第44話
誤字報告いつもありがとうございます。
あれから30分ほど経ったでしょうか、押し寄せる魔物は全滅し、ドロップの山も綺麗に拾い上げてお姉様が収納してしまいました。
そんなお姉様のお顔は… 満面の笑みをたたえています。普段あまり表情を変えないお姉様の満面の笑み… これはある意味貴重なシーンですね!
「さて、この迷宮が何階層あるのかは知りませんが、きっとまだまだ深層の魔物がやって来るでしょう。今日はこの場で待機し、落ち着いたと感じたら降りていきましょうか。
なのでまずはお風呂ですね! 一応先ほどよりも強固な障壁を張っておきましょう」
「ええ? お風呂に入ってしまうのですか? ですがスタンピード中ですよ?」
「大丈夫です! 私が本気で張った障壁は、過去グリーンドラゴンのブレスを完璧に防いだという実績がありますので!」
「は、はぁ…」
そうは言われましても… ドラゴンですらハク様以外に見た事ありませんし、そのブレスがどれ程の物であるかなんて想像もつかないのですが。
ですがまぁ、お姉様がそう言うのですからきっと大丈夫なんでしょうね。問題は! 魔物がいるのにお風呂で落ち着けるかという事だと思うんですけど!
しかし、私の思いはお姉様には通じず、上へと昇る階段の方と魔物がやって来る直線通路の方に色の濃い障壁を展開してしまいました。ええ、確かにこれだけ濃い障壁だと内側は見えませんね、分かってます。
お風呂が大好きであるお姉様を止める事は私には出来ませんので、ここは大人しく追随するとしましょうか。いつもながら迷宮の通路で服を脱ぎ、お風呂に入るという事には慣れませんが、お風呂自体は私も好きなので仕方がありませんよね。
そしてお姉様は、元とはいえ公爵家の令嬢だったと聞いているのですが、こういった場合では躊躇なくスパっと服を脱ぎ裸になってしまいます… 少しは恥じらいというやつをですね、学んだ方がよろしいかと存じます。
などという葛藤など無かったかのようにお風呂が済み、私もスッキリとして大満足です。
今日は冒険者のいない階層を目指して結構な距離を歩きましたからね、やはり汗ばんでいたのでは気になって眠れませんよね。
そもそも迷宮内で、しかもスタンピード中に眠るという行為自体がおかしい事なのですが、何と言いますか、もう諦めました。
寝不足は美容に悪いという事は私でも知っている事ですが、旅の途中であったり迷宮探索中であれば普通は快眠そのものを諦める物なのですが、お姉様は違うようです。
「ではミルフィ、先にベッドに入っていてくださいね。私は障壁の向こうにいる魔物をちょっと掃除してきます… そうすればゆっくり眠れますから」
「は、はい」
そう言い残し、障壁の向こう側へ行ってしまいました。
お姉様であれば不覚を取る事なんて無いと思いますが、どうして私だけ先にベッドなんでしょうかね。もしかして温めておくとかそういった任務なのでしょうか? 寝間着用の衣服に着替えてするりとベッドへ潜り込みながら考えます。
ですが… ふぅ、日頃の習慣なのでしょうか、なんだかとっても眠くなってきましたね。何度も言いますがここは迷宮内であり、更にはスタンピード中なのです。
以前お姉様とパスタ王国にあるミート迷宮を探索した時もこうして迷宮内で何泊かしましたが、今回のような緊張感はありませんでしたよね… でも、この緊張感の中でさえお姉様が張った障壁の中にいると安心してしまいます。
私にもこれ程の障壁が張れる日が来るのでしょうか? どちらにせよまだまだ修行が足りていません、何もかもこれからなのです。
あー…、目が勝手に閉じてしまいます… まだお姉様が戻ってきていないのに…
一方その頃、スタンピードでの魔物の動きを観察する役目を請け負っていた冒険者が、カッポウの町の防壁の上から迷宮の方をずっと見ていた。
「おい、なんか今回の… おかしくないか?」
「ああ、もう夜だというのにほとんど魔物が出てきていないな。さっき海まで通り抜けていった魔物は少数だったし、浅層の魔物ばかりだったよな?」
「前回のスタンピードの時は数万と言われるほどの魔物が出てきたって話だからな… しかも深層にしかいない強力な奴とかも」
「俺も前回のスタンピードについては話に聞いただけで、直接現場にいた訳じゃないから詳しくは知らないが、こんな時もあるって事なんじゃないか?」
「うーん… 過去に起きたスタンピードについてはギルドで詳細に記録されているはずだが、こんなに少ない記述は無かったように思えるな。なんかヤバい厄災の前触れかもしれない、一応サブマスの耳に入れておいた方が良さそうだな。ちょっとギルドに行ってくるから後は頼むぜ」
「了解した。全然魔物が出て来ていないからこっちは楽勝だけどな」
「まぁそう言うな、サボってたなんて言われて報酬を値切られたんじゃたまらんからな」
「全くだ、ギルマスはそう言うところセコいからな」
仲間に後を任して防壁を降り、ギルドへと向かう冒険者。
町に住む住民はほとんどが避難済みなので、町の中は真っ暗だし物音も全然無い状況だ。これが高級宿とか貴族の邸宅であれば居残りの者がいるんだろうが、平民街ではそんな者はいないのだ。
なんならこのまま火事場泥棒よろしく家探ししたって構わないのだが、そんな事で今後の人生を棒に振るなんて雑魚のやる事だ、少なくともBランク冒険者である俺がやっていい行動ではない。
「………、という訳だ。通り抜けていった魔物の数はせいぜい数百で、おそらく500体未満だと思われるが… どうする? サブマス」
「ふむ… 確かにそれはおかしいな。前回のスタンピードでは悍ましい程の数の魔物が海に向けて通り抜けていったのだが、過去の記録を見てもそんな事は書いていない。確かに怪しい兆候だと言えるな」
「だろう? そう思って報告に来たんだ。一応残っている者が今も見守っているが、魔物が出てくる気配は全然無いとだけ言っておく」
「ふむ… 仕方あるまい、こっちでも対策を考えておく。一応ギルマスにも伝令を出した方が良いかもしれないな… よし、お前は戻って引き続き観察を続けろ。異変があれば今回のように報告をする事」
「おう、了解したぜ」
「分かっていると思うが、間違っても確認しようと迷宮に近づくなんてことはするなよ? 無駄な被害を出すと領主にこってり絞られてしまうからな」
「ああ、俺らだって無駄な事はしないさ。単体の魔物ならともかく群れを成してるところに飛び込むなんざ馬鹿のやる事だぜ」
報告が終わったので先ほどの場所へと戻っていく。
むしろこのままで終わってくれれば万々歳なんだがな… スタンピードの後、数年は漁に出られなくなるからな。




