その5
のんびり不定期連載です。
─フローラ自治区、孤児院─
「なかなか帰ってきませんね、期間はどれくらいとか言ってました?」
「オークションなので日程は読めないと聞いてます」
「そうなんですか、院長がいないと寂しいですね」
「ええ…」
副院長のエミリアと防衛、護衛部署の責任者となっているキャシーが夕日を見ながら黄昏ていた。
立ち上げの時から2年半、毎日一緒に働き、遊び、お風呂にも入ったりもしていたアリシアと、こんなに離れた事は初めての事だった。
なんでも魔法で解決しようとゴリ押しする事も多々あったが、農業の事や料理の事、あらゆる事に精通している(ように見える)アリシアに対して日々尊敬の念を抱いていた。出会った頃は美しいながらも可愛らしさを残していたが、18歳になった今は、女神様かと思う程高貴なオーラを放つ存在になっていた。
「院長の姿が見れないなんて…気力が沸きませんよね」
「わかりますが、帰ってきた院長に失望されたくはないでしょう?」
「確かにそうですね、よし! それでは見回りいってきます!」
「はい、気を付けて」
旧王都の住人達もアリシアの庇護下に入りたがっていたが、アリシアはこれを拒否した。民主主義で町の責任者を決め、クリーンな町の発展を務めるようにと声をかけていた。
現在の旧王都は、加護を失っていない平民出の騎士達が中心となり町の警備を、冒険者ギルドと商業ギルドが共同で財政管理をしている。この部署に孤児院からマーラが代表で出向しているが、通勤できるギリギリの距離との事で、毎日仕事が終わると孤児院に帰ってきている。
クーデターが起こった当時の冒険者ギルドのマスターとサブマスターは、本部からやってきた粛清部隊に拘束され、家族もろともカムリ王国にある本部まで連行されていったという事で、現在のギルドマスターは別の者が務めている。元ギルド職員のキャシーがたまに派遣として出向して汚職などが無いかチェックしているのだった。
そろそろ夕食の時間、外に働きに出ていた孤児達も帰って来て準備を手伝い席に着く
「それでは皆揃いましたね? 大地の恵みとアリシア様に感謝を」
「「「「感謝を!!」」」」
─ロゼ王国─
王城の端にある塔に向かって歩いている人影があった、ロゼ王国の第1王女であるローズであった。
当の最上階には兄であるアレクが幽閉されているので面会しに向かっている所だ。
最上階に着き、鉄格子で塞がれた部屋の中で座るアレクと対峙する。元々高貴な罪人を収容するための場所なので、地下牢のようにじめじめと不潔な空気は感じられないが、あらゆる魔道具を用いて、これでもか! という程対魔法対策をされている部屋だ。
「本当にとんでもない事をしてくれましたねお兄様、いえ、もう兄ではなかったのでしたね」
「ローズか… 父上にここから出してくれるよう口添えをしてくれ、俺はこの国ためにと思って…」
「お黙り下さい、よりにもよってアマンダ様が連れて来てくれた方に対して暴言を吐くなど、何を取ってもこの国のためになどなりません。むしろこの国を滅ぼすための行動と言ってもいいでしょう、全くどの口が国の為などと戯言を言うんでしょうね」
「国の為になるだろう! 聖女を自在に差配できるようになれば、我が国は世界一の国家となれるのだぞ!」
「呆れてものも言えませんね、貴方に甘かった父上もさすがに今回の事は許せなかったのでしょう。けれど安心しました、このような失態を犯した貴方がこのまま王位に就くなんて事があれば、私を含めて兄弟姉妹全員でクーデターを起こしてましたよ」
「なんだと? なぜ俺の大義を理解できない?」
「これはもう駄目ですね、幽閉ですら甘い、処刑すべきだと父上に進言いたしましょう。それではさようなら、もう永遠に会う事もないでしょう」
ローズはそう言い残すと、振り返る事も無く去っていった。
「なぜ誰もわからんのだ、創造神アマンダに力があるのならば、すでに魔物対策は終わっているはずだろう。それが終わっていないという事はアマンダに力が無いという事だ、恐れる事など何もないというのに」
アレクが口にするが、見張りの兵は返事をする事は無かった。
─ロゼ王国、王城客間─
一晩が過ぎ、朝食も頂いてそろそろ午前10時だという時間なのに、アリシアはベッドに転がっていた。
公爵家を出てからすでに3年以上が経過し、孤児院を立ち上げてから2年半…体に染みついている貴族としての習慣もかなり残っているが、子供達の面倒を見たり、一緒にお昼寝をしたりと、その行動は庶民的な物に近づいていた。
しかし、ノックの音が聞こえ、堕落した時間は終焉を迎えたのだった。
「アリシア様、謁見の準備が整いましたのでお迎えに上がりました」
「わかりました、こちらはいつでも大丈夫です」
「ありがとうございます。謁見は城内の会議室で行いますのでご案内します」
クノール様が先導してくれるので、それについて行きます。
歩く事10分ほど、このお城も迷路のような造りになっています。これは世界を跨いでも常識として通用するんですね、とはいえ、やはりただの通行人としては面倒な造りです。
案内された部屋に入ると、そこには王冠をかぶった壮年の男性、この方が王様ですね。隣には美しいご婦人、多分王妃様なのでしょう。それにアレク殿下とそっくりな青年に、似たような面影のある女性がいました。
こういった場にいるという事は、恐らく王位継承権の高い第2王子と第1王女と言った感じでしょうかね。
「ようこそ我が国ロゼ王国へ、儂がこの国の王である」
「お初にお目にかかります。違う世界ですが、フローラ自治区の長を務めておりますアリシア・フォン・フェブリーと申します」
「自治区の長? 公爵家の者だと聞いておったが」
「私の祖国は、実家の公爵家も含めて創造神であるフローラ様の御不興を買ってしまい、滅びました。その後、亡国となった土地の一部を私が管理しております」
「そうであったか…国が滅んでしまうとは恐ろしい事だ」
「私は使徒としてのお勤めがあり、その地を離れていたので詳細は知りませんが、選民意識が強すぎたため、王侯貴族に滅ぶ原因があったのだと思います」
さり気なく創造神様を蔑ろにすると痛い目に遭うと教えてあげる私は優しいですね、まぁ面倒な事を企まないようにするための先制パンチである訳ですが。
さぁ、どう出ますか? この国の王様は…




