29話
のんびり不定期連載です
辺境伯領領都中心街
「おい、宿屋の前にあった映像を見たか?あの宿、悪い噂があったけどありゃひどいな」
「ついさっき衛兵が来て宿の者全員捕まえて連れていったから少しは良くなるんじゃないか?この町も」
「しかし…声しか残っていなかったけど、恐ろしい嬢ちゃんもいるもんなんだな、あのマッチョに武器を持った奴を瞬殺していたぞ」
「声は良かったよな、可愛い感じがして。でも言葉遣いからして貴族の令嬢なんだろうな」
「貴族家のお嬢さんは戦えるのか…見た目に騙されてうっかり手を出せばこうなるって事か、怖い怖い」
先ほど上映開始した記録映像はすぐに話題になり、見物するやじ馬でごった返すほどになっていた。町の警備を担当している衛兵が辿り着いた時も、宿で暴力を働こうとしていた男達は気を失ったままで、そのまま捕縛され連行されていったのだ。
野次馬をしていた男達の関心はすでにアリシアに向いており、顔は写っていなかったため特定はされなかったが、その俊敏な動きと蹴り足、そして危険に晒された状態なのに落ち着いた声と喋り方、きっと美少女に違いない!と、何やら妄想は膨らんでいるようだった
そしてこの出来事はすぐに他の宿屋も知る事になった。中心部に高級宿として店を構えていた店主の男も、記録映像を見に行って、そして確信した
「この声…先ほどやってきた女性客だ。これはいつも以上に丁重に扱わなければうちの宿も巻き添えになりかねんな」
くわばらくわばらと、その場を去っていく高級宿屋の店主が呟いた一言を聞いていた者は誰もいなかった
2軒目の高級宿の浴場
「ふぅ~なんとかお風呂に入る事が出来ましたね、満足です」
湯船に身を沈めて目を瞑り、まったりとしていたがふと思いついた。
「フローラ様いらっしゃるでしょうか?」
『うむ、ここにいるぞ』
「先ほどの男性2人なんですが、神託無しでこっそりと加護を剥奪することは出来ますか?」
『ああ、我が愛し子にボコられた哀れなゴミどもの事か?あの者らはとっくに加護を剥奪しておるぞ?』
「早いですね!そしてボコるなんて言葉を知っているなんて!」
『上位の竜種を瞬殺する我が愛し子に挑むなど、人間種ではなく魔物に近かったのだろう。そのような者に我が加護を与えるなどあり得ぬ』
「ですよねー」
あのような者が、仮にも高級宿を営んでいるとは思いもしませんでしたし、私以外にも過去には被害者がいたのかと思うと当然の罰でしょう。なにやら動きが手慣れてそうでしたからね
「それでは今日はもう休みます」
『うむ、ゆっくりするがよいぞ』
「お休みなさいませ」
一悶着はありましたが、これで今日はゆっくり休めそうですね。ちなみにこの宿、1泊金貨1枚と銀貨5枚でした。倍の宿泊料でボッタくろうとしていたのですね、しかしそう考えるとアホな人達でしたね。
普通の値段で泊めさせて、食事に一服盛るとか寝静まった頃に捕獲に動くとか考えられなかったのでしょうか。まぁ犯罪に関しても現代知識の方が上だったという事でしょうか、この世界の人が知らなくてよかったのかもしれませんね。
備え付けのベッドにクリーンの魔法をかけ、仕上げに魔法障壁を張り眠る事にした
一方その頃、衛兵に連れていかれたマッチョとフロントマンの意識は戻っており、軽く拷問されたら即座にアレコレと喋り出し、宿屋の地下部分に白骨化した複数人分の死体が発見され、その場で極刑が決定されていた。もちろんその事がアリシアの耳に入る事は無かった
翌朝、宿屋の店主に孤児院について聞き込みをし、場所を教えてもらって向かう事にした。 そこでもいつものようにオークをまるまる1頭寄付し、野菜とともに煮込んだスープで子供達のお腹を満たさせる事が出来た。
そして、さすがは辺境とあって、孤児院の職員さん達は、出されたオークにひるむ事も無く解体し、保存食まであっという間に作業を分担し、片付けていったのだった。
「この町の孤児院は職員さんまでもが逞しいですね。さて、あまりゆっくりした気はしませんが、西へ進むとしましょうか。新たな目標として、浴槽を作れる職人さんを探す事!これも踏まえて行きましょう。とりあえず商業ギルドに聞いてみるのが良いかもしれませんね」
この町に長居する気は全く起きないので、次以降の町でと心に決め、町を出たのだった
ガーナ王国王城内
「陛下!フェブリー公爵領で発生した大規模なクーデターによって、現当主以外の公爵家の者が捕縛されたとの報告が来ています」
「くそぅ公爵め、いったい何をやっておるのだ。もういい構うな、公爵家は見捨てろ!それよりも王都で同じようなクーデターが起こらないよう気を配るのだ。加護を持っている冒険者も雇い入れて城の警備に回せ」
「ははっ」
ガーナ王国の貴族は選民意識が非常に高く、平民に対して残虐とも言えるような政治を行なっていたため、元々民衆からは嫌われていた。そこへ先日の事件で国中の貴族が加護を失い、それと共に物理的な力も失ってしまったために、国内あちこちで暴動が起こっていた。
身体強化が使えなくなった騎士は重い鎧を着る事が出来ず、強い魔法の力で民を支配していた貴族達は魔法が使えなくなる、そうなれば当然弱くとも加護を持っている農民の方が力が強くなり、反旗を翻して貴族家に襲い掛かっていったのだ。
町によってさまざまだが、貴族家がまとめて処刑されるようなことも多々あったという。
国民たちは貴族家に対しては日頃の鬱憤もあり盛大に攻撃していたが、先日聞いた創造神フローラの神託によってその存在を再確認し、貴族家の食糧庫から奪った物は、平等に民達で分けたという
悪政を敷いていた貴族家はこの暴動に恐れをなし、多少の金貨と食料を持って逃げだすものも多数いたが、王都に限ってはいまだに暴動は起きてなく、それでも4箇所ある門は民衆に抑えられている状況だったので時間の問題だった。
王都に屋敷を持つ貴族家の大半はすでに王城へ避難しており、雇われていた使用人は残された物資を持って逃げているため、すでに空き家となったものばかり、そういった家に入り込んで残された物資を盗んでいく者達と、そのまま貴族の家に住み着く者達によって王都はどんどん荒れていくのであった
「陛下、このまま籠城していても食料がいつまで持つか…」
「最悪爵位の低いものは放り出すしかあるまい、爵位が高くても無能な者もな」
ガーナ王国崩壊へのカウントダウンはすでに始まっていた




