その7
のんびり不定期連載です。
─ロゼ王国王城─
「そうか、1人で行ってしまったか。我が国も討伐に1枚噛みたかったのだが、これでは仕方がないのぅ」
ロゼ王は右手で額を抑えながらそう言った。支援も協力も断られてしまっては、使徒が討伐を完了した際に国の名を上げるための工作をする事が出来ない。
創造神の怒りに触れれば、使徒の祖国でさえ滅んだと聞かされれば、使徒が元の世界に帰ったとしても捏造する訳にもいかない、この世界にも創造神アマンダがいるからだ。
「まぁよい、創造神アマンダ様の神託を聞き、異世界より使徒アリシア殿を召喚したのは間違いなく我が国なのだ、この線で行くことにするか」
「はっ、アマンダ様の耳に入っても大丈夫なよう噂を流してまいります」
「うむ」
報告に来ていた騎士ボルドーが王の執務室から出て行った。
「嘘はついていないし誇張もしていない、しかし世界を救う一端を担っている事は間違いなく我が国であるのだ、多少なれど我が国の立場も名声も上がるであろう」
まだ討伐が始まってもいないのに皮算用を始めるロゼ王なのであった。
─ロゼ王国南方、国境付近─
「さて、昼食にしましょう。野菜とハムのサラダでいいですね、手間もかからないですし」
ボルドー様を振り切ってから空路で南方に飛び、地図に書いてあった隣国であるガトー王国との国境付近で休憩を取っています。
急ぎたいのは山々ですが、連絡が行き届かないのに動き回ると面倒になりかねません。ガトー王国の王侯貴族に付きまとわれたりとか、魔物が発生している国、ショコラ王国にも警戒が必要です。
なにせ彼らにとっては非常事態真っ最中なわけですから、そこに私がビシバシと討伐していたら… まぁ安全のために囲いたくなるものでしょう。
聞けば、アマンダ様からの神託はロゼ王国のみに出されたようで、他国の人は私が違う世界から呼び出されたことを知らないみたいです。 まぁ、この世界全体に神託を出していれば、今頃きっとたくさんの聖女とやらが現れていたでしょうね。
そんな偽物が蔓延って悪さをしたんじゃ、本物に対する風当たりもひどいものになってしまうので、多分それが正しかったのでしょう。
さて、食事も済みましたし動き出すとしましょうか。
まずは魔物の発生地点と思われるショコラ王国に向かいつつ、道中感知できればその都度討伐をする。
「レーザービームは強力すぎるので、大物以外は封印しましょう。異界の魔物が相手なので、接近戦も正直やりたくないですし、ここはビームライフル1択ですかね」
ビームライフルも改良を重ね、射程の調整はもちろん、任意で消す事も可能なので、地形に与える影響は激減したと言っていいでしょう。
欠点としては、任意で消せると言っても射速がレーザービーム並みに速いので、多少は大地に穴をあけたりしちゃいます…
本当は形から入りたくて、ライフル形状の魔導具を作ろうとしたんですが、どうも記憶があやふやでパっとしない物しか出来なくて諦めました。 なのでレーザービーム同様、人差し指から発射されています、これはこれで気に入ってはいるんですが。
広範囲に探知魔法をかけながら、フラフラと上空を飛んでいると、早速探知しました! 第1魔物発見です!
現場に急行し、上空から見てみると…
「あれはオークなのでしょうか? 私がダンジョンで狩ってたのとは少し大きいですね」
見た目はオークなのですが、色が黒く、身長は2メートルを軽く超えるくらいあります。 単独で動いてますので狩ってしまいましょう、お肉は食べれるのでしょうか?
人差し指で狙いを定め、一筋の光の射線が走ります。 残念ながら音は出ませんが、頭部に命中して倒れてくれました。
「一応収納しておきましょう、食べれるのであれば、食糧難に陥ってる集落にでも置いて行きましょう」
それからも、サーチ&デストロイを繰り返しつつ南下していきました。
─ガトー王国王城─
「陛下、ロゼ王国から使者が参っています。緊急のようで、ロゼ王からの親書を持ってまいりました」
「そうか、親書を見せてみろ。 使者には見てから会うと伝えろ」
「承知しました」
ガトー王は親書を受け取り中を確認する
「なんだと? これは本当なのか? よし、今すぐ使者と謁見するから呼んでまいれ」
「急な要請にもかかわらず、謁見の場を整えて下さったことに感謝します。ロゼ王国第3王子のボジョレーと申します」
「うむ、第3王子が自ら使者として参られたのだ、事の重大さはよく理解した。 しかしこれは本当の事なのか? 俄かには信じられないのだが」
「まことでございます。我が国としても最上級の支援をと考えていますが、何より使徒様が要望なされたのが、円滑に行動できる体制だったのです」
「そうであるか、そうとなれば我が国も支援を惜しむつもりはない。すぐに使徒殿の邪魔をしないよう通達を出そう、できれば我が城に来ていただいて面通しをしてもらいたい所なのだが?」
「使徒様はすでに単独で討伐に向かわれております、どこかで遭遇するしか連絡のしようがない状況です。 私はこの後ショコラ王国に向かいまして、同様の要請をしなければいけませんので、使徒様にお会いできるとすればその時でないかと」
「うーむ、連絡が取れないというならば仕方がないな。 委細承知した、何かあればすぐに情報を送って欲しいとロゼ王にも伝えてくれ」
「はっ、本日はありがとうございました」
慌しい謁見を終え、ボジョレー王子は王城を出た
「殿下、いかがでしたか?」
「うむ、ガトー王は惜しみない支援を約束してくださった。 今日は休んで疲れを取り、明日からまたショコラ王国まで旅となる、準備を怠らないよう進めろ」
「はっ」
王城からは馬車に乗り、部下が手配していた宿に入っていったのだった。
「しかし、単独で魔物どもと戦えるほどの戦力を持ち、あれほどの美貌も兼ね備えているとなれば、兄上でなくとも手に入れたくなるのは理解できるが… どうにかできぬものか考えてみるか」
ボジョレーは部屋で1人、笑みを浮かべるのであった。




