その125
誤字報告いつもありがとうございます。
さてさて、ビターの町に到着してからは、流れるようにガナシュ代官のお屋敷まで移動しましたけれど… 私はどうすればいいのですかね? この町の高級宿にお風呂がある事は知っていますから、出来る事なら部屋を押さえに行きたいのですけど。
「この馬鹿もんがー!!」
「ひえぇぇ、申し訳ありませんでした!」
あらあら、温厚そうに見えていた代官様がキレているようですね… まぁこればかりは家出したミルフィが取らなければいけない責任ですので、甘んじて受けてくださいね。
代官様の放つ怒りのオーラが、付近にいる従者たちにも伝播しているようで、皆さんビシっと姿勢を正して直立しています。
しかし、私も早く動きたいので空気を読まずに声をかけてしまいましょう。
「あの、私は宿に部屋を取りに行くので、代官様とミルフィの様子が落ち着いたらお伝え願えますか?」
一番近くにいた侍女さんにそう声をかけ、返事を言う暇も与えずにさっと身を翻して屋敷から出ようと…
「アリシア様? お疲れでしょうからすぐに部屋の用意をさせますわ。それと…浮遊の魔道具についてお話がしたいのですが…」
「カラメル様… あの魔道具は取り付けたままで良いですよ?」
「はい、それには感謝いたしますが… 魔石のコスト面についてお話を…」
「なるほど、確かにそれは重要な案件ですね。わかりました」
カラメル様に捕まってしまいました。
宿ならともかく、他家の屋敷にお泊りすると… どうしても受け身にならざる得ないんですよね、食事のタイミングであったり、ガナシュ家に来た来客と会わせられたりとか… まぁさすがにそこまで面倒なことは無いと思いますが、お一人様が板についてしまっているので、宿屋のベッドで転がっていたいのです。
「アリシア様の13歳の頃はどんな感じだったのですか?」
「13歳の時…ですか」
旅の疲れを癒すためという名目で、すでに与えられた部屋でまったりとしていたのですが… なぜかそこにミルフィが突撃してきたのです。
そしてパジャマパーティのように2人でベッドの上での語り合いが始まっていたのでした。
「その頃は王太子殿下の婚約者として王妃教育に邁進していた頃ですかね、私自身は婚約なんて嫌だったのですが、公爵家の長女として押し付けられてましたので」
「王太子殿下の婚約者だったんですか!? …あれ? だった?」
「ええ、まるで物語のように現れた男爵令嬢にうつつを抜かした挙句に、これも物語かのように公衆の面前での婚約破棄をされましたね。その後私は… 貴族籍を剥奪されて国外追放となりました。」
「まぁ… なんという」
「それで、追放されてから私が創造神様の使徒だという事が分かり、創造神様の怒りを買った祖国は滅んでしまったのです。あ、もちろん滅んだのは王侯貴族のみで、国民が咎を受ける事はありませんでした」
「それはそれで物語のようですね。それで… 国の方はどうなったのですか?」
「私の故郷であるガーナ王国の名は消滅し、周辺にあった3つの国に併合されました。王都のあった土地だけは自治区として独立し、そこに私が経営する孤児院がありますね」
「孤児院ですか、アリシア様が不在となると大変でしょうね」
「いえ、多分大丈夫だと思いますよ。子供達も職員達もそれぞれ優秀でしたから、私自身も安心して任せられるほどの人達ですからね… とはいえ、不在にして迷惑をかけている事には変わりませんので、こちらでせっせとお土産になりそうなものを集めているのです」
なるほどーと言いながらお茶を飲むミルフィ、良く見たら部屋の中で控えている侍女さんも、なるほどーという顔をしています。
こうして口に出しながら過去を振り返ってみると… なかなか壮絶な生き方をしていますね、私も。よくよく考えてみれば、ドラゴン退治する令嬢なんてどこにもいませんからね。
「ですが、元婚約者であった王太子殿下も見る目が無かったんですね。アリシア様を相手に婚約破棄だなんて」
「ええ、元々なんですけど、頭も良くなかったですし、このような方が将来王になって大丈夫なのかと毎日が不安でしたね」
「でも、例え祖国が滅んでしまったと言っても、自業自得としか思えないのは何故なのでしょうか…」
「貴族至上主義が非常に強い国でしたから、どのみち長くは無かったような国だからじゃないでしょうかね。もちろん祖国が滅んだのは私のせいだとは思っていませんよ?」
侍女さんが新しく淹れてくれたお茶を飲む。
ええ、なんか結果的に祖国が滅んだけど私のせいじゃないよね? 自業自得の結果だよね? 思い出すだけ意味が無いと思いますので、過去を振り返るのはこの辺にしておきましょうか。
「それで… ミルフィは代官様と話し合いは済ませたのですか?」
「はい! カラメル様にも同席頂いて、お父様の説得に成功しております! 旅の疲れが癒えたらすぐにでも出られますよ!」
「そうですか、それならば私も代官様にご挨拶しておいた方が良いでしょうね。私もパスタ王国までの移動用に魔道具をと考えていますので、2~3日は滞在するつもりです、なのでゆっくりと疲れを癒してくださいね」
ベッドの上でゴロゴロとしていると、いつの間にやらミルフィが寝落ちしているじゃないですか… まぁ旅というのは疲れるものですからね、それに帰って来たという安心感もあったのでしょう。
侍女さんに後の事をお任せして、私は移動用の魔道具について考えるため、一度屋敷から外に出て、市場などを巡りに行きました。
「魔道具の事を考えるのに市場って… さすがに無いですよね。でも、せっかくなので買い物はしておきましょう!」
買い物を済ませ、ついでとばかりに門から町の外に出て、以前ハクが着地したと思われる足跡状の窪みを見学してみます。
「いっそハクを呼び寄せて飛んで運んでもらえばいいのでは? でもそれだと問題もあるのですよねぇ」
そう、ハクは氷を司るホワイトドラゴンなのです。その魔力は冷気に満ちていて、そこに存在しているだけで環境が変わってしまうほど寒い子なんです。
さすがに足扱いのためだけに呼び寄せたらグレちゃいますかね? ドラゴンの飛行能力であれば、多分1日あればパスタ王国についてしまうと思うんですよね… そうすると、耐寒装備で身を固めれば1日くらい耐えられるのでは? 一応町の近所に降り立つと大騒ぎになると思いますので、その辺も考慮しないといけませんが…
とりあえずお屋敷に戻って昼食でも頂きましょうか。




