそうです。アマンダ様からの神託はまだありませんので、とりあえず魔法障壁で蓋をしちゃいましょう」
途中で気が緩んでも大丈夫なように、ソレの周囲に収納から魔石をばら撒きます。 そして魔石を媒体にして魔法障壁を展開し、後はアマンダ様からの指示待ちという事で一息つけそうですね。
しかし、いくら媒体を使って障壁を張ったからといっても、ここから離れる訳にもいかなくなりました。多分ですけど、ハクを召喚したためにアマンダ様の魔力が足りなくなって顕現できない…そんな気がしますね。
仕方ありません、ここをキャンプ地とするしかないようです。食料はまだ大丈夫だと思いますが、ハクが戻ってきたらビターの町にでもお使いを頼みましょう。 ビターの町ならハクの姿を一度見ているのできっと大丈夫でしょう… きっと。




